再会を望んで
──翌朝。
前日夜の訪問にもかかわらず快く乗車を許してくれた商隊の船が目の前の船着き場に停泊している。
この村はこの川の中で最も海に近い船着き場になっており、川幅も非常に広い。
広い川幅にまるで都心の駅のホームのように人口の船着き場が列を成している。
なんでも、この人口の船着き場が海から遡上する大型の魔物を足止めしているのだという。
さて、そんな水路の砦ともなっている船着き場で、俺たちは何を揉めているのかというと。
「席をとれた乗合船だが、まずは三隻ある船のうち二隻に三人と一人に別れて乗ることになった。それとは別に、三人側のうち一人は荷台の空きスペースにとってつけたような木箱の椅子に座ることになる。ここまでは理解しただろうか」
俺たち、正確には俺とソフィアと『月夜見』は、まだ東の空から日が出ていない時刻からバチバチにやりあっているのだ。
「断固として木箱は嫌。身分を差し引いてもか弱い美少女賢者に木箱に座らせるなんて人じゃないわ」
「そんなものは俺も嫌だね。ついでに言うと、他の乗客と相席になる一人側も断らせてもらう」
夜遅くに商隊のお偉いさんに頭を下げて回ったのだ。
結果として、今回乗車を受け入れてくれた商隊を見つけたのはジョージさんだが、俺とて座席決め程度であれば美味しい思いをしていいのではないだろうか。
俺とソフィアの言い合いに、本日三度目のため息をついた『月夜見』が呆れたような口調で返す。
「それなら僕が木箱に座るしかないじゃないか。頼りになるとはいえ、年配のジョージに木箱に座れだなんて口が裂けても言えないからね」
『それはよくない!』
ソフィアと声が重なる。
この自称女神は、未だ自身が妖魔教団に追われている身だということを忘れているのだろうか。
もう少し危機感をもってほしいものだ。
先ほどから三度ほど同じやり取りを繰り返していると、少し見ない間に荷物を取りに行っていたらしいジョージさんが箱状の何かをガチャガチャ言わせながら帰ってきた。
「……僭越ながら、くじ引きでの席決めを提案しましょう。よろしいですな?」
その言葉と表情からは威圧感が放たれており、俺たちはただ首を縦に振るしかなかった。
──乗合船の船内。
俺は辛うじてケツが痛くならない席を勝ち取ったものの、見知らぬ誰かと相席になっていた。
船内は大量の荷物が端に寄せられて、空いたスペースに二人掛けの長椅子が両の壁際に取り付けられた構造をしている。
そんな船内では、対面の席では同業者らしい商人が近頃の情勢と愚痴を語り合っている。一方で、俺の隣はというと。
(……只者ではないオーラを纏う少年と隣合わせ。非常に気まずい)
生来のコミュ障を遺憾なく発揮していた。
何か話を振るべきかと考えているうちに、消化管の中身が叛逆の狼煙を上げ始める。
会話どころではない俺が静かに悶えていると、隣に座るオーラが凄い少年が手を差し伸べてきたのだ。
「これを食べるといい。日出国では有名な漬物で、酸味が酔いに効くそうだ」
そう言って、梅干しの入った小さな瓶を手渡される。
「助かる。……それで、アンタはせせらぎの街へは何をしにいくんだ」
もらった梅干しを一粒飲み込み、少年へ問いかける。
「雑用さ。なに、ある人物と会えと依頼されてね。例えば、マキアの仲間であるケンジローとかね」
少年の纏うオーラがより一層強力なものになった。
さてどうしよう。
おそらくこの少年は俺の素性を把握している。
下手な誤魔化し方では火に油だろう。
「そうか。俺に何の用だ」
荷物に突っ込んでいた短剣の柄に手を触れる。
いざとなればソフィアが仲間に対し切らさず付けている魔法のバリアを盾にして強引に斬りかかってやろう。
そんなことを考えていると、少年は首を横に振る。
「こんなところで遂行したらまとめて水の中さ。まあ、目的は一致しているがね。お前も殺す」
このガキ、堂々と殺害予告までしてきやがった。
しかし、やる事が中途半端だと言わざるを得ない。
「……そうかい、クソガキ。それなら、何故先ほどの梅干しに毒を盛らなかった」
全方位を浅く広く警戒していた俺の目を欺いて、梅干しを入れていた瓶に毒でも混ぜられただろう。
仮に毒が入っていても商船同士の距離が近いためソフィアへ解毒魔法の使用を要請できたが。
単に己の強さに自信がある故の慢心か、それとも。
「なっ!? お前はなんて外道な真似を考え付くんだ! ……ふん。お前如き、このオレが搦手を使うまでもないということさ」
少年は随分とオーバーリアクションな驚き方をしたあと、取り繕うように強がりを見せる。
なるほど、コイツはあれだ。単純バカだ。
「そうかい。では、力不足な俺は、お前と相対する際にはあらゆる手段を講じて追い詰めてやろうか」
この後も純粋な心の持ち主らしいガキをイジメながら、せせらぎの街への船旅を愉しんだ。
──せせらぎの街。
船着き場に着くや否や、以前訪れた時と雰囲気が違うことに気づく。
何やら騒がしいのだ。
にもかかわらず、妙に人が少ない。
違う船から先に降りていたソフィアたちも気になっていたのか、船着き場を巡回するせせらぎ騎士団員にソフィアが声をかけていた。
「久しぶりね、ソフィアよ。街の様子が以前と違うけれど、いったいなにがあったの?」
たった今声をかけたところだったようなので、しれっとソフィアたちに混ざり騎士の返答を待つ。
「実は……。いえ、話すと長くなります。自分は巡回任務がありますので、詳細は詰所の者に聞いてください。ソフィアさんたちなら門前払いされることはないでしょうが、もしものときは『ハリルに案内された』と伝えてください」
「ありが……って、いっちゃった」
話始めは普通だったが、話し終える頃にはやけに慌ただしかったな。
ソフィアたちと目配せをし、俺たちはせせらぎ騎士団の詰所へと歩き始めた。
──ほとんど顔パスのように詰所の中へ通された俺たちは、ここ最近のせせらぎの街周辺の話を聞いた。
その内容とは。
「オクタゴン大臣が花の都及び霧の都への大規模侵攻作戦を開始したこと。各街の騎士団へ招集をかけたが、せせらぎの街は国外へ兵力を出さず国内の防衛という名目のみでの行動指針を示したこと。以降、妖魔教団の侵攻が連日続いていること。ここまではご理解いただけただろうか」
ここまでの話への理解を問うのは、いつかの日にエンシェントドラゴンの討伐を押し付けた鉄仮面の騎士だ。
しかし、信頼関係を築いている今ではその態度は柔らかい。
俺たちを代表して対話するソフィアは、俺たちを一瞥し問題ないことを確認すると鉄仮面の騎士へと向き直る。
「えぇ、大丈夫よ。続けてちょうだい」
ソフィアの言葉に俺たちが首を縦に振ると、鉄仮面の騎士は言葉を続ける。
「では、次にこちらを──入りたまえ」
鉄仮面の騎士が卓上に数枚束の書類を置いたその瞬間、応接間の扉が叩かれる。
入室を促されて開いた扉の先にいた人物と目が合った俺たちは、様々な感情が綯交ぜになりしばし沈黙する。
その沈黙を最初に破ったのは──
「な、なんでここにいるのですか!?」
俺たちがまさにこれから行方を聞き出そうとしていたマキだった。
【作者のコメント】
ご読了ありがとうございます。
最近はスターレゾナンスにハマっており、ここ一ヶ月筆を握っておりませんでした。
次回はなるべく早く更新しますのでお楽しみに!




