第一話 人生の二択
月どころか星さえ瞬かない夜の闇の中、俺は人生のパートナーを乗せて車を走らせていた。
ヘッドライトだけが行く先を照らし出す。
先の見えない恐怖に走るのを辞めてしまいたくなるが、それは許されない。
右に左にステアリングを切って走り抜けていく、人生のランナウェイ。
何とか事故らずに進んでいくがそんな幸運は続かない。
ハンドルを切り過ぎた。
ブレーキを踏みすぎた。
車はあっさりとスピンし助手席から人生のパートナーはぴゅーーーんと飛び出した。
そしてぽちゃんと湖に落ちた。
俺が直ぐさま車から降りて急いで湖まで行くと女神様が現れた。
「貴方が落とした人生のパートナーは、
この犬ですか?」
それは見事な毛並みをした美しい犬であった。
美しい、見ているだけで俺は幸せな気分に成れる。
その上この犬は俺のことを愛してくれる。
家に帰れば全身で喜んで出迎えてくれる。
休日は一緒に遠出して冒険気分。
俺が病気になって辛そうにしていれば寄り添ってくれる。
看病とかしてくれるわけでは無いが、心から心配してくれる。
それはきっと病に打ち勝つ力となる。
Sexが出来るわけでも金が儲かるわけでも社会的地位が得られる訳でも無い。
だが愛はある。
犬としか付き合えない変態と人間共に後ろ指をさされる代わりに愛を得る。
「それとも、この女性ですか?」
辛うじてこんな俺でも妥協をして結婚してくれる普通の女だった。
俺はモテない、だがこの女なら結婚してくれる。
俺のことをATM扱いし托卵が成功すればセックスレスになる。それでも俺と結婚してくれる女だ。
この女と結婚することで俺は社会的地位を得ることが出来る。
会社や同窓会で結婚できない男と後ろ指をさされることも無くなる。
独身の所為で変人の烙印を押されて昇進できなくなることも無い。
男として対面は得られ、それなりに出世して社会的地位を得られる。
愛は無いが、変人のそしりを受けること無く普通の男として評価される。
愛か男としての評価か?
ああ神よ俺はどちらを選べば良いんだ?
「それくらい自分で選びなさい」
俺の魂の叫びに女神様はニッコリと突き放す。
どっちだどっちを選ぶ。
俺は人生シミュレーションをし瞑想し座禅をしサイコロを振り悩みに悩んで答えをだしたのであった。