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ミッシング・スクリュー

作者: ごんぱち
掲載日:2023/02/03

 きちんと敷けてもいない布団の上で、多分昨日と同じ形のまま、あたしは目を開いた。

 腫れぼったい目をこすろうと手を動かした手に、

 ひやり。

 何か小さな、冷たい、硬いもの。

 掴んでみると、ネジだった。

 短くて、頭が大きめで、先が少し尖っているネジだった。錆びてはいないけれど、ピカピカでもない。

 ネジを見つめる。

 ネジに集中すれば、思い出す事もない。

 視覚を塞いで。

 ネジ。

 触覚を支配せよ。

 ネジ。

 思考を染めて。

 ネジ。

 でもその形が、何だかあの人とダブって。

 冷たい硬さが、拒絶の象徴みたいで。

 抜けてしまったネジは、その意味付けから、ふられ女みたいで。

 あたしみたいで。

 受けるネジ穴がなければ、何の役目もない、意味もない、砂利の代わりにもならない、ただの金属片。

 点字で、何もない紙に、たった一つの点があった場合、それが何を表すかは、誰も分からないってさ。

 仮名であれば、それが音を表せるけれど。

 漢字であれば、名詞や動詞や、幾通りもの音や、意味を表せるけど。

 梵字であれば、宗教的真理まで語れるかも知れないけど。

 一点の点字。

 一本のネジ。

 一本では、何も出来ない。価値がない。在る意味が……ない。


 ――トントン。


『ももちゃん、朝ご飯出来たわよぉ』

「食べたくない」

 ドアが開いて、姉が入って来た。

「食べれば食欲も出るわよ」

 姉は、いつもにこにこ笑う。

「あら?」

 ひょいとあたしの手から、断りもなくネジを取り上げた。

「なかなか良い形ね」

 姉は、ネジの細い方を持って回転を付け、ひょいと投げた。

 ネジはコマみたいに、机の上で、少し首を振りながら回り始める。

 ――ネジ改めコマは、

 回って。

 回って。

 回って。

 それから、

 ゆっくりと回転をゆるめ、首を振りはじめ、最後には倒れて止まった。

 あたしはじっと姉を見つめていた。

 このひとは、いつもそーだ。

 仮にネジの重心が狂ってて、全然回らなくっても、何かまた、別の面白味を見つけるのだろう。

「ああ、これ、電気スタンドのネジね」

 姉は、ネジを電気スタンドの首の部分にねじ込んだ。事も無げに。

「さあ、朝ご飯冷めちゃうわよぉ」

「はいはい」

「『はい』は三回!」

「はいはいはーい」

 悲しい気持ちが消えた訳じゃなかったけど、おなかは、ちょっと空いて来た。

 背中にぎゅっと抱きついて『ありがとう』とか言ったら、多分おねーちゃんはすごく喜ぶだろうから、絶対やらない。


 読んでいただき、ありがとうございました。


 何かしら面白かったと思って頂けましたら、

 「いいね」や、下の☆☆☆☆☆の評価など頂けましたら幸いです。


 今後ともよろしくお願い致します。

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