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なろうラジオ大賞4投稿作品

天才小説家の隠し事

作者: くにたかあきな

 私の叔母は夜空の星のような人だった。彼女の生み出した輝きは多くの人の心に希望を与えた。そして、役目を終えたように命の火を燃やし尽くした。

 叔母は天野(あまの)()(ほし)という名前で活動する小説家だった。

 発表する作品は多くの賞を受賞し重版を重ねた。彼女の物語は旅人を導く北極星のようで、孤独な夜に寄り添う星座のようで、多くの人に希望と利益を与えた。

 周囲の人間は彼女の物語を称賛し、次の物語を求め続けた。無限の湧き水か年中無休で稼働する工場のように。

姉である私の母の近所に住んでいたので、私も幼い頃から遊んでもらった。母曰く「梢ちゃんが本を読めるようになるまでは書き続けないとね」というのが口癖だったらしい。

「梢ちゃんも今では三十路ですよ」と独り言ちる。

叔母は未婚だったので、生前可愛がられていた私が遺品整理を引き受けた。本当は叔母の秘密を探すためでもある。私の予想では仕事部屋にあるはずだ。

 原稿はノートPCで書いていたので、部屋に残るのは仕事関係の資料や読者からのファンレターがほとんどだ。

 高校生の私は叔母の存在が疎ましかった。多くの人から尊敬と称賛を得る叔母と、努力しても何物にもなれぬ己を比較する日々。叔母の功績を自分の手柄のように語る祖父母や周囲の人たちも私は軽蔑していた。

 大人となった今なら一面しか見ていなかったと理解できる。だから私はその証拠を探すのだ。


 袖机の下段を開けると分厚いA4ノートが出てきた。小説のアイデアを書き留めたのだろうか。不自然に膨らんだノートを開くと、一本の古びた鉛筆が転がり落ちた。

 ノートには叔母がその時の気持ちを綴っていたらしい。文学賞を受賞した喜び、デビューの緊張。デビュー作がヒットして、二作目で誰もが知る文学賞を受賞した喜び。

 そこから数年間はノートに何も書かれていない、次の日付は五年経ったある日。

 「違う、違う、違う!私は皆が思う凄い人じゃない。ただ、物語が好きなだけの人。これ以上求めないで、そっとしておいて、お願いだから期待しないで!」

 見つけた。私が探していたもの。叔母が大きくなりすぎた天野深星の背中に追いつこうと喰らいつく姿。

 残りのページには叔母が周囲の期待に応えようと陰で苦労と努力を重ねた、当たり前の事実が書かれていた。


 私はノートをカバンにしまう。叔母は読者にとっての星でなければならない。偉大な虚構である必要がある。

 私だけが叔母を本当に理解していれば良いのだ。


お読みいただきありがとうございました。

今年もなろうラジオ大賞の時期になりましたね。

色々あってすっかり出遅れましたが、今年のテーマ一覧に頭を抱えながら少しずつ書いていきます。

よろしくお願いします。

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