表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

始まりの魔法少女①



笑い声が響き渡る。深い森の中、愉快に痛快に、爽快に笑う。彼女は笑うのだ。窮地に追い込まれていようと。


「ガッハッハッ!こんなに囲まれるとはね!同窓会か?なっ相棒!」


古びた山高帽子を深く被り、つばの切れ込みから、あたりを伺う瞳は黄金色。鋭い瞳は口元に浮かべる笑みとは違い、隙がない。帽子から零れる赤髪は灼熱の焔の川のよう。彼女の手には、杖がにぎられている。彼女の髪色と同じ赫い杖。荒削りなゴツゴツした杖には戦いの中刻まれた数多の傷があった。


「っ!さちよ!笑ってる場合じゃないですよ!なんですか、この数。裏切ったのですか!!ハル!」


赫髪の彼女を背に載せる巨大な大鹿。鹿の背には苔がふかふかと生え、立派な角にはいろとりどり花が芽吹く。木々のざわめきから森に潜む敵の数を把握する。

森の狭間、月明かりに照らされる。言葉を向けた相手はにこりともせずに言った。


「あなたたちはやり過ぎたのですよ。わたしが気づかないとでも?」


はると呼ばれた黒髪の少女が言った。紫紺の瞳はただ静かに赫髪の少女を見つめる。こちらは幼さが残る顔立ちではあったが、表情は険しく眉間にシワがよっていた。彼女が杖腕を高く揚げ、閃光を放つ。森に光が通り抜け、杖を構えた魔法使いたちが茂みから現れ一斉に魔弾を放つ。


「相棒っ!!」

「分かってます!生命よ!息吹け!息吹け!古樹の王が命ず!『樹盾連壁グリーンベース』」


大鹿が足に力を込めて大地を踏みしめると、魔弾を防ぐかのように木がものすごい速さで伸びてきた。魔力でつくられた様々な属性の魔弾は樹の壁を焦がし、凍らせる。雨のごとく降り注ぐそれをさちよはやり過ごす。


「ガッハッハッ!!大層な包囲陣だな!っとと!最近噂の指折り(カウンターズ)まで連れてきたのか!」


色とりどりの魔弾の合間をするりと抜けて、刀が煌めく。樹の盾群をも切り裂き、少女の首を狙う。とっさにとびのくも、山高帽子に切れ目が入り、赫髪の少女の双眸が細くなる。


「…ガッハッハッ。強えな、あいつ」

狐面を付けた小柄な刀使い。当然表情は伺えないが、刺すような魔力と殺気。祭り帰りかと思われても、おかしくない桜模様の黒い浴衣に、似つかわしくない大太刀。華奢な体でどう振るうのか。おそらく魔力で身体能力を上げているのだろう。


あたしの間合いに入ってくるなんて、手練を集めてるのは、聞いていたが、ここまでとはな。


「大丈夫ですかっ!」

「相棒、情けねえ声出すなっての?世界最強の魔法少女たるアタシのパートナーだろ?屁でもねぇよ」


ただ、面倒だな。実際、周りを囲んでるヤツらは大したことは無いが、遠距離からちまちまやられると戦いづらい。時間を稼ぐか分断するか。


「ガッハッハッ。よゆー、よゆー!ととっ!あぶねーな!ガッハッハッ!」

「いくら、さちよ、あなたでも達人相手なら、幾ばくかは意識を割かせることができるでしょう。まだ、魔法少女なんて幻想を。早急に投降して、神獣様を解放しなさい。」


黒髪の少女は白い杖を向けて、言う。純白の美しい杖だったが、赤髪の少女は憎々しげにその杖を見つめていた。さちよは自分の目的を胸のうちで、再確認して言葉を選びながら話始める。


「…そう遠くない未来に、こちらの世界にも魔力をもった人間が激増する」


「そうならないために、ゲートを閉じて封印をしていってるんです。こちらの世界であなたの言う魔力犯罪が増えることはありません。」


厳しい視線を向ける。


「魔法少女は必要だ。アタシ達が秘密裏に処理できる時代は終わろうとしているんだよ。いくら、相棒を使って封印の苗を植えてもな。こちらの世界の人間にも、魔力の使い方を学ばせて、仲間を増やしとかねぇと。あたしらがガキだった時に逆戻りだ。」


「…あんな時代には、戻させません!!そのために指折り(カウンターズ)を作ったのだから。」


黒髪の少女は続ける。


「魔力を非魔力人たちに与えるなど。非魔力人たちは欲深い。最後には我々の世界を滅ぼします」


「だ~か~ら、そうならないためにだな!それに!」


「…あーあーあー、ハルさん、こいつ、面倒いんで、斬りますよ」


狐面の女が切りかかる。大太刀が、既に間合いに。こいつ、特殊な体捌きしてやがるな。縮地か?狭い森の中を大太刀振り回すなんて普通はしない。木々を無視できるほどの切れ味と技がこいつにはあるってことか。


「ちっ」

「ハルさん、ちゃっちゃと勝って、こいつの席いただきますよ。たしか、指折り(カウンターズ)の席次は入れ替えせいでしたよね。No.9だと、なんか弱そうじゃないですか」

大太刀を片手に持ち替え、杖を取りだし軽くそれで刀をたたく。


「ゴウ・ギブ・アクセル!!」

「待て、サクラ!!」

刀が炎に包まれる。魔力の震えがビリビリとさちよのところまで届いてきた。

「魔法剣士か。それも日本刀とは、また珍しいな。ガッハッハッ。いいねぇ!カウンターズ!アタシが本気をだせる相手ってことか。」


「四季源流刺突の一、『しだれ桜!』」


無数の突きが炎の花びらとなってさちよに襲いかかる。さちよは眼と足に魔力を集中させ、杖を強く振るう。


「ガッハッハ!ハル!しつけがなってねぇぞ!!この飼い犬!!いや、飼い狐か?『赫ダブル』」


さちよの魔法は赫ダブル。任意の対象を倍化させる。

彼女は動体視力と脚力を倍化させ、狐面の女の刺突をかわす。魔力が赫く鎧のように彼女の脚と額を覆う。

ガッハッハッ!笑い声は豪快に、ただ瞳は対峙した相手を鋭く射抜く。


「赫戦乙女ブラッドヴァルキリー」

赤い杖は魔力を糧に、血よりも濃い紅い大剣を形作る。さちよは軽々と片手で持ち上げ、攻撃に備える。金属が擦れる音と火花が飛び散る。


「…へぇ、しだれ桜を防ぐとは、おばさん伊達じゃないね。さすが、No.3」


一瞬の間。

「んだとっこらぁ!!!」


「冷静になってください!さちよ!あなたは若いですよ!」

「なんで!No.1じゃねぇんだよ!」

「そっちかい」


大鹿は様々な角度から飛んでくる魔弾を木々を生やすことで防ぎ、さちよの援護をする。


「さすが、霊獣様、ナイスなツッコミです」

「こんなことで褒めないで、恥ずかしい!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ