プロローグ②
最終決戦が行われている荒野は町の上空に現れた敵のアジト。いくつもの手下や幹部を倒して、結界を破壊、豪華絢爛なお城が現れたのは、なんと破魔町の上空。しかも、手下を倒されて、魔力が維持できないため、絶賛落下中。ボスの腕の一振りで荒野に変わったその城を、町のみんなが浮遊呪文でなんとか緩やかに落下スピードを抑えている感じ。私たちとしては、ちゃっちゃとたおしてしまいたいのだけど、このボスがしつこい。
幹部を倒され後がなくなったボスは真の力を解放した。現在通算5回目の魔力膨張、何回変身するんだよ。
眼下の町は私の住む町、人知れず山ん中に作られた町。魔を破るって書いて破魔町。魔法使いが多く住む町なのに、ネーミングセンスがあるのかないのかよくわからない。でも、私の大切な人たちが住む町。肉屋のおっちゃんは毎度コロッケサービスしてくれるし、ドーナツ屋のおねーさんは新作と評してドーナツをくれるし、魚屋のおかみさんは、余った魚をくれる。あれ?食べ物ばかり?
まぁ寮の食事は私が転校してすぐに、ビュッフェスタイルじゃなくなった。どうも料理長が、「胃袋の悪魔が」と置き手紙をして、失踪したらしい。なんでだろう。食材が尽きたなら買いに行けばいいのに。食堂で諸先輩方が青ざめ、絶句していたのは、どうしてなんだろ。少しは遠慮しろよって、だってビュッフェでしょ?おかしい。だから街に繰り出して、色々食べ歩くしかないじゃないか。その過程で街の人たちととても仲良くなった。私の第二の故郷といってもいいくらい。
「しっしっし、ほのか!しっかりしろよ!くるぞ!」
「ボケっと、あほ面晒してる場合じゅないッキュ」
赤みがかった髪色の短髪の少女が、私の頭を豪快にぶっ叩き、私を現実に引き戻す。サイズの合っていないぶかぶかの古い山高帽子をかぶって、青く透き通ったきれいな杖を持つ。杖を地面に突き刺し魔力を込める彼女の周りには、氷でできた動物たちが次々と生まれ、ボスの体から生まれた厄介な兵たちを蹴散らしている。氷の狼は次々と敵を牙や爪で切り裂き、氷の蛇は地を這い、噛んだ敵を凍らせていく。ボスから放たれる闇の魔力弾には杖を振るって数多のつばめを空中に作り出し、迎撃していく。
彼女は私の一つ上の先輩。かおり先輩。私がこの町にやってくる前にたった一人で悪の組織から街を守っていた魔法少女だ。相当、無理をしていたらしく、代役を血眼になってさがしていた時に、私とばったり遭遇。事態が分かっていない部外者があほ面さげてやってきたもんだから、カモネギじゃあっと、なかば強引に魔法少女に引き込まれた。私が魔法少女になったのは彼女のせい…。いや、彼女のおかげである。
かおり先輩あんたのおかげで純粋なほのかちゃんは記憶のかなたに消えていってしまったよ。
魔法を目覚めさせるためとは言え、私を上空10000mから落下させたことは絶対に忘れない。マジで忘れない。おニューのスカートは空高く飛び去り、私はパンツを公衆の面前、公衆の上空で披露することになった。もうすぐあの日から一年か、感慨深いぜ。まったく。いつか!呪いを!かけてやる!!!
あ、いけない、鍛えてくれてありがとう。謙虚に謙虚に!豪快な彼女だが、魔法を使う姿は美しい。ビューティホー!氷の森の妖精のようだ。まぁ、教え方はド下手だったなぁ。
「しっ、しっ、しっ!魔力の上手な使い方だぁ?んなもん、ぐってこめて、ビュンばっ!つって、どばヒューン!!!な?簡単だろ」
な、じゃないよ。わかるか、んなもんで。
「しゃあ、ねぇ。実践だ。しっしっし!軽くもんでやらぁ」
「え?揉むっきゅか?おっぱいをきゅか?しかないっきゅねぇ、手伝ってあげ、きゅ、冗談っきゅ!ほのかは揉むほど揉む胸なんかないっきゅでしょ。かおりに作ってもらえばいいきゅ、氷のおっぱいをっ!きゅ!やめて、氷の山を突き刺さないでっきゅうう!!」
雑音が聞こえる気がするけど気にしない気にしない!
あ、余計なことを思い出してしまった。今は最終決戦の真っ只中。また、かおりちゃんにどつかれてしまう。セクハラまがいの発言をしていた見た目ぬいぐるみの妖精は真剣な表情だった。一発だけ殴って、戦いに意識をもどそう。込み上げていた怒りを発散しようとしていたが、眩い光に阻まれた。その光の元は緑色の魔法の炎だった。その炎は決して熱くなく、暖かな温度を感じさせ、戦いの最中にできた擦り傷や切り傷を癒していく。首を後ろに向けるともう一人の先輩魔法少女が刀に寄りかかりながら両手を広げ、治癒魔法をかけていた。彼女自身も深い傷を負いながらも、ほのかの体を癒やしてくれていた。
「ほのか殿、すまない、傷は応急処置しかできなかった」
「気にするなっきゅ、さくら。体力ゴリラのほのかには、回復魔法なんてもったいないッキュ!」
ふわふわとした髪質の穏やかそうな子が申し訳なさそうに言う。この武士口調のギャップがすごいさくらちゃんはほのかの先輩でかおり先輩と同級生。二人は、はじめ敵対していたらしいんだけど、今では大親友。その仲を取り持ったのは、何を隠そうこのわたし。え?褒めてくれてもいいんだよ。
めっちゃ優しい見た目なのに、刀を握ると一変するんだよな。こわかったよ。出会ったとき、刀に杖があたった際には、さや当てと勘違いされて殺されかけたっけ。この人の魔法は壊すことと治すことの両極端な炎の使い手。ある魔法集団の幹部だったんだけど、なんやかんやあって仲間に加わったの。いやあ、まさか、あの時、私の命を狙っていた刺客が私の傷の心配をしてくれるだなんてマジで驚きだよ。
「ほのか殿、魔法はイメージが大事なんだ。強い想いが強い魔法を生み出す。君のような珍しい魔法の使い手は見たことないが、どんな魔法も根っこは一緒だ。君ならできる」
彼女がいなかったら私が魔法学園で生き残ることはできなかった。成績的な意味で。私の救いの天使。癒し系武士娘。なんか属性てんこ盛りだな。
「そうっきゅ!イメージをするっきゅ。例えばっきゅね。ほのかと違ってナイススタイルの美少女たちをはべらせて、ムフフなことをグヘヘっきゅ!ちょっと待つっきゅ!ほのか!さくらの刀を持ってどうするつもりっきゅか!!無理っきゅ!裂けちゃうっきゅ!綿が!綿が出ちゃうっきゅ!!」
あ、また嫌なこと思い出した。すり潰そう。ヤツを。さくら先輩のおかげで少し身体が軽い。これなら渾身の力で相棒をすりつぶしてミンチにできる。
「ほのか殿、ボスのことを倒してくれ」
さくら先輩はそう言い残すと、糸が切れたかのように光が消える。私のために魔力を使い切ってしまったのだろう。
「先輩っ!!」
「ちょっとほのか!!」
崩れる身体をさっと助けたのは、爽やかスポーツ系女子のさきちゃんだ。私の同級生で、水の魔法を得意とする親友の一人だ。足元に水でできたスケートボードを魔法で作り出し、水を噴射して戦場を駆け回る。




