プロローグ①
どことも知れない荒野
次々と上がる爆炎
カラフルな光のオンパレード
巨大な黒い影の前。息は上がっているが、目は死んでいない、決死の覚悟の少女たちがいた。
ところどころ焦げ、破れた魔法の衣装。本来は可愛らしく、ふわふわにデザインされているそれらも、戦闘の土埃や汗や血で汚れてしまっている。
彼女たちが立ち向かう最後の敵。黒く塗りつぶされた空間に真っ赤な口がおぞましく大きく開かれている。只でさえ強敵で、魔力も限界なのに、あちらさんは咆哮とともにさらに魔力が膨れ上がる。
「…( >A<)マジカヨヨヨ!!!」
彼女たちはそれを見て、心が挫けそうになるのを、すんでのところで保とうとする。一人は家族のため、一人は街のため、一人は自分のため。守るべきもののために、奇跡とも思える確率の勝利を信じて、戦いに挑む。
「くっそたれぇ!ど根性じゃい!!」
オレンジを基調とする魔法少女が歯を食いしばり立ち上がる。バラバラになった髪を結び直し、地面に落ちた山高帽子を拾い上げ、深く被る。怖い怖い怖い。でも、みんなを、さらに自分を鼓舞するため、小さく震える自分の手を握りしめて、気合を入れる。仲間達もそうだ。恐怖と戦っているのだろう。みんなを鼓舞するのは、リーダーである自分の役目だ。みんなからもらったたくさんのものを。今、ここで返そう。
「さぁ、みんな魔法を使っていつもみたいに大暴れしよう!そして・・・」
ポニーテールを揺らし、額から流れる血を拭い、にこやかに、そして、晴れやかに言うのだ。不安や恐怖を吹き飛ばすように。
「帰ったら、学園長の奢りで焼肉パーティだ!!」
一瞬の沈黙の後。笑い声が響く。
「まったく、時と場所を考えて言えよ」
青色のショートカットの少女は溜息をつき、弓を杖代わりに立ち上がる。
「全くデース。ほのかはいつも、突拍子がないことを言いマース」
長身の黄色の少女は、冷や汗を拭ってやれやれと肩を竦めた。
「全く、冗談は胸だけにして欲しいっきゅ」
緑色のぬいぐるみは悪態づき、オレンジ色の魔法少女にふみつぶされ。
「しっしっし、あの学園長、ぶったまげるぜ」
鈍い赤毛の少女は氷の狼に体を支えられ、おき上がる。
「ほのか殿。それは、妙案だな。こんな場でなかったら、な。ふふふ」
日本刀に縋りながら眼鏡を掛けた少女は静かに笑う。
ほのかの提案に仲間の魔法少女たちは苦笑いをし、やれやれとため息をつく。
そして、
「「「「「のった!!!」」」」」
全く、ノリのいい仲間達だ。大好きだぜ。
「いいんきゅか?ほのか、太るっきゅよ?」
ごつんと余計なことを言う妖精の相棒をぶん殴り、敵を見据える。
「ばぁか!女の子だってね…」
たんこぶを作る緑色のリスみたいな妖精にニカッと笑ってみせた。最後の魔力を絞りだす。想いは力だ。私は絶対に生きて帰る。
「お肉は大好きなんだよ!」
そして、お腹いっぱいにお肉を食う!
彼女は焼肉に想いをのせ、溢れるヨダレを拭きながら、物思いにふける。
魔法少女として戦ってきて、約一年。ついに悪の組織との闘いは佳境に。
いままでほんといろいろあったよ。
その少女、ほのかは自分の小枝のような杖を握り直す。杖の大きさが魔力を測るパラメーターの魔法界において、彼女の杖はあまりにも貧弱だった。そう、彼女の胸部のようにっきゅ。ごつん。いて。勝手に頭ん中入ってくんな!使い込まれ、ところどころボンドとセロハンテープで繋ぎ合わせられた杖には、彼女の思い出が染み込んでいた。
始まりは、中学1年生の春。温暖化のため、桜が散りきった入学式。そっからの、ウケを狙って滑りちらかしたHRの自己紹介。
「ほのかの「ほ」はホッホケキョの「ほ」!!どうぞ、みんなよろしくね!ふぅわっふ〜!!」
白け切った目に、三年間の氷河期を覚悟した。死にたい。あっという間にコミュニティとスクールカーストが形成され、見事に道化と化したわたしは、見事にぼっちの座を射止めたのだった。家に帰ると両親代わりのおじおばの喧嘩。主に金銭面についてのけんかは、居候としては耳が痛い。
「あの子が来てからのエンゲル係数知ってますか!このままでは私たちの暮らしはほのかに食い尽くされてしまうのよ!!」
全てが嫌になりかけて、出かけようとしたところ、ポストに投函されていたのは、後にほのかの運命を大きく変えてしまう深紅の封筒だった。
『学費タダ!寮の費用ただ!三食つき!食べ放題!!ドリンクバーで飲み放題!!和洋中全てが揃った学食!!』
という豪華特典のヤバい香りがぷんぷんする勧誘文書によって、私はあっという間にその山奥にある私立の中学校にいくことが決定した。私たちは見落としていた。小さく『諸条件あり、命の保証はできかねます』と。
追い出されるも同然でその学園にある破魔町にお引っ越し。馬の頭の筋肉ビキニの変態的なゴリマッチョの怪物に襲われて、私、ほのかの新生活が始まったのだった。まぁ、ミンチになる前に偉大なる魔法少女の先輩方が、助けてくれたわけだけど。助けてあげた恩を理由に強制的に魔法少女になってしまった。
私のお気に入りの髪型がポニーテールなんだけどさ。マジの馬に追いかけられるなんてね。
この時の話もいつかは話せたらいいなぁってぼんやり思っているんだけど取り合えず、ざっくりと説明しておこう。私の新生活は、馬とパンツと鬼コーチによってあっという間に魔法少女生活へと転落していった。ざっくりしすぎてわからない?いやいや、私も自分で言っていて、正直どうかと思うけど。
魔法少女っていうのは、せいぜい幼稚園児や保育園児くらいの子が見るアニメの世界の住人で、中学生の私からしたら当然ありえない存在なわけさ。実際にはコアな大きなお友達だったり、最近は、コスプレイヤーなんてのも、ある程度社会に認知されてきているとは言っても、もう中学生になったら、そんなことよりも恋!に、おしゃれに!、おいしいごはん!!にしか興味がないわけだわな。でも、まぁ、ちょっぴし、心の奥底では、わくわくしていたのも、あったよ。ちょっぴしね。
けど、魔法少女はやってみると大変だったなぁ。
「いやいやいや、服が、服が、爆散したんだけど!!聞いてないっ、私、聞いてないって!!ちょっ、せめて草陰でぇ!」
と、恥じらいをもった純情な乙女な私だった。うん。けども、月日や慣れというのは残酷で
「何、さきちゃん恥ずかしがってんの!!はい、すっぽんぽんだよ!すっぽんぽん!!」
「あんた、恥じらいを覚えなさいよ!」
という始末。昔は恥ずかしかった変身シーンや名乗りもなれちゃった。
「えっ、ほんとに言うの?かおりちゃん?こんな人通りで?馬鹿なの?死ぬの?社会的に死ぬの?私?」
から、数日後。
「きゃ☆正義の魔法が火を噴くぜ!魔法少女ほのか見参っ!悪の組織の怪人どもめ、消し炭にしてくれるわ!ひゃっはー!」
堂々と名乗りをできるようになっちまった。慣れって…怖いね☆
でも、名乗りがスパッと決まるとこれが超気持ちいいんだわ。びしっと決まれば、それは、もうカ・イ・カ・ンって感じで、こないだなんて、自分のカッコよさによだれが噴き出していたわ。町のみんなはそんな私の姿を見て、黄色い悲鳴を上げていたしね。ガチの悲鳴かも。
まぁ回想していてもしかたない。一年近く戦ってきた悪の組織の親玉が目の前にいる。いやぁでかい。なんで、こういう敵って、でっかいんだろう。エネルギー効率考えたことある?でかい=強いの時代は終わったの。今頃は省エネ思考が必要なわけよ。無駄にでかい姿。無駄にでかいマント。無駄に低音な笑い声。テンプレすぎるよな。




