第09話 LBI2
「ノドカ様っ!」
少し離れた場所にいた警備兵の一人が突然大声で叫ぶ。
「っ!」
LBIから放たれた投石がノドカを目掛けて飛んできていた。
頭が考える前に身体が勝手に動く。ノドカの身体を抱え込み、身体を丸めた状態でそのまま転がる。
直後、後方から激しい爆発音が鳴り響く。
間一髪というところだろうか。
「ふぅ、痛て……、大丈夫か?」
「あ、はい、ありがとうございます」
ノドカは困惑した表情を浮かべていた。
「ごめん、そう言えば触っちゃ駄目だったな。咄嗟の行動でつい」
「いえ、問題ありません。むしろ助かりました。それより……ぜ……方に……全てが……」
動揺しているのだろうか。ノドカは下を向きぶつぶつと独り言を呟いていた。
「それよりもここから下がった方が」
「あ、はい、そうですね。少し……おっと……」
立ち上がろうとしたノドカの身体がふらつく。
「危ないっ」
咄嗟にノドカの肩を支える。
「おとと、すみません。義足が外れてしまっているようです」
「義足?」
辺りを見回すと確かに足のようなものが転がっていた。それを手に取り、ノドカに渡す。
「ありがとうございます」
ノドカはお礼を言って受け取ると、手慣れた様子で義足をつけ、立ち上がる。
「義足だったんだな。それで杖を」
「杖が無くてもよいのですがあると楽なんです。ご迷惑をお掛けしました。それよりも……」
ノドカは周りを見回す。周りにいた兵士たちは動揺を隠せないでいた。無理もないだろう。目の前でロリが、しかもそれなりの地位にいるロリが危険な目にあったのだから。
兵士のうちの一人が砲台に向かう。それを見た別の兵士たちも一斉に砲台に向け、砲撃の準備を始めようとしていた。
「やめなさい。彼らに攻撃してはいけません」
そんな兵士たちにノドカは檄を飛ばす。
「し、しかし……」
「しかしではありません。彼らがこの城壁の外側で恐怖と戦っていることを知らないとは言わせません。私たちは彼らと共にその恐怖と戦わなければならないこと、彼らが本来味方であることを忘れてはなりません」
「ですが、ノドカ様を危険な目に合わせております。あれは極刑に値する……」
「それはこの国の規則です。国の外にいる彼らに罪はありません。それよりいつものやつを準備してください」
「……よろしいのですか?」
「えぇ。彼らに退いてもらうには一番の方法ですから」
「分かりました」
兵士はノドカに一礼すると何処かに走り出す。
「いつものやつってのは?」
「食料の事です。彼らがここに襲撃してくる理由の一つが食料の補給ですから。そうなるように仕組んだのですが」
「な、なるほど……」
「しかし、彼らに我慢を強いるのもそろそろ限界ですね。次の一手を考えなければなりません」
「何か案はあるのか?」
「彼らの代表者との話し合いの場を設けて妥協点を探すことぐらいですね。皇帝の言葉は亡くなったとしても強大です。私であっても覆すことは難しいですから」
ぺ度の基準をオーバーした男性と一定の年齢に達した女性の入国を禁止した皇帝の言葉。
そこにはきっとこの世界に来たばかりの俺では分からない重要な理由があるのだろう。それに一度でも例外を認めてしまえば、入国を迫る者の数は増えていく一方だ。中々に難しい問題だ。
「そう言えば、さっき彼らは恐怖と戦ってるなんて言ってたけど、真正ローリ帝国周辺は危ないのか? まさか戦争中とか?」
「何を言ってるんですか、和樹さん。この世界で恐怖と言えば一つしかないですよ」
「えっ? 一つ?」
「リリスに決まっているではないですか」