第06話 トマリの宿
内装は外観から大体予想できるものだった。木材を主としているせいか、木の匂いをふんわりと感じる。一方で森の中とは違う優しい温もりがあった。
「トマリ! ヨージ!」
中に入るとノドカが誰かを呼ぶ。
「おや、誰かと思えばノドカ様じゃないですか。珍しいですね、ここに姿を見せるなんて」
奥の方から紺色の法被を着た金髪の青年が出て来る。
「遊びに来たわけではありませんよ、ヨージ」
「分かっています。そのお連れの方が、ですか?」
「はい。お願いしても大丈夫ですか?」
「勿論です、そのためのこの場所ですから。おっと、ではあの子を呼んでこないといけないですね。えっとお名前を伺っても?」
ヨージと呼ばれていた青年は俺に尋ねる。
「小鳥遊です、小鳥遊和樹」
「小鳥遊さん、ですか。僕はヨージと言います。本日からお願いします」
「いえ、こちらこそお世話になります」
「ではこの宿の女将を呼んでくるので、少々お待ちを」
ヨージはそう言って奥の廊下に消える。
「女将さんなんているんだな」
「当然ですよ、宿ですから」
しばらく待っていると、奥の方からヨージの姿が現れた。メイド服の金髪ロングロリを抱っこして。
「おいおい、あれ大丈夫か? ロリに触れてるけど。もしかしてヨージはロリコンなのか?」
「違います。彼はパートナーです」
「パートナー?」
「簡単に言えば、仕事をしたいロリの手助けをする者のことです。パートナーとして認められれば、同じ建物内に過ごすことも可能になります。接触は極力さけることが推奨されていますが」
「なるほど」
ヨージは連れて来たロリを近くのソファーに座らせる。ゴシック調のメイド服を着て、姿勢がいいせいか人形のようにも見える。
というか、修道服と言い、メイド服と言い、コスプレっぽい恰好のロリが多すやしないだろうか? 眼福に預かれているので何の文句もないが。
「ようこそー、トマリと言います」
ゆったりとした口調。よく見ればまぶたが今にも閉じそうだ。眠いのだろうか?
「彼女は常にあんな感じですから気にすることはないですよ」
「さっきからナチュラルに俺の心の中覗くの辞めてくれないか?」
「はて、何のことですか?」
ノドカは微笑みながら小首を傾ける。
「まぁいいけどさぁ。それよりもこれからよろしくね、トマリちゃん」
「トマリさんです」
「え?」
「トマリ、さんです」
すごく敬称の部分を強調している。
「トマリは上下関係に厳しい人ですから。心を許した人以外からちゃん付けされるのは気に入らないそうです」
「あぁ、なるほど」
トマリはこの宿の女将だ。それをロリだからと言って、ちゃん付けするのは確かに失礼な言動だ。これでは紳士失格、自分が情けない。
「申し訳ない、トマリさん」
「いえいえ、分かればいいのですよー」
トマリはにっこりと無邪気な笑みを浮かべる。
「挨拶も済みましたし、早速ここのお風呂に浸かってきてはどうですか?」
「お風呂?」
「トマリの所は大浴場が有名で、それ目的に結構多くの人が来るんですよ。ね、ヨージ」
「はい、ノドカ様のおっしゃる通りですよ、小鳥遊さん」
「へぇ、それはちょっと気になるな」
「それがいいと思いますよー。少しお部屋の掃除もしないとなので」
「じゃあちょっと軽く入らせてもらおうかなぁ」
「案内しますね、小鳥遊さん」
「あ、お願いします」
ヨージに先導され、浴場へと向かう。
「こちらになります」
「あれ、男女分かれてない、だと……」
「どうして分ける必要があるんですか?」
「えっ、でもそうしないと……」
「この国にいる男性はロリコンを志す者たちばかりですから、ロリにやましい視線を送る人はいませんよ。それに少しでも怪しい行為をすれば極刑ですから」
「極刑、そういやノドカもそんなことを言ってたな。その極刑ってのはどういうものなんですか?」
「詳しくは知らないのですが、極刑を受けた人間は二度と日の目を浴びることがないと聞かされたことがあります」
「怖、何だよそれ」
「実際極刑を受けた人間はその日からぱたんと目撃されなくなりますからね。僕の聞いた話は案外大袈裟じゃないかもしれません」
「な、なるほど……。その話を聞いた後だと落ち着いて風呂浸かれねぇ」
「安心して下さい。今日は小鳥遊さん一人しかいませんから」
「それはよかったです」
「ではごゆっくり。僕は着替えの方を準備してきます」
「あ、お願いします」