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Fourth:強い旅人

 『用心棒を募集しております』

そんな小さい張り出し紙が、あるレストランのガラスの、分かりにくい隅の方に貼られていた。そして、

そんな紙を見る、一人の少女の姿。

「報酬が・・・・・・かなり高いな。やってみるか」

 漆黒で、蒼くさえ見える髪に、美しい碧眼、服はグレーのジャケットに白いシャツ。下は黒革のパンツ。腰にはベージュ色の布を何重にも巻いていた。

その上から、黒いフード付きマントをはおっている。

「さっ。今日は帰って寝るか」

 少女は、後ろで一つに束ねた黒髪を揺らして歩いて行った。


「戻ったぞ〜」

《おっかえりぃ。っもう、リィってば帰るの遅いわよっ》

「すまん、すまん。そう怒るなよ、シャイン」

 自分の泊まっているホテルの部屋に入った黒髪の少女リィは、誰もいない部屋でそう言った。そして、ベッドに置かれていた剣をその手に取る。

《すっごくヒマなのよ!こうしてずっと独りぼっちで待ってるのって》

「そうか、そうか。悪いな」

 どうやら先ほどから喋っていたのは、この剣らしい。

《で、何かいい稼ぎ口はあったの?》

「あぁ。用心棒の募集があった」

 リィがそう言うと、剣のシャインは嬉しそうな声を上げた。

《やっほぅ!本当(マジ)?じゃ、人をバッサバッサ切ることアリよね?よっし!久々シャイン様の活躍ねっ!》

「・・・・・・シャイン、結構その発言恐いぞ」

《え?何が?大体、剣っていうのは人を切るためにあるのよ。リィったら森林伐採のためにあたしを使うことまであるんですもの。剣士としてあるまじき行動よ!っもう、久々に血を浴びることができるなんて、考えただけでゾクゾクしてきちゃうっ!》

「・・・・・・オレは違う意味で、お前の発言にはゾクゾクするよ。まったく」


 時は経ち、次の日の昼。

あるレストランの中。丸テーブルが並ぶ店内には、ちらほらとしか人がいなかった。その中に、黒いマントのフードをかぶった少女の姿があった。

《・・・・・・まだなの。―――はやくぅ》

「シャイン、ちょっと黙ってろ」

 少女リィは小声でシャインをたしなめると、チラリと視線をカウンターの方へ向けた。カウンターに立つ年配の女性は、少々震えており、眼もおどおどとして(せわ)しない。その女性がこの店の主人であり、また近くの山から下りてくる山賊に困って、用心棒を頼んだ本人でもあった。その主人によると、

 ここ数日、近くの山から山賊がおりてきては、このレストランで食事をし、代金も払わずにとっとと帰って行ってしまうそうだ。主人が代金を払うよう求めても、手に手に持つ武器で脅され、結局タダ食いしていくらしい。

そのためリィは今、客のふりをして、丸テーブルの席に座っているのだ。そして、

ガラーン。ガチャッ!

「来た」

《来たわよ!》

 リィとシャインが同時に言い、

「ご機嫌はいかがかな?ご主人」

 イヤみっぽく、山賊の一人が低いだみ声で言った。

「あ、えー。今日は、とても、良い天気ですね」

 その言葉を合図に、ガタン!とリィは腰から剣を抜いて立ち上がった。主人のそのセリフは、かかれ、の合図だったのだ。山賊に怪しまれないようにと、わざと入れておいた客は、その合図とともに、パラパラと裏口から出ていく。

「行くぜっ!」

「何だぁ?てめえ」

 山賊の一人が言い、リィはニヤリとしてフードを外した。

「オレはてめぇらをぶっ飛ばすためにここにいるもンだよ!」

《行っけー!イェイ、イェーイ!》

 シャインの声とともに、リィは床を蹴って飛んだ。

「生意気な子供(ガキ)め!」

 山賊は持っていた斧を振り上る。ビイィィィインと剣と斧は派手にぶつかり、両者の手に振動が伝わった。

「てりゃぁ!」

 ぶつかった反動を利用して、すぐさま空中一回転を決めたリィは、地面に低い体勢で足をつけ、山賊たちの足を横薙(よこな)ぎにする。

苦痛の悲鳴を上げる二人の山賊と、

《うわっほーい!久々の血〜!いいねぇ〜♪》

ノリノリでハイテンションの、場違いなシャインの声が入り混じった。

「シャイン!黙っててくれよな!ってい!」

 そのままリィは一人の鳩尾(みぞおち)に蹴りを入れ、剣で一人、眼の上を切りつけた。眼の中に血が入った山賊は、悲鳴を上げ、地面にドスンッと倒れる。

つまり、これで計四人が倒れたことになる。

「次は誰だぁっ!」

 リィがシャインを構えてそう言うと、残りの三人は身を引いた。

が、


ドスッ!


「なっ!」《えぇっ?》

「ぐ、あぁぁ」

ドッスンッ!

大柄な山賊の一人が、床に突っ伏し、動かなくなってしまった。

「何でぇ?オレは何にもしてねぇぞ!?」

《あっ。見て!背中のアレよ》

 シャインが叫び、リィが倒れて丸出しになっている、山賊の背を見ると、

そこには、ナイフの刀身だけが刺さっていた。と、

ビュンッ!

風を切る、鋭い音。

今度は、残った二人のうなじにナイフが刺さっていた。そして、

「!」《?》

 山賊が倒れた瞬間、視界が開けリィには見えていなかった、山賊の後ろに立っていた人物が姿を現す。

その人物は、白髪の美少女であった。

左手には、柄だけとなった飛び出しナイフを握り、瞳には冷酷な色を湛えていた。そして、

少女はスラリと腰の短剣を抜くと、

死んでいない、倒れただけの四人の山賊の脳に剣を突き刺して、殺していったのだ。

「・・・・・・おいっ!てめぇ」

「何よ?」

 凛としているが、まだ幼さを少し持った声で少女は答えた。

「何で殺したんだよ?」

「悪い?」

「悪いって・・・・・・」

「この人たちは悪人よ。殺されて当然じゃない」

 肩をすくめて少女は言い、リィは絶句する。

《うひゃあ・・・・・・》

 そして、小さな悲鳴を上げるシャイン。しかし、

《・・・・・・あの短剣が(うらや)ましいわ》

 小さく付け足した。

「全く・・・・・・。男が七人も寄ってたかって、むさ苦しすぎるわ。あぁ、本っ当異性ってイヤね」

 少女はその美しい顔を歪めて言った。

「・・・・・・っていうか、お前、ダレだ?」

「私はここの用心棒のリコ」

「・・・・・・オレ以外にも、用心棒はいたってことかよ」

 リコを睨みつけるようにしてリィは言った。

《はじめましてー!あたしはシャインよ。あ、この子はリーナ。気軽にリィって呼んでいいわよ。それより、あなたいいわね〜。あー、あんな風にザックザック切ってほしいわぁ》

「シャイン、黙ってろ」

 リィがシャインにそう言い、「へぇ」とリコが声を上げた。

「面白い剣ね」

「今はいい。お前、人を簡単に殺すんじゃねぇ」

「悪人は、悪を働いたその日から、殺される運命になったのよ」

「はぁ?」

 リィは眉根を寄せてそう言った。

「もういいでしょ。結局は死んだんだから」

「お、ちょい待て!」

「何?」

 いかにも呆れたように、面倒くさいように、リコは振り返った。

「お前も旅人か?」

「そ」

 リコは素気なく言うと、あっさりと店の玄関から出ていった。

カラーン。ガチャッ!

ドアに付けられたベルが鳴り、ドアが閉められる。

「・・・・・・気にくわねぇ奴だな。旅の途中で次に会ったら、絶対叩きのめしてやる!」

《何でよ?》

「必ずしも、人を冷酷に殺せる者が強いわけじゃない。あいつはそれも知らねぇのか?」

《まっ、あの子の口ぶりからして、何かありそうな感じだったけどね〜》

 リィはシャインを鞘におさると、呆然としてカウンターに隠れていた主人に頭を下げる。

「報酬は明日、取りに伺います。あー、かたずけは、よろしくお願いいたします」

 そう言うと、リィも出ていってしまった。


 次の日。

カラーン。ガチャッ。

朝早く、レストランのドアが開いた。

開いた入口から入って来たのは、リコだった。

「お早う御座います」

 リコがそう言いながら、奥に入っていくと、

「おい。リコ、とかいったな」

《おっはよ〜》

「・・・・・・リィさんと、シャインさん、ね」

 リコはそう言いながら、立ち止った。立ち止まったリコの方へ、影になっていた場所からシャインを握ったリィが数歩、歩み寄った。

「お前、オレと勝負しろ」

「・・・・・・は?」

 そう言うや、リィは手に持っていたシャインをビュンッと振り、

「はあぁぁぁっ!」

 リコに跳びかかり、思いきり振った。

「なっ、何よ。いきなり!」

「てぃっ!」

 ビュンッ!

リィの振ったシャインをリコは身をよじったり、足を引いて身体を後ろへそらしたり、しゃがんだりして避ける。その度に、おぉっ、とか、上手いっ、とかいうシャインの声が聞こえた。

「オレはなぁ!てめえが気にくわねぇんだよ!」

「それが何だっていうの!」

 ビュンッ!ヒュッ!

リィの剣は(くう)を切り裂き、そして、

「!」

 ドスンッ!

身をよじった瞬間に、バランスを崩してしまったリコは、そのまま床に尻もちをついていた。

ニヤリと笑うリィ。そして、

大きくシャインを振りかぶり、

「もらったあぁぁぁぁ、あ!!??」

 語尾が変に上がった声を上げた。

バキンッ!ドスッ!ガタンッ!

「・・・・・・ってて。何でいいところで床が抜けんだよ―――!!」

 リィが立っていた場所の床がすっぽり抜け、床下に半身が落ちてしまったのだ。

《あ、もしかしてリコちゃんって、運が良かったりする?》

 シャインが言い、リコは尻もちをついたまま、ポカンとしていた。

「っあと少しだったのに・・・・・・」

 ギリッとリィは奥歯を噛み締め、何とも悔しげに言った。

《危なかったねぇ。リィ、かなり殺気立ってたから、リコちゃん殺されてたかもしれなかったよ。あたしを振る力が、ハンパじゃなかったもの。そうねぇ、よくて大怪我(おおけが)だったかな。まっ、あたしは別にいいんだけどっ》

「シャイン!!黙れ!へし折られたいのか?」

《や〜、恐い恐い》

 ちっとも恐そうにない声でシャインは言った。

そんなやり取りを見て、リコは溜め息をつき、立ち上がった。

「な!おい!お前!」

「私は、あなたに用はないわ。あるのはここの主人だけよ」

 そう言うと、すいませーん!とリコは大声を上げた。

はぁい、と奥から主人の声がし、同時に穴にはまったままのリィは、ぐっと悔しそうに顔を歪めた。


 昼。

太陽は丁度空のど真ん中に上っており、午後の日差しがサンサンと降り注いでいる。

そんな町の大通りを、白髪の少女リコがリュックと、手に大きな鞄を下げて歩いていた。そして、

「リコォ!」

 後ろから大きなリィの声がし、はぁっとリコは振り返った。

「何よ?」

「いいか!覚えてろよ!」

「はぁ・・・・・・」

 呆れたようにリコは言い、数メートル向こうでビシッと右手人差し指を突き付けているリィを見た。

《いつまで言うんだか》

 さすがのシャインも、呆れている。

「じゃーね。私、もう行くから」

 くるりと背を向け、リコは行ってしまった。

「ぜってぇ、次に会ったら倒してやる・・・・・・」

 そんなことをブツブツブツブツと言うリィに対して、

《全く、シツコイ子ね。リィは》

 小さくシャインが、リィの腰で呟いた。



 ―――Harredand and Anger



シャイン《さてさて、この話の見どころは何といっても、シャイン様の大活躍な、戦闘シーン!》


リィ「・・・・・・そうなのか?」


シャ《そうに決まってるでしょ!》


リ「ぜってぇ、違うな」


シャ《なぬ!リコちゃんに負けちゃったリィが言っちゃていいの〜?》


リ「なっ!!あれは負けたんじゃねーよ!運が悪かっただけだ!」


シャ《旅人に必要なのは運!ほら作者さんの大好きなキノの旅にも載ってるでしょ!これ基本!》


リ「・・・・・・・・・・・・」


シャ《ま、なにはともあれ、あたしたちのこと、忘れちゃダメだよっ☆後々、また大活躍しちゃうんだからっ!》


リ「作者がそこまで書けるかっていう最難関があるけどな」



如月(ドキッ!!)



※↑は、何となく初登場のリィとシャインを使わせてもらった、あとがきです。

一人と一本のこと、ちゃんと覚えていてあげてください<(_ _)>

では。

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