Second:森をゆく旅人
秋。
秋特有のうろこ雲が、茜色の空に浮かび、薄紫の色彩を放っていた。風は爽やかで心地よく、アキアカネが数匹のんびりと空を飛んでいた。
そんな美しい秋の景色を眺める、一人の少女と一匹のライオンがいた。一人の少女、リコは白い石造りの家々がきちんと並ぶ町の、遊具が沢山ある公園にいた。小さな石のベンチに横たわり、傍にはライオンルークも寝ころんでいる。
「秋だね、リコ」
「うん。秋といえば、いつかの町で食べた“ヤキイモ”っていうものが美味しかったな・・・・・・」
「リコは食い意地が張ってるんだから・・・・・・」
「いいじゃん。食べることが楽しみって人は、結構得な性格だと思うけど?」
リコはそう言い、チラリとルークを見た。
「ま。そーかもね」
「うん。そうだよ」
リコは再び、茜色の空に視線を移した。
次の日。
曇天。朝から雨が降りしきり、外にいる人は疎らであった。空は重く暗く、見る人の心をも暗くしてしまいそうな色である。
「あーあ。雨の日ってツマンナイ・・・・・・」
ホテルの一室で、リコが一人ごちていた。リコは今、出窓に手をのせ、その上に顎をのせて外を眺めている。服はいつも上に着ているVネックの白いシャツは脱ぎ、その下に着ている黒い長袖シャツに、短パンというラフな格好をしていた。
「夕焼けの空の次の日は雨って、結構当たるんだね」
「あぁ。そんなこと言ってた旅人が、昔いたっけ?」
「うん。去年の秋くらいに会った女の子。ほら、空が好きだった」
「そうだったね」
リコはそう言うと、雨の町をずっと眺めていた。
「ヒマ、だね」
ルークの呟きに、リコは欠伸で返事。そして、
「あ」
そう声を上げ、「ルーク」と名を呼び、振り返った。
「お話、してあげるよ」
「お話?一体どんな?」
「私が小さいころ聞いた、
ある旅人の、お話―――――」
・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪
夜。
鳥たちも眠りにつき、夜の番人フクロウだけが静かなメロディーを奏でていた。
そんな静かな森を行く、一人の女性がいた。
女性は艶やかな栗色の髪と、同色の瞳をしている。服は綿の、いたって軽そうな土色のシャツと黒のベルト、革のパンツをはいていた。ベルトには一丁のリヴォルバーが吊られている。
夜の森の中。女性の持つ松明の明かりと、月の光だけが唯一の光である。
と、
ガサガサッ
茂みが大きく揺れ、大きな音が立つ。はっとした女性は、すぐに腰のリヴォルバーに右手を添え、何時でも抜けるようにした。
が、
「今晩はっ」
茂みから出てきたのは、一人の少女だった。はっとするほど美しく、キラキラと発光する、明るいオレンジの髪に、クリンと丸く好奇心いっぱいのはちみつのような金色の瞳。服は薄い生地のAラインワンピース。
「どうしたの?こんな時間に?」
女性は警戒心を解かないまま、しかし自然な笑みで少女に言った。
「お姉さん、だぁれ?」
少女は女性の問いには答えず、首を小さく傾げて問うた。
「私の名前はティラよ。あなたは?」
「・・・・・・・・・・・・あたしね、夜はここをずっと見守ってるの」
少女はまたもや、問いとは違うことを口にした。
「そうなの。どうして?」
「うんっと、それは、えっと、あたしの・・・・・・うーん、『シメイ』?っていうものだったかな?」
「そう」
女性ティラは微笑み、少女を見た。すると、少女は「あっ」と声を上げ、
「あたしもう行かなきゃ」
そう言うと、バイバーイと手を振って少女は駆けて行ってしまった。
はちみつ色の月の光がキラキラと明るく輝く森。その中を歩く、一人の女性ティラがいた。と、
ガサガサッ
茂みが大きく揺れ、大きな音が立つ。はっとしたティラは、すぐにリヴォルバーに右手を添え、何時でも抜けるようにした。
が、
「素敵な夜ですね」
茂みから出てきたのは、一人の少女だった。はっとするほど美しく、艶やかな漆黒の黒髪に、冷静さをたたえた銀色の瞳。服は薄い生地のAラインワンピース。
「どうしたの?こんな時間に?」
ティラは警戒心を解かないまま、しかし自然な笑みで少女に言った。
「お姉さんは、誰ですか?」
少女はティラの問いには答えず、少し微笑んで問うた。
「私の名前はティラよ。あなたは?」
「・・・・・・・・・・・・私は夜、ずっとここを見守っているのです」
少女はまた、問いとは違うことを口にした。
「そうなの。どうして?」
「それが私の使命だからです」
「そう」
ティラは微笑み、少女を見た。少女は「では」と声を上げ、
「すみません。私はこれで失礼いたします」
そう言えと、ペコリとお辞儀をして、駆けて行ってしまった。
静かで、艶やかな夜闇の森。その中を歩くティラ。そして、
「あ・・・・・・出口ね」
森の出口がすぐそこに見え、ティラは呟いた。
森を出ると、そこは月光に煌き、夜闇で深い色に染まっている川が流れていた。そして、川岸・・・・・・出口の側、には小さな小屋が一つ。窓からは、オレンジのやさしい光が漏れ、中に人がいることを示していた。
ティラは小屋へと歩み寄ると、コンコンと窓を叩いた。
「え?あぁ」
小屋の中から少しこもった声が聞こえ、ガラガラと窓が開く。
「旅人さんですか?」
「はい。先ほどこの森をぬけたところです」
「あぁ!そうですか」
「まさに噂は本当だったんですね。
月と闇の妖精が、出る森だという、噂は―――――」
・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪・・・♪
「・・・・・・へぇ。じゃ、その二人の少女っていうのは、妖精だったんだ」
「そう」
「不思議な話〜」
「私も初めて聞いたときの感想がそれだったわ」
話終えたリコが窓の外に目を移すと、雨は小降りくらいになっていた。
「ねぇ、ルーク」
「うん?」
「ルークは妖精って見たことある?」
リコがそう言うと、ルークは暫く黙っていた。
「・・・・・・妖精みたいな、女の子になら会ったことある。でも、その子は多分妖精じゃないだろうね」
「何よ、ソレ?」
「さぁ。僕にもよく分かんない。ところでリコはないの?妖精を見たこと」
「私はないよ。会ってみたいとは思うけどね」
「でも、本当にいるかは分かんないよね。その話ももしかしたら作り話かもしれないし」
「そうかもね。でも―――――」
そこで一度リコは言葉を切り、少し微笑んだ。
「私はいるって思ってるよ。だって、いないと思って生きていくより、いるって思って生きていく方が、何か素敵じゃない―――?」
―――Can you believe it?
すいませんっっ!
昨日は色々とあり、投稿することができませんでした
お詫びと共に、ここに記しておきます。
さて、今回登場!ティラという女性は、まだまだ出てきますよ〜。
今回も、キノの旅にありそ〜な話だな・・・、と思いつつ、執筆していました。
でわ、次の水曜日をお楽しみに♪