Prologue:始まりの出会い
私の第二連載小説「tranelers」、お楽しみいただければ、嬉しいです。
では、本編をどうぞ!
雨だった。
その日は、前日から降り続いた雨で川が氾濫し、川に近い町では大混乱が起きていた。
そんな町を取り囲むようにして密生する林を抜けたところに、ただっ広い草原が広がっている。草原に道は無く、足場は雨のせいで大変悪い。
雨の降る広い広い草原に、一匹のライオンがぽつんと倒れていた。雨に濡れそぼった体は、痩せており、たてがみも汚れている。その眼はしっかりと閉じられ、開く気配は微塵もない。
と、その時、
ピチャ、ピチャ
ライオンへと近づいてくる足音。そして、
「目を開けなさい」
凛としているが、まだ少し幼さを残した少女の声が、上から降ってきた。
「・・・・・・ヤだね」
ライオンは口を開き、幼い少年のような声で小さく言った。
「何で?キミはまだ生きられるのに、どうして目を開けないの?」
「生きたく、ないんだ」
「どうして?」
「・・・・・・仲間に、僕は捨てられた。こんな有様じゃ、狩りもろくに出来ない」
狩りのできないライオンは、自然界では生きていけないのだ。ましてや、このやせ細ったライオンに、狩りをする気もないようだが。
「仲間に捨てられたのなら、仲間を作ればいい」
その言葉に、ライオンはふっと眼を開く。
眼の中に雨粒が入って痛いが、その美しいゴールドの瞳は、しっかりと声の主を捉えた。
声の主は、美しい少女だった。整った顔立ち、美しく深い黒の瞳と、雨に濡れて艶やかに輝く長い白髪。勇ましくも、幼い顔立ちの少女は、ニッコリと綺麗に微笑んだ。
「私はリコ。訳あって旅をしてる。まぁ、まだ始めたばかりなんだけどね」
「・・・・・・そんなこと、聞いてない」
ぶっきら棒にライオンは言うと、すっと少女から視線を逸らした。そうしないと、少女のペースに上手く乗せられてしまいそうだったからだ。
「ねぇ、キミの名前は何?」
「―――――ないよ、そんなの」
「じゃ、私が付けてあげる」
「別にいらないよ。名前なんて」
「うーん、そうだなぁ」
「だからいらないって」
「えっと、そうだ、」
「いらないって言ってるだろ!」
ライオンが叫び、その後、
「もうすぐ僕は死ぬんだ・・・・・・。死者に名前なんていらない」
そう小さい声で付け加えた。
ザアァァァ―――――
空から絶え間なく降り続く雨の音だけが、空しく辺りに響く。
重苦しい沈黙。
「・・・・・・ルーク」
「は?」
静寂を突き破ったのは、リコという少女だった。
「キミの名前。いい?」
「そんなもの―――――」
「そんなもの、じゃないよ!」
ぴしゃりとリコはライオンに言い、その後柔らかな口調で付け足しをした。
「名前はとても神聖なものよ。そんなもの、で済ませちゃいけないの。たった一つの、あなたの大切な名前、
それが、ルーク」
「・・・・・・でも、名前をもらったところで、どうなるんだよ?僕はもうすぐ死ぬ。それは変わりない真実だ」
「死なないよ」
強い口調でリコは言い、その手をゆっくりとライオンの頭にのせた。
「キミは死なない。死なせない。だって、私の仲間なんだから」
「はぁ?」
ライオンは呆れた風に声を上げ、リコを見た。
「ルークには仲間がいない。なら、逆に私の仲間になってくれない?」
「・・・・・・・・・・・・」
ライオンは黙したままだった。
リコはそっとライオンの頭を撫で、その場にしゃがんだ。リコの履いているブーツは、雨でベチャベチャになった草原の泥で汚れていた。
「ねっ?」
ライオンは暫く俯いていたが、
「・・・・・・いいよ。じゃあ、僕が仲間になってあげるさ」
「やったぁ!ありがとう!ルーク!」
リコはルークの体に飛びつくと、おもいっきり頬ずりし始めた。
「うわっ!?何だよ」
「いいじゃん。あ、お腹空いてるよね。すぐそこの町に行ったら、食べ物もちゃんとあるから」
リコは言い、立ち上がると、ルークもよろよろと立ち上がった。
「じゃ、行こうか、ルーク」
「うん。・・・・・・リコ」
一人と一匹は雨の中、ゆっくりと歩み始めた。
さてさて、書きましたよ!二つ目の連載物。私はどうしても、「両立」というものが苦手でして、小説も一つずつ書こうと思っていたのですが、思いがけず書いていて楽しいお話が出来たので、投稿を決定いたしました。もう一つのお話は、グロ系なのですが、こちらは残酷描写が(多分)ないので、グロが苦手なかたも読んでいただけると思います。
さて、こちらの作品は、毎週水曜日更新にします。今日は特別ですが。
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