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モンエナピンク常飲bot

作者: つなかん

「せーんぱぃ。わたしとぉ、付き合ってくださいっ!」

 人を不快にさせる声だと思った。少なくとも、俺はそう思った。口の中に残っている焼きそばパンを飲み込んで、視線を遠くへやる。

 階段を登ってきたのは、いかにもな地雷女ファッションだった。思い前髪にツインテール、制服のセーラー服は大きな改造はされていない。黒いストッキング。

 上履きの色から、一年生であることがわかった。ストローの刺さったモンエナピンクを片手に持っている。

「何いきなり、大丈夫?」

 主に頭が。

 あまり人が来ない階段で昼メシを食べていたはずだが、なんでこんなのに絡まれるんだろう。俺は焼きそばパンの最後の一口を詰めこんだ。

「私は大丈夫ですよ? 元カノが死んだばかりだと、私とは付き合えない? それならそう言ってください。それか、私みたいなのはタイプじゃない、とか?」

 向こうは、俺のことを少しは知っているようだ。あれはニュースにもなったし、別にみんな知っていることだけど。外見がメンヘラのこの女の発した声は、つい先程のそれより不快ではなかった。こっちのが聞き取りやすくて好きだ。

「あー。君のことよく知らないけど、じゃあとりあえず付き合う?」

「ほんとですかぁ、やったー!」

 この声は嫌い。

 慣れた手つきで連絡先を交換すると、すぐに彼女は立ち去った。変な子。

 やっと静かになったので、食後のいちご牛乳タイムだ。クラスの女子がよくやっているみたいに、ストローをパックに刺す。


「お前またそれ飲んでんの?」

 そう言って現れたのは友人だ。クラスは違うものの、昔から仲が良いので今でもよく遊ぶ。運動が得意で、顔だけの俺よりよほど性格も良い。

「さっき変な女とすれ違ったけど、知り合い?」

「さっき知り合った」

 いちごと牛乳のコラボ、この飲み物の良いところは人工甘味料と添加物だと思う。とても美味しい。

「ふーん、珍しいねこんなとこ来るとか」

 夏は暑いし冬は寒い。近くに教室が少ないので、人はあまりこない。この場所は、先輩に教えてもらった。

「付き合うことになった」

「嘘だろ? あの女と? わかってんの? よく平気だな」

 驚いたんだろうか、いつもより強い言い方で俺をなじる。

「四十九日もまだなのに、薄情なやつ」

 すぐに軽い口調に戻った。こういう性格が、人気者の秘訣なのだろうか?

「死んだ人間は生き返らないし、別に良くね?」

 俺のこういう性格が、嫌われやすいとか。

「地雷女っていうかメンヘラっていうか、ああいうのタイプじゃないだろ?」

「まぁ、人は見かけによらないし」

 俺が言うと、友人は軽く笑った。

「前の担任の話?」

 今でこそクラスは違うが、去年は同じクラスだった。そのときの担任の女教師が、とてもタイプだった。髪の毛が短くて、ちょっと強気っぽい感じ。だけどどうやらドMらしい。そんな話を聞いて、早々に諦めた。

「マドンナ先輩も見た目清楚系だったけど、ドSだったんだろ?」

 付き合っていて、楽しかったとは思う。担任の女教師を諦めたばかりだった俺には、きっと楽しすぎた日々。どうしても、死んだ人間は生き返らない。だからいつだってみんな過去形を使う。


『イケメンに殺されたい』

 それが先輩の口癖だった。学校一の美女で、あだ名は今どき珍しくマドンナ。

 俺は先輩の、サラサラした長い髪の毛が好きだった。黒くて真っ直ぐで、でも少し細くて、風に吹かれると良い匂いがした。

 先輩は生前、俺の顔が好きだとよく言っていた。とてもタイプだと何度も言った。イケメンと表現することは頻繁にあった。

 俺たちに特に問題はなかったと思う。三ヶ月前のあの日、先輩はいつもと違うことを言った。

『別に私は死にたいわけじゃない。イケメンに殺されたいだけなの。それに、イケメンなら誰でも良いわけじゃないんだ』

 冗談っぽく笑って、俺も冗談だと思った。今でもそうだ。あれは冗談だった。なにかに悩んでいた様子もなかった。俺は二年生に、先輩は三年生に進級できることは決まっていたし、だからあれは交通事故に遭ったようなものだ。

 今でも詳しくは知らない。ただ殺されたと、それは確実なようだ。ニュースでは通り魔だろうとか、近くで似たような事件があるとか色んなことが流れていた。下品でセンセーショナルな見出しを掲げている中吊り広告も見かけた。


「そうだよ、人は見かけによらない」

 以前は自分の顔が嫌いだった。中学の頃、同じ委員会の大人しめの女子にフラれた。遠回しな表現だったけれど、俺の顔が目立つからみたいな理由で。

「たしかに。お前も顔は良いかもしれないけど、超薄情だしな」

 友人はそう言ってため息をついた。こいつはたしかにスポーツ万能で、友達が多くて、みんなに優しくてモテる。だが美女じゃない、男だ。そして、その罵りはナイスだ。

 美女からの罵りなら、きっと興奮していた。




 下校時刻になると、さっそくラインが入っていた。一緒に帰りたいみたいな定形文のそれ。

『ごめん今日バイトあるから無理』っと。

 すぐに既読がついて、返信も来る。わかりました、みたいな定形のスタンプ。よくわからない気持ち悪い絵柄なのは触れないでおこう。

 友人はメンヘラとか言ってたけど、そんなことない。やっぱり、人はみかけによらないんだ。

 ファミレスのキッチンとかいう高校生では定番のバイト、俺は別に料理が得意というわけじゃないが、もう一年近く続けているのでもう慣れたものだ。

 今日はホールの女子大生のお姉さんがいなくて、ちょっと残念。

「おつかれ、今日はあがっていいよ」

「うぃーす」

 客も少ない平日。店長の言葉に甘えて、帰ることにした。


「おつかれ!」

 バイト上がり、友人は部活終わり。結構な頻度で、帰りの時間が合う。家は隣だから、当然のように方向が一緒。

「あの人と仲良いの?」

 急に、真剣な感じの声。外はもう薄暗くて、人通りも少ない。街灯の心もとない点滅だけが頼りだ。

「どしたのいきなり? 店長のこと?」

 たびたびこういうことがある。ただのバイト先の店長や同僚なのに、変にこいつは気にする。

「いや別になんでもないよ」

 住宅街の街灯は少ない。暗くて、表情はよくわからなかった。




「せんぱーぃ、やっとデートできますね!」

 昨日付き合ったばかりなのにやっととか表現するものだろうか。やっぱり変な子だ。途中まで一緒に帰るだけなのに、そんなに腕を絡ませる必要もないと思う、

「あのさ、こういうのって――」

「嫌ですか?」

「そういうわけじゃないけど」

 困る、今まで関わったことのないタイプだからどう接していいかわからない。

「今日、先輩のお友達に会いました」

「は?」

 急に神妙な雰囲気だ。あいつ、なにかしたのだろうか。

「私、嫌われてるのかな」

 う、こうやって見上げてくるのやめてくれ。わかっててやってるだろこれ、かわいい。

 そういえばあいつ、俺なんかよりモテるのに全然彼女できたとかそういう話聞かないな。不思議。

「合コンしましょうよ」

 ふざけた感じで、でも目が本気。左手の人差し指の爪が割れているのが妙に気になった。今日もモンエナピンクをストローで啜っている。かわいい。

「なに、突然」

「突然じゃないでしょ」

 あれだ、俺の好きな少し低い声。こういうところは好きだ。そう、全然突然じゃない。

 先輩のこと、心当たりが全くないわけじゃなかった。殺されたいとかはよく言っていたし、首を絞めろと要求されたことはもっと頻繁にあった。

「私ぃ、誰か友達誘いますし、もっと軽い感じでみんなでご飯食べるみたいなのでもやりましょうよ!」

「あーうん、俺のバイト先のホールの人が彼氏欲しいとか言ってたからとりあえず誘ってみるよ」

「わかりましたぁ」

 さっきまで強く絡んできた腕がするりと離れる。

「じゃ、私こっちなんで」

 変な子。




「これどういうこと?」

 集まったのは良い。バイト先ではないけれど、同じ系列のチェーン店。ファミレスのドリンクバーって、飲み放題なの凄いと思う。

 友人はなぜか少し怒っている。みんなで遊ぼうと言って誘ったのがまずかっただろうか。最近こいつは様子がおかしい。

「友達たくさんできたらいいなって、私が頼んだんです」

 メンヘラ女と友人は呼ぶけれど、彼女はとてもいい子だ。変わったところはたしかにあるけれど、見た目ほど変じゃない。

「えっと、私はなんで呼ばれたのかな?」

 やべホールの先輩には合コンっていう設定で誘ったんだった。

「大学生ってどんな感じかなって、私も気になってて~」

 ナイスアシスト。今日はさすがにいつも飲んでいるモンエナは飲んでいない。メロンソーダを紙ストローで吸っている。

「いきなりこんなやつと付き合ってお前何考えてんの?」

「ひどーい、こんなやつとかぁ」

 友人の言葉に、少し大袈裟に、けれどどこか余裕のある声色で彼女は返事をした。表情一つ崩さず、メロンソーダを啜る。

「メンヘラリスカ女だろ、どう見ても地雷だしきしょい、こんなのタイプじゃなかったじゃん」

 俺にそんなことを言われても困る。そんな目で見られても困る。どう返事をするのが正解なのだろう。

「は?」

 急に様子が変わった。俺がなにかを言うべきなんだろうけど、なにも言葉が思いつかなかった。

「あなた趣味はある? 運動するのが好き? 映画鑑賞は好き? ライブに行くのは好き? 同じだよ。人にはいろんな趣味がある。こんなのはたくさんある趣味のうちの一つにすぎない。それ以上でも以下でもないんだ」

 俺の好きなやつ。彼女のこういうところが好きだ。付き合ってよかったとさえ思う。

「あー。ほら、私も漫画とか読むの好きだし、とりあえず落ち着こ?」

 さすが大学生というべきか、年長者の余裕なのか、なんとかその場は収まった。

 友人と女子大生の先輩は気が合ったらしく、連絡先さえ交換していた。これは友人にとってもいいことなのかもしれない。


「あの女子大生の人、いい人だね」

 家が近いから帰り道はずっと一緒だ。以外にも女性陣は漫画の話で盛り上がっていて、楽しかったと思う。

「よな? 付き合えば? 彼氏募集中とか言ってたし」

「おれもあのメンヘラ女と仲良くしたほうがいいのかな……」

 なぜ急にその話を蒸し返す。

「別に直接関係あるわけじゃないし無理しなくていんじゃね?」

「お前のそういうとこ嫌い」

 なんでそこでちょっと不機嫌になるんだろう。不思議。




「先輩って本当はロリコンなんですね?」

「いや違うよ?」

 彼女が突然そんなことを言ってきてびっくりした、下校デートで言うセリフじゃないだろ。俺はロリは二次元専門だ。

「ふーん、私は人が死ぬのとか好きですけど」

「は?」

 突然の性癖暴露、そういうことなら俺はロリコンかもしれないけど。

「その手のサイト? ていうかまぁあるんですよね。サイトではないけどぉ、アカウント?」

 『リンク送りますね』と続けてすぐにスマホが鳴った。開いてみると拍子抜けの、何の変哲もないものだった。

『モンエナピンク常飲bot』

 bioは普通、「非公式です。モンエナ常飲者による日常bot、フォロバ手動」

 直近の呟きを見るが、本当に普通のbotのようだ。同じ時間に同じようなツイート。朝はおはよう、夜はおやすみ、それの繰り返し。

「別にこれそんなにやばくないんじゃ……」

「アカウントは見た目によらないんですよ」

 そういうやつのせいで俺は垢ロックされるんだけど。

「ていうか私ぃ、先輩のお友達? のブログ見つけちゃったかもしれなくてぇ……でも違うかもしれないから、ちょっと見て欲しいんですけどぉ」

 下校デートって、こんなに面倒なものだっけ。こんなことを思ってはいけないんだろうけれど、もっと楽しいもののはずだ。以前はそうだった、先輩は――。

「あー、今度読んどくね」

 URLが送られてきたけれど、すぐに開く気にはなれなかった。彼女とはいつもの場所で分かれた。


 交通事故や通り魔なんかじゃないと、本当は気づいていた。殺されたと言っても、普通の殺され方じゃなかった。

 先輩がされたいと言っていたのは扼殺だったけれど、絞殺だったし先輩は美術部で、美術室で殺されていた。工具なんていくらでもあった。

 なのに誰でも入れるわけではない学校で、夜中に、あの日は雪が降っていたからきっと寒かったと思う。

 歩きスマホは悪だが、そうでもしないと落ち着いていられなかった。


2018.01.04


今日からブログを書いてみようと思います。

好きな相手について、少しでも誰かが読んでくれるかも、とか。

まぁメモ帳として書いていきます。


プロフィールの欄に高1って書きましたが、もう1月なので4月からは2年生になります。まぁ、留年しなければですけど笑


馬鹿なのに頑張って良い高校入っちゃったから、少し大変です。


2018.02.16


あいつは自分のことを性格が悪いと思っている。そして、俺のことをいいやつだと思っている。優しいとか、人気者、人格者だとか。


そんなやつは存在しない。


あいつがそう望んだ。あいつはそういう人間が好きだ。いや、そういう人間を嫌いなやつはいない。


担任の教師がドMだと嘘を吹き込んだらあっさり信じた。安心したのに、馬鹿みたいに勉強して、せっかく同じ学校に入ったのに。


夏休み前にあいつは、学校一の美女と付き合った。


外見と性格の良さは比例する。

世界は、イケメンや美女に優しい。

誰だって――俺も、外見の良い人間を不快とは思わないだろう。


美女も例外ではなかった。


美男美女、公言していなくても文化祭の頃には皆察していた。それくらい自然に、上手くいっていた。気持ち悪いくらい問題がなかった。


だから殺そうと思った。


なんて思うだけだけど。


2018.02.28


あいつと俺は、幼稚園からの友達だ。

違う、俺はあいつのことを友達だと思ったことはない。


世界はイケメンや美女に優しい。

あの子は違った。


あいつは本が好きだったから、図書委員になった。中学のとき、同じ委員の子を好きになったと言われた。

あの子は、イケメンが嫌いな子だったみたいだ。


面の皮一枚禿げば皆同じだと言うやつがいる。

そんなことはない。成金や芸能人はまず歯並びを治すし、整形する人間だって骨を削る。


骨格からして、勝っているのだ。

同じ幼稚園、同じ小学校、同じ中学校。

気付かない方がどうかしている。


ずっと戸惑っていた。

世界に優しくされたように、あいつも皆に優しかった。あの子のように、ひねくれていなかった。

あの子にフラれてから、自分の顔が嫌いだと頻繁に口にするようになった。


俺はあいつのことを友達だと思ったことは一度もなかった。

だけど友達面をして、一緒にいた。

そうでもしないと、一緒にいられなかった。


2018.03.15


赤点取っちゃって部活出られないとやばいのでしばらくブログを停止します。





「私三次元のそういうのは興味ないから」

 あのブログは違うかもしれない。だけど、幼稚園から一緒なのだ。思い当たる節なんて、ない方がおかしい。誰かに相談せずには居られなかった。

 ホールの先輩は、さすが大学生というべきか落ち着いて話を聞いてくれた。てか、二次元なら興味あるのか。まぁ俺もロリは二次元限定だけども。イエスロリータノータッチ。

「好きじゃないなら断れば? 彼女もいるんでしょ?」

 軽く言ってくれる、まぁ関係ない相手だから相談したんだけど。俺にはもう興味がないのか、スマホをいじっている。

「あーまた垢ロックされた」

「え?」

 そういえば最近凍結祭りもあった。この人、大人しい顔してるけど結構趣味はえぐいのだろうか。

「最近厳しくって、モンエナ垢みたいなのを規制しろよって思うわ。二次元と三次元の区別がつかないやつって気持ち悪いよね」

 そのとき、ポケットのスマホが振動した。なかなか鳴り止まないし、電話か。

「すみませんちょっと電話してきます」

 ディスプレイを見ると相手は友人だ。席を立って、比較的人のいない静かな場所へ移動する。

「もしもし」

「学校に来て欲しい、今から」

 電話越しでもわかる、切羽詰まったような余裕のない声。もう時間も遅いのに今からとか言う。嫌な予感がした。

「美術室にいるから」

 俺が返事をする間もなく電話は切られた。

「あれ、どした?」

「ちょっと俺急ぎの用ができたので帰ります」

 なにかあったのか心配すぎて、なにか言われてよく聞こえなかったけれど、聞き返す気にならなかった。




「よかった、なにかあったのかと思った」

 美術室の、あの四角くてスカスカの椅子に座っていた。カーテンは開いているけれど、もう日が落ちて電気をつけるまで誰もいないのかと思ったほどだ。

「なんか言えよ」

 ただ黙って、椅子に座って、いつもは絶対にしないのに足を組んで。

「好きなんだよね」

 嫌な予感はしていた。聞きたくない。

「俺の気持ち知ってるんでしょ」

 驚くほど淡々としている。こちらをしっかりと見つめて、足を組むのをやめた。不自然に、床にノコギリが落ちている。

「ごめん、無理」

 男は。

「お前が今付き合ってるメンヘラ女、お前のこと好きじゃない。マドンナ先輩を殺したのだって――」

「あれぇ、バレちゃいました?」

 廊下から現れた、いつもの地雷ファッション。

「なんで――」

 なんで彼女がここに。バレたとは、なにを。

「急に呼ばれたから~、びっくりしてちょっと遅れちゃいました!」

 悪びれる様子がないのは特に気にならない。彼女はいつもこんな調子だ。いつもはモンエナを持っているのに、今は持っていない。指のネイルが全て綺麗になっている。

「こいつだろ、モンエナ垢。殺す相手を探してる。理にかなってるよ、効率が良い。ジェフリー・ダーマーの時代にここまでSNSが発達していたらもっと人は死んでた。だから呼び出した」

 友人の言う『呼び出した』というのは俺のことでも、俺の彼女のことでもないことくらいはわかった。でも、だからこそ混乱した。

「なにを言っているかよくわからない」

 わかりたくもない。

「私は頼まれただけです。でも私、マドンナ先輩のことちょっとタイプだったから。あの人は死にたがってはなかったけど、そうなるように仕向けたんです」

 彼女は人を殺すのが好きということか。他の多くの趣味と同じで、そういう趣味だとでもいうのだろうか。

「は? てかどうして」

「『どうせならイケメンに殺されたかった、でもきっと彼にはそんな勇気がないからこれでいい』って言ってましたよ。ウケるでしょ?」

 ロープを持っている。血が出たら服が汚れるもんな。

 かわいいな。

「人はいつか死ぬ。君は、俺のことは好きじゃないの?」

 俺たちは付き合っているんだから、きっとこんなことで別れる必要はない。

「もう充分楽しんだんでいいです。お疲れ様でした!」

 彼女はバイトを上がるときみたいに言って、鞄から軍手を取り出した。手が汚れたら大変だもんな。

 不意に、後ろから肩を叩かれた。友人だ。

「お前は人を殺せないかもしれない。でも俺は違うよ」

 目が据わっている。いつも、好きスポーツをしているといはあんなにも輝いていた光が今はない。真っ暗で、深淵。彼は静かに、床に落ちたノコギリを拾う。

「お前は俺のことが好きじゃないかもしれないけど、俺はお前が好きだよ」

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