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HSPの生きる道

作者: エチュード

 昨日書店で『繊細さんの本』というタイトルの本を見つけた。よく売れているのか、その本だけのコーナーが設けられていたが、時間がなかったので手に取ってみることはしなかった。そう言えば、テレビなどでも少し前から話題になっていたようだ。いまさら「繊細」が取り沙汰されるのは、その本が原因なのか。


 そのことを思い出して、今日になってネットで検索してみたところ、『繊細さんの本』に関するものや、それ以外にも繊細な人について詳しく載っているページが多数ある。少しずつ表現は違うが似たような内容で、「繊細さん」というのはそのとおり繊細な人、つまり感受性が強くさまざまな事に敏感な人のことを指すようだ。そして、その人達はその持っている特性によって、生きづらさを余儀なくされているとある。


 自分が繊細(HSP)であるかどうかを診断するコーナーがあったので、試しにやってみることにした。いろいろな質問に答えていくのだが、多いものだと百数十、少ないものでは十個ほどの質問数になっている。ひととおりやってみたところ、どの結果でも「HSPの可能性が非常に強い」と出た。これをどう捉えるかだが、なんでもHSPは五人に一人ほどいるらしい。一方、掲載されているアンケート結果によると、自分がそうだと思う人は五割以上いるようだ。ということは、実際は繊細ではないのに、自分を繊細だと分類している人が多いということになる。とは言っても、人の気質や特性を、はっきりと白か黒かで分けることは難しい筈だから、絵の具で白に黒を混ぜる割合によってさまざまな濃さのグレーができるように、五割の人は自分の中に何らかの繊細さを自覚しているのだろうと想像する。私の場合も、繊細という言葉で自分を考えたことがなかったが、少し黒寄りのグレーに属するのかと思う。


 繊細であることの診断項目に、「ささいなことが気になる」というのがあった。私の場合、まさにこれに無条件にイエスで、それを意識した頃から、自分は面倒くさくて厄介で損な性格だと思って生きてきた。匂いや音に敏感で、傍に居る人にとっては微かな香りが強烈な匂いに感じられたり、風の強い日にはさまざまな音が聞こえてきて落ち着かなかったりする。匂いや音はまだ我慢できるとしても、社会生活上の人間関係においても、些細な出来事や他人のちょっとした言動が気になってしまう。

 また「感情、言葉、行動を表に出せず抑えてしまう」という項目もあった。私はこれにもイエスで、自分ではわからず、本当に無意識にその状態になってしまうようだ。例えば、職場の同僚から「何事にも動じる様子がないので、一緒に仕事をしていて安心する。」などと言われたことがある。他人からすると、どうも所謂ポーカーフェイスというやつに見えるらしい。内心はそよ風にも打ち震えているというのに、台風が来ても大丈夫そうに見えるらしいのだ。それを初めて聞いた時は、ただその意外さに驚くばかりだったが、別の人からも同じようなことを聞くと、これはいよいよ本当なのだと観念せざるをえなくなった。ジタバタしないのは時には良いことかも知れないが、いつも良い結果になるとは限らない(それに実際はジタバタしているのだから)。というのは、この人は少々のことには動じないとみると、不用意に傷つけるような言動をする人が、世の中にはいるものだから。

 「人を信じやすい」という項目もあったが、これにはノーだった。確かにそんな頃もあったが、日々の生活で揉まれる内に、無条件に人を信じて生きていくことはできないことを学んだからだ。そんな面からみると、同じ人物でも年齢によってグレーの度合いが違ってくるのかも知れない。とすると、黒の人でも人生経験によってグレーになれるし、白は無理だとしても、かなり淡いグレーまで近づくことができるのではないのか。それは取りも直さず、生きづらさからの脱却に近づくことでもある。


 繊細とは、「気質」だとか「生まれ持った脳の特性」だとあったが、私は自分が「ささいなことが気になる」ことを、性格だと思っていた。しかも、その面倒くさくて厄介な性格を形成する大きな要因となったのが、読書だとずっと考えていた。子供の頃からマンガといわず小説といわず読むことが好きで、過度の読書が性格を歪めてしまったと。それなのに、ここにきて気質だ特性だと言われると慌ててしまうが、ずっと悪者にしてきた読書は、関係がなかったのだろうか。まあ、生まれついた気質が読書に向かわせた、と考えていくと筋が通るのかも知れないが。それとは別に、読書は悪いことではないということは、明記しておきたい。

 

 繊細な人についての分析の中に「他の人に比べて困難な点が多くある」という無慈悲な記述があった。それが「生きづらさを余儀なくされる」ことに繋がるのだろう。この困難な点が多くあることは、グレーながらも身をもって体験している。


 それでは「繊細さん」は、その困難な人生をどのように歩んで行けばよいのかというと、まず「自分に合う境遇に身を置く」と書かれていた。これは繊細な人に限らず、万人に当てはまることだろうが、特に困難な点が多くある人には、大切なことに違いない。多分、ごく少数の限られた選択肢の中から選ばざるを得ないのだろうが。そして、境遇を形づける要素となる人間関係、これがとても重要になる。繊細な人は、ともすれば誰とでも仲良くしなければいけないなどという強迫観念に囚われてしまいがちだそうで、私なども学生時代はそうだった。でも、社会人になってからは、そんなことは無理だということに気づかされた。少し前に「意味なく群れるよりも、意思のある孤立を」というCMのフレーズが話題になったが、今はそんな心境になっている。従って、年齢を重ねるにつれて友人は厳選されてくる。「意味なく群れる」ことが必要な時期もある。それは無駄というのではなく、群れているうちに孤立できる意思が培われてくるような気がするからだ。

 もうひとつ、「繊細であることを長所として生かす」ことも大切なようだ。『繊細さん』の著者自身も繊細な人らしいのだが、繊細であることを生かしてカウンセラーの仕事をしているそうだ。実は私も、職名は違うが、同じような内容の仕事に長く携わっていた。今になって思い出したのだが、その職場の界隈では、精神保健の専門職には自らも繊細で傷つきやすい人がなりがちであると、常識のように言われていた。つまり、細かいことが気になるからこそ、同じ思考をしがちな人の悩みがわかるのだという。小さなことは一切気にならず、従って些細なことで思い悩むことなどない人にとっては、他人の悩みが理解できないこともあるようだ。実際に、相談者の話を聞いた後で「あんなことで何故悩むのかわからない。」と、同僚がボソッと言っているのを聞いたことがある。その同僚は、私などとは全く違うタイプの人だった。

 ただ、その頃でさえも私は、面倒くさくて厄介な自分の性格(だと思っていた)と、繊細という言葉を結び付けて考えることはなかった。


 その職にあった時のことを思い出してみると、確かに面倒くささの裏にあった長所を、仕事上のプラスにすることができたような気がする。例えば繊細な人の特徴であるらしい「高い共感力や、聞き上手で相手の立場になって考えることができる」能力が自分にあることを、その仕事をしてみて初めて認識できた。そして、良きにつけ悪しきにつけ、周りの人の誤解を招く原因であったポーカーフェイスでさえも、その仕事にはとても必要な要素だったようだ。何故なら、悩みを抱えた人が相談する相手が、一見して何事にも動じなさそうな人だったら、ひとまず安心できるのではないだろうか。他の仕事をしている時にも楽しさややりがいを感じることはできたが、ともすれば周りのペースに巻き込まれてしまい、それが心身の疲労を招きがちであった。それを思うとカウンセラーのような仕事は、楽しさには欠けるかも知れないが、やりがいにおいてはこの上なく、また何よりも自分のペースでできるのが最良で、天職と言っても良いかも知れない。


 ここまで考えてきて思うことは、自分が「他の人に比べて困難な点が多くある」という「繊細さん」の要素を備えていたとしても、決して悲観するには当たらない。社会生活での経験が、黒をグレーに濃いグレーを淡いグレーに近づけてくれる。マイナス要素の裏には必ずプラスの要素があって、希少であるプラス面を生かせるような職業に就き、居心地の良い場所に落ち着くことができれば、怖い物などない。




 



 





 




 

 

 

 

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[良い点] こんにちは。 わたしもHSPです。 でも、HSP度はそんなに強くないので、なんとかやっていけています。 「なろう」には診断で「強」と出る人が結構多いようで、「中のわたしですらこんなに生…
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