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78/84

78.死を感じてくれる?

 魔弾の弓兵が一方的に弓を引いていく。ゴーレムの断末魔は、地面が揺れるぐらい長かったな。




 前線も押し上げ、町も過ぎ、いよいよ王子と姫のいるヘイブン宮殿の前の広場まで来た。


「まだ、我々がいるぞ! 元勇者め!」


 戦闘魔術師、七百名様はどうしてそう、かっかするのか? 


「少しは楽しむってことできないのか?」


 今度は、風の魔法、斬風魔法で斬撃が飛んできた。


 アイブルーンドと、俺はかわせるけど、見えない風に次々にノスリンジア軍が切り刻まれる。魔弾の弓兵も、狙いがつけられず右往左往する。


「俺だけ狙って来いよ」


「元勇者よ。貴様の手下は所詮、この程度だ! その弱さゆえに、死ぬのだ」


「あんまり言ってやるなって。あれでも、めげずに頑張ってるんだからさ。俺、弱い奴嫌いじゃないんだ」


「ほぅ、元勇者よ、ならば手下を守ってやらなくてよいのか?」




 え? 前線が押し戻されてる。


「うわああああああああああ! 何だこいつ!」


「ぎやあああああああああ! 勇者様申し訳ありませっ……がああ」


 ヘイブン宮殿前の広場。草木が生い茂り、バラが咲き誇る。


 今は火がつき、踏みつぶされている。リフニア軍と、ノスリンジア軍が折り重なって倒れている。



 そこに、三メートルはあろうかという真っ黒い人型の何かがいる。


 人なのに、顔はない。黒い煤でできた人影。




「まさか、あいつは――」




 そいつに、目はない。顔の部分は口しかないのだが、顔を見た瞬間には遅かった。上空にいる俺のドラゴンが揺らいだ。ドラゴンの首に青い血の筋が走る。


「アイブルーンド……」


 首を斬り落とされたアイブルーンド。かわいかったのに。俺の服に青い血を吹き飛ばして、あっさり死んだ。


 あーあ、戦場飛び回るの、楽しかったのに。がっかりした気持ちで地上に着地する。


 着地した瞬間、俺の背後にそいつは立っている。


「ユウシャ」


「久しぶりだな。カタコト野郎」







 こいつとの出会いは、まだ俺が、ドロテ、アデーラ、マルセルを信用していた頃のことだ。


「ユウシャ、キーレ? 聞イタコトナイ。デモ、魔王様ノ、敵ハ、コノ、私ガ、倒シマス!」


「何、このカタコト野郎」


「だめよキーレ、ちゃんと前見てないと!」




 まだ俺が、ドロテ、アデーラ、マルセルを信用していた頃。冒険の序盤だっていうのに、そいつはやってきた。




 あいつは、魔王の部下、四天王の一人だというのに迷子だったんだ。




 これは、オープンワールドゲームで、序盤に強敵の方が迷子になってやってくる最悪のパターンだ。


 だから、お互いに勇者と四天王だということは理解していない。


 ただ、敵として始末しなければ、後々厄介になる! そう、俺は認められたわけだ。




「え、どこいった? カタコト野郎?」




 冒険に出てから無敗だった俺を、あいつは一度、地に伏せさせた。




 首に添えられた冷たい指。人の姿をしていて、人ではない黒い指。


 え、俺の足浮いてる。


 片手で持ち上げられたことなんて今までない。




「キーレを離せ!」


 ドロテの飛び蹴りが効かない。アデーラの弓も刺さらないで通過する。物理攻撃無効。


 こいつの身体は、物体をすり抜ける。


「ちょっとあんた! あたしを怒らせないでよね!」


 マルセルが、覚えたての氷結魔法でカタコト野郎の腕を凍らせる。しかし、カタコト野郎の腕から氷が剥がれ落ちる。




「ドウヤッタラ、死、ヲ、感ジテ、クレル?」




 俺は首を掻き切られたんだ。あいつの爪で。怖かった。あんな怖い思いをしたのは、異世界ファントアに来てからはじめてだった。




 手が離される。


 首から生暖かいものが噴き出ている。


 視界が霞む。頭の奥の方で聞こえたマルセルの悲鳴。


 地面が目の前に迫る。頭から打ちつける。でも、痛みは感じない。


 首がどくどく鳴っている。俺の首どうなった? 手が震えて、首の位置がよく分からない。


 見つけた。手で触れると指の間から血がどんどん出ていく。どんどん、こぼれる。止まらない。止められない――。







 つまり、俺の最初のトラウマ。


 だけど、だから何だよ。俺はこいつをリスペクトしてやってるんだぞ? 


 ある意味ファンってやつ。今じゃ、こいつのおかげで楽しく処刑(サクリファイス)! してるってのに。




 まあ、あのときの俺、油断してたけど。二回目に会ったときは、俺がちゃんと息の根止めてやったはずなんだけどな。




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