59.焼けていく
リディの苦しむ姿はまるで、あの日の火あぶりの日の俺と同じだった。
どうやら、絶対にやってはいけないことをやってしまったようだな。シスタークロエ。
精魂腐った女のお前は男に性別を変えて、得たものはその馬鹿力と無能な頭脳か。
「シスタークロエ。俺に祈れよ」
「ほう、何をだ?」
「今すぐ楽にして殺して下さいってな」
白隼のブーツで飛ぶ。こいつの脳天への的確な踵落とし。俺の足をつかもうとしてくる。当然だろう。骨折魔法は、つかまないことにははじまらない。
こいつの持つ魔法は、骨折魔法、炎上魔法、それから空間隔離魔法。
「よっと」
空中で姿勢を変えるのは、白隼のブーツでは容易い。もう一段空中で飛んで、クロードの背後に回る。
抜け目なく、クロードは背後の俺に振り向きざまにナイフを振りかざす。指で受け止めて、その刀身を骨折魔法で折る。
「骨折魔法はこうやって使うもんだ」
「ゲス勇者。なら、これはどうだ?」
大きな足を石畳の床に突き刺す。え、まさか骨折魔法で地盤を砕いたのか。
教会の床が崩れる。また上空にジャンプして、まだ残っている教会の礼拝客用の椅子に飛び乗る。
だが、俺を追うように炎の弾が飛んできた。右腕の不死鳥のグローブで受け流す。
「遅い」
左に回り込まれた。また、俺の動かない左手を狙ってきやがる。
「くそ」
俺は慌てて右手で左手をかばうが、今度はかばった右腕も左腕も両方、ざっくり斬られた。また、ナイフが握られている。
こいつ、空間に武器の類などを預け入れて出したりしまったりする空間魔法の空間収納魔法も多用してくるな。
「筋肉質で上質な肉だな。とても一度火あぶりにされたと思えない。これは、まさに女神フロラ様より与えられた肉質」
「気持ち悪いんだけど」
「では聞こうゲス勇者。火あぶりと今そいでやった肉。どちらが痛いか? 苦しいか?」
くそ、こんなことをしている間もリディが焼けていく。俺の一瞬リディに泳いだ視線に気づかれた。
「あの日の火あぶりは、格別というわけだな」




