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55.下された判決

「エリク王子への暴行の罪」




 ク、クロエ。俺はそんなことはしてない。俺はずっと拷問されていたんだ。エリク王子から。




「エリク王子の婚約者である回復師マルセル嬢への暴行」




 マルセルを殴ったことなんて一度もあるわけがないだろう、クロエ。




「以上の理由より、勇者キーレを火あぶりの刑と処す」


 また、意識が飛んで耳から入ってくる言葉がただの音になっていく。火あぶりとか言っていたような気がしたが。




「い……だ、い……やだ! まだ死にたくない!」




 焼かれるくらいならまだ拷問され続けている方がましだ! 頼むやめてくれ! 熱い! 痛い! 


 や、やめろよ! 俺はまだ死にたくなんかないんだぞ! お前らに殺される筋合いはないんだ! 


 俺は、俺は勇者だ! 殺されてたまるか! 処刑されてたまるか! 俺は、俺は……。




 お前ら全員を処刑(サクリファイス)してやる。




 ふと目が覚めると、リディが俺の目元に口づけをしてくれていた。俺は顔を赤らめてリディを振り払った。


 嫌な夢だ。目元が濡れている気がするが、きっと朝露だろう。




 俺はグール三人の心臓を握りしめたまま教会内部で眠っていたようだ。それを全部、噛み千切って足元に捨ててやる。あいつらも、あの世行きだ。




「さ、次の処刑(サクリファイス)だ」




 今日も張り切って処刑(サク)りますか。ところが、リディが俺に背後を指さす。この教会、さすがにラグンヒルの屋敷から近すぎたか。


 誰かが尾行していたのか。




 教会入り口に知らない大柄の男がいる。


 俺より頭一つ分身長も高いし、体格もいい。腕力だけなら下手したら負けるかもな。だが、俺の本領は人体破壊魔法にあるので俺の方が有利に決まっている。




「リディ、宝石に戻ってろ」




 俺のチョーカーの漆黒の宝石に戻ろうとするリディに向かって、男が吸引魔法を放つ。物体を引き寄せることができる魔法だ。




 くそ! リディを取られた。リディを拉致してどうするっていうんだ!




「これが勇者の回復魔法の代わりか」




 何故リディの存在を知っている。そして、俺が回復魔法を使えないことはもう、どの国でも知れ渡っている事実ということか。




「だったら何だよ」


 謎の男はリディを握った手から俺にリディが見えるようにする。リディは申し訳なさそうな顔をしている。




「返してほしいか?」




 何だよ、その言い方。まるで俺が回復魔法なしでは戦えないみたいな言い方だな。


「別に。そいつは女神フロラ様からの俺のお目付け役みたいなもんで邪魔だったんだ」


 こんなこと言うとリディは怒るか? でも、リディならこれが本気で言ってないことぐらい分かるだろう。




「そうか」


 男は容赦なくリディを握りつぶした。リディは元々声を出せないが、俺にも耳を裂くような声が聞こえた気がした。




「やめろ! 今すぐ!」




 ヤメロ テヲダスナヨ リディニ テヲダシタラ オマエハ サクル




 自分でも理解できない怒りが湧いた。俺はリディに愛着があるのか。この俺の手がまさか、震えている。




「ほぉ、ゲスのお前でもまだ良心が残っているのか」

「黙って放せ」




 憎たらしい男だ。良心ね。我ながら甘い。リディの命一つ諦めきれないで復讐は成立しないぞ。




 だが、この男にそのことを指摘される筋合いはない。リディのことをどうするかは俺の問題であって、こいつに人質にされていいわけがない。




「それはできない相談だ。だが、いつでも握り潰せることは頭の隅に置いておくんだな」




 リディはまだ男の手の中。これは、俺がさっきグールの心臓を握りつぶしてやったことへの仕返しか? ということはこの男、やはりラグンヒル邸での俺の大立ち回りを把握している。




 頭にきていることをできるだけ顔に出さないように尋ねる。


「お前何者だよ」


「俺は元勇者討伐隊の隊長。そして、お前の処刑リストに入っているクロエだ」




「はっ? クロエは女だ。嘘だろ、まさか」




「俺は魔術により性別を変えた。今はクロード隊長だ。また、お前の判決を下してやろう。お前はエリク王子を拷問にかけた罪、及び国家回復師マルセル姫を殺害した罪で、皮剥ぎの刑に処す」




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