52.さるぐつわ
忙しくなりそうだ。門番グールに、見回りのグール多数。それから、「元勇者を討伐し隊」ってのも結成されているみたいだしな。
俺ってやっぱり人気者。異世界ファントアが求める、狂気の勇者様というわけだ。
ノラとイーダを木にくくりつけたままにしておくのは、可哀そうだ。俺は優しいから二人の首が締まるようにしたまま、腸をつかんで二人を引きずり回す。
「ううう!」
「くかぅあ」
屋敷のどこに隠しとこうかな。だってまだ、拷問すらはじめていない。こいつらが悪いんだ。
心臓を保管庫に入れて、死なないようにしているなんて反則だろ。
「いたぞ勇者だ!」
まあ、見せびらかしたら追手も来るよな。その辺の木に手のひらで骨折魔法をかけて木をなぎ倒していく。
追手を木の下敷きにして、娘二人をそそくさと裏庭の庭園に隠す。
腸でさるぐつわをしたが、こいつら人肉を食べるから食べちゃうかな?
「あ、いいこと思いついた」
人肉じゃなかったらいいんだ。ノラの腹に指をつっこんで腸を引っ張り出して、イーダの口にさるぐつわをする。
「ぎいいいいいいやああああああ」
ノラの悲鳴、まだ幼い感じがして切なく胸が痛むな。お次は、もごもご話しているイーダの腸を引っ張り出してノラに咥えさせる。
「っひばああああああああああああああ」
イーダは妹にしては色のある声を出すなぁ。これくらいにして、心臓を盗みに行きますか。
草木で二人を覆ってしっかり門番グールの腸で縛って。あれ、腸って万能アイテムなんじゃないか。俺天才。
屋敷の中は灯りの一つもつけないで、みなさん元気に走り回っていますね。グールって暗闇でも目がいい。
で、人間の元勇者討伐隊は、松明を持っている。これは、俺に狙えと言っているようなもんだな。
「その手に乗るかよ」
俺は何も、獣みたいに吠えたり血を求めて彷徨う化け物じゃないぞ。俺をそうさせるのは、俺を処刑したり傷つけたこいつらのせいだ。
俺はとても正常に運転中だぞ。
そっと、グールの使用人たちに触れていく。
「はい、骨折っと」
骨折魔法はぼきっと大きな音が出て怪盗っぽくないな。屋敷の曲がり角で別のグールに出くわしたので、今度は切断魔法で喉笛を掻き切る。
「はい、切断っと」
壁に血を塗りつけて倒れる死体。もはやホラー映画さながらで怪盗っぽくないな。
「あれ? 俺って怪盗向いてないのか?」
でも、まあいいや。見えてきたぞ。保管庫。目に見える罠だらけ。俺にかかればこんなのは、全て子供騙しだ。




