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48.グール

 勇者襲撃によるセスルラ国の三大騎士団、壊滅の報告はこのユスファン国にも伝わってきた。


 ユスファン国新聞によると勇者はセスルラ国の休戦の申し出を蹴ったようだ。新聞は発展したこのユスファン国にしかない代物で、他国の情報がすんなり入ってくる。


 リフニア国の援軍をも退け、勇者によって放たれたドラゴンたちは勇者の攻撃を受けた恐怖から混乱し、国を襲い始めたと。


 セスルラ国の国土半分が焼け野原になっている。




「お母さん。勇者って、あのキーレのこと?」


 わたしのかわいい、双子の娘たちが新聞の取り合いをはじめた。勇者の顔は似顔絵でしか報じられていないが、まごうことなく、あの魔王を倒した若者。


 そして、わたしの娘たち二人を旅に一度誘(いざな)った男。


「え、ノラ違うよ。今はキーレなんて呼んだらだめなんだよ。勇者はもう身も心も悪魔そのものなんだから」


「えー、イーダそれほんとう? キーレのこと美味しそうで好きだったのに」




 娘たちには好きに呼ばせておくことにする。勇者キーレのことを娘たちが好いていたのは、二人ともあの男の心臓が欲しかったからに違いないわ。




 短髪で茶目っ気のあるノラは、ふてくされたようにつぶやく。


「また、旅につれていってくれるって言ってたのに」


「ノラ。お姉さんなんだからわがまま言わないの」 わたしがたしなめると、今度は赤毛で妹のイーダが問い詰めてくる。


「じゃぁ勇者は嘘つきなの?」


 わたしはそっけなく答える。


「そうね。嘘つきね。だって、早々にあなたたちのことが嫌になってこの屋敷に送り返して来たじゃない」


「じゃあ、嘘つきは食べていいの?」  ノラが新聞を放り出してわたしを見上げてくる。


「誰でも食べていいわけじゃないと教えたでしょう? あなたたちが勇者を夜ごと食べようとするから、追い出されたんじゃないの?」


 今度はイーダが抗議する。


「ちがうよちがうよ。勇者はわたしたちが食べようとしても上手くかわして、違うお姉さんのところに寝転がりに行くんだから」


「まぁ。それは困った勇者だったのね。でも、気をつけて。次にわたしたちは狙われるわ」

 ノラが目を輝かせて部屋でぴょんと跳ねる。




「ほんと? じゃぁ、今度こそ勇者の心臓、もらえるかな?」




「え、ノラずるいよ。わたしが先にえぐり出してやるんだから」

 わたしは手をパンと一つ打って、二人の喧嘩を止めた。




「二人とも、みっともないわよ。勇者が来たときの殺害方法は、わたしが教えたとおりにすると誓ったはずよ」




「はい、お母さま。勇者をまず拘束し。目玉をえぐりだします」

「ノラ、ずるい! わたしが目玉やりたかったのに」




「イーダも聞きなさい。勇者はこのかわいいあなたたちを仲間から外したのよ。嘘をついてね。あの男は種族問わず仲間にすると言っていたのよ。それが、結局これよ」




 わたしたち、グールを人のように扱ってくれる数少ない人物が勇者だった。なのに、あの男は嘘つきだ。だから、火を放ってやった。あの男の親しくしていた人間の町全てに! 




「お父様が人間に殺されたときも勇者は知らなかった、ほかのクエストを受けていた。魔王討伐が終わったのにほかの仕事で忙しい、の一点張り。だからあの男の親しい町娘を食らってやった。ちょうどそのときよ。奴が処刑されたのは」




 ははははは。なんて愉快な日だったかしら。




 わたしたちは身分を隠しながら勇者処刑を見学したわ。あの男、わたしたちの姿を見て一目で分かったでしょうね。わたしたちが誰かを食べてきたって。そしてわたしたちは笑顔で手を振ってやったのよ。あの男が焼かれる姿に。




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