45.切断の応酬
ヴァレリーは右手の剣を一振りして炎属性から、左手と同じ俺の弱点である雷属性に変える。
「これは、文字通りお前にとっては痺れる戦いになるのではないか? キーレ。お前は魔王を倒してからというもの、この世界の変革を知らぬだろう。私を含め、お前を処刑した後の仲間は、みなそれぞれ躍進しているのだ」
「俺の弱点がなんだよ。俺の方が処刑る理由が上なんだよ」
骨折魔法をまとってヴァレリーの剣そのものを狙う。雷が俺の不死鳥のグローブを焦がす。くそ、雷が邪魔で骨折魔法が刀身まで届かない。剣を折るのは諦めるか。
ヴァレリーは容赦なく俺に双剣を振るった。軌道を読んで指で防ぐ。キンッと俺のメスの指と剣の交わる金属音が鳴る。
バチッ!
静電気みたいだが、明らかに高い音が鳴る。やっぱり指が痺れてくる。
「どうしたキーレ。お前は処刑勇者なのだろう? 早くも処刑される側に逆戻りのようだな」
左右から挟み込むような軌道。俺は両手で押さえる。弾くつもりだったが押さえ込まれる。ずっと剣を握っていると、電撃が指だけでなく身体まで伝ってきた。
ひりひりする。雷が目に見える青白い光を放って、俺の身体を走る。まだ堪えられるが、長くは持たないかもな……。
俺は睨みつけるようにして肩で息をする。
「息が上がってるぞキーレ。斬られたわけでもないのにどうしたのだ? お前は先ほど、母上の親指を切断したな。母上の分まで切り刻んでやるのは、これからではないか」
剣を握らせて放させないつもりらしい。その間ずっとこの電撃の痺れと熱に耐えないといけない。
ヴァレリーがおかしいものでも見るように尋ねてくる。
「その指。刃物だとあちこちで言い回っていると聞くが。よほど自慢なのだろうな」
「ハァ……十本、全部、メスな。ハァ……かっこいいだろ?」
「私は刃物をも斬ることができる」
っは……。
切断魔法をまとったままの状態にも関わらず、両手の指が切り落とされた。親指以外全部。手のひらの外に向かって舞い落ちていく。
「……がっ……ぐっ」
そんな嘘だろう? 俺の指は十本全部、メスと同じ切れ味を……。
「ぐああああああああぁああああ!」
こんな奴にやられていいわけがない。牧草に飛び散った八本の指。ひ、拾えない! 親指だけじゃ拾えない――。
こんなの嘘だ。
歯を食いしばって堪えた。俺の手を見る。指の代わりに骨が見えて、血が噴水みたいに吹いている。
「俺の指……」
腹立たしい。こんなことされて許されるかよ!
俺の指! 俺の指! 俺の指!
歯をむき出しにして吠える。こいつは! 処刑だけで済まされないことを俺にしてくれたな!
俺の肉体を傷つけることはあってはならない。
拷問されたあの日と同じようなことは二度とあってはならないんだ。
俺の命は女神フロラ様から与えられた奇跡の産物! その奇跡をヴァレリーは汚した――。この意味が分かるか?
それに、こいつだけには拷問まがいの攻撃を受けることも許されない。
俺が殺してやらなくてどうする! 俺が処刑するんだ! 指がなくても処刑してやる! お前の命が欲しい。
イノチ、イノチ、イノチ、イノチ、コイツノ、イノチ……!
パニックに陥っていた。顔面に肘鉄を食らった。顔の痛みなんか気にならないが、頭部が揺らいで視界も傾く。次に来た電撃をまとった刃をかわせなかった。
ざっくり胴を斬られた。焼ける痛み。走る衝撃。肩から腹まで渡る痺れと出血。
「……!」
だが、膝はつかなかった。後ろに踏みとどまる。この程度では死なない。だが、危なく悲鳴を上げるところだった。両手の指からまだ血が水道水みたいにほとばしっている。
「お前の親指は楽しみにとっておこうと思ってな」
なかなか憎いことしてくれるな。親指だけ残すなんて。だが、手のひらが形として残っていれさえすれば魔法は使えるんだよ。
前髪が垂れてヴァレリーの姿が隠れてあまり見えないが、俺は荒げた息を吐き出してから凄む。
「調子に乗るなよ」
痛みは拷問で慣れているのであまり感じないが、俺は悶えながら思い出す。俺はさっき食いちぎった第二騎士団長様の味を思い出す。
力がみなぎってくる。バフってやつ? 血だよ! 血が欲しいんだよ! お前らの苦しむ顔と血が欲しいんだよ!
「お、お前、何をニヤニヤ笑っておるのだ」ヴァレリーは俺の淀んだ瞳を見て震えた声を上げる。
俺は口の端を舐めてヴァレリーの処刑方法を決める。
「俺の指から血が止まるまで、お前のあらゆる部位を切断してやるよ」




