43.黒歴史
俺の行った殺害方法に対して、野生とは恐れ入るなぁ。
「野生ね。まだましな呼び名でよかった。もうずっと外道とか悪魔とかこの世の者じゃないとか言われて、胸が痛んでたんだ」
ヴァレリーは目を充血させている。これは、お互いに楽しめそうだな。後ろのお前の母親代わりのドラゴンに気づいたか。
ドレッドバーンレの親指を切断魔法で切断してやる。あっと開いた口。怒りの眼差し。たまらないな。俺が憎いんだろう?
「キーレ、母上に手を出したな。どうなるか分かっているのだろうな」
「え、ママって言わないのか」
色々とヴァレリーは俺の知っているヴァレリーと違うな。まず、こんなおっさんだったけ?
俺より一つ下のはずだ。変身魔法で化けてるのか。よほど俺より年下なのがコンプレックスだったんだな。俺より兄貴面したいわけね。
俺が薄ら笑いを浮かべていると、ヴァレリーは冷静になって俺を見下すような目で見降ろしてきた。
「母上を人質にするとはな。確かに生かしておけない。だが、私はこのときを待っていたぞ。拷問部屋で靴を舐めさせてやったとき以来だな。まだあの味を覚えているかキーレ?」
クソ、いきなりそれかよ。
こいつを真っ先に処刑すれば良かった。あのときのことを思い出すとこいつだけでなく自分も許せなくなる! 拳を強く握りしめすぎて爪で不死鳥のグローブに穴が空いた。
「私の母上に手厚い拷問をしてくれたようだが、キーレ、それでお前は満たされるのか?」
「何が言いたいんだよ」
「お前の心はすでに私に一度、屈服しているのだよ」
心臓に針が突き刺さるような痛み。
嫌でもこいつに頭を下げてエリク王子に処刑をやめて下さいと頼みこまないといけなかったあの状況。敗北感。
処刑日は伸びたが、その分増えた拷問日数。俺に刻まれた黒歴史だ。
「ほざいてろ。今から処刑ってやるから」
ヴァレリーは俺を蔑む視線をまだやめない。
「サクる? それは殺すという意味で言っているのか? それとも、まさか処刑という意味ではないだろうな? 残念ながら処刑されるのは私ではない。お前はここで敗れる。あのときの屈辱をもう一度味わうがいい」
あくまでも俺に、あのときのことを鮮明に思い出させるつもりだ。ふざけるな!
コイツハ、サクル。ホネノズイマデ、サクッテヤル。




