38.軍事国家セスルラ国
竜騎士ヴァレリーなんて格好つけた名前だけどさ。あいつは俺より青臭くてまさかの年下だったんだよな。一つ俺の方がお兄様だ。
最初俺は魔王討伐の旅をするにあたって、女だらけでウハウハしたかったんだけどな。ヴァネッサがときどき、うざいんだわ。
女王様プレイをしたがって俺に靴を舐めろだ、尻を出せとか、ぶってあげるとか。
魔物と苦戦した日の夜に限って命令してくるわけ。俺、疲れてるからゆっくり寝たいのに叩き起こされるの。
勇者にSMプレイを強要するのは良くないことだと思うよ。
俺は愛に飢えていたけど、ヴァネッサは俺を意地でも愛さないって言ってたな。殴らせてくれたら愛してあげるとも言っていた。ツンデレだよな。
でも、殴られるのは勘弁だし、逃げ回るのにも疲れたんだ。
でも、仲間としてつれていったのは、ヴァネッサの色気だけ見れたらよかったから。戦闘中にはためいたローブからチラ見えする丸っこい尻とか。
「愛して欲しかったら殴らせなさいよ!」っていつも口うるさかったから、ある日限界が来たんだよな。それでヴァネッサ一人だけのために、男一人つれてくかって閃いたんだ。
それで、白羽の矢を立てたのがヴァレリー。あいつ、とんでもない変態で俺とも気があったんだよな。あ、俺は変態じゃないから。
竜騎士ヴァレリーは今、セスルラ国の騎士団長に就任していると言うじゃないか。出世したもんだな。
最初は肩書も、竜騎士だけだったのに今はセスルラ国第一騎士団長、赤双竜の騎士とか呼ばれてるみたいだ。
セスルラ国は第一騎士団から第三騎士団まで保持する。いわば軍事国家。
過去には弱小国のディルガン国に援護として第三騎士団全てを送り込んだこともあるという。
「正直、この大きな国を陥落させるには、どこから手をつけるか迷うな」
さすがの俺も入国に、変装せざるを得なかった。
変身魔法が使えたら楽なんだけど、使えないから俺は肉屋の肉に紛れ込んだんだ。その辺の村人を殺して人肉ミンチにして、それを上からかぶる。
冗談冗談、そこまで俺、残虐非道じゃないつもりだ。でも、一人半殺しにして服は奪ったけど。
セスルラ国の、大通り。人の往来も激しく、うっかり勇者だとばれようものなら本当に終わりだ。とりあえず偵察に行くだけだ。
まず、ヴァレリーが不在ということもある。第一騎士団長様が、常にセルスラ国で居座っているということもないはずだ。前線で指揮を執る人物になったヴァレリー。
何で俺がこそこそ隠れていなきゃならないんだ。
「めんどくさくなってきた。リディが偵察。とかしてくれないよな?」
リディは出てきてすぐに首を振る。そのためだけに出て来なくても。
「だよな。俺と一心同体だもんな」
やっぱ、派手に登場して王国中をびびらせてやろうかとも思った。でも、ここは騎士団が三つあるというだけで、面倒くさい。
おまけに、さっきから町人に交じってリフニア国の騎士団も視界に入ってくる。
ノスリンジア国は、リフニアとはそこまで仲がいいわけではないから、今回は見かけないな。
「王子のやつ、諦めが悪いよな。ノスリンジアは手を引いてるっていうのに」
リディが市場を指さした。
「何か買っていく?」と、言っても俺は金を持っていないので、買うというのはリディに対しての体裁だ。実際は盗むつもり。
「ああ、薬とかね。でも、そんなしょっちゅう怪我するわけじゃないし」
リディは心配そうに見つめてくれる。やっぱりかわいいなぁ。俺のことを考えてくれるのはお前だけだな。
「回復は、お前がしてくれるから、必要ないさ。いるとしたらこれかな」
俺は喫茶店に入る。中世にも喫茶店があるってこと、この異世界に来てから知ったな。でも、出てくるのはお湯なんだ。せめて紅茶を出せよ。
まあ、身体の疲れが取れるお湯なんだけどさ。その中でも欲しいのは「耐火のよろず湯」。
これから竜騎士ヴァレリーを処刑するんだ。ドラゴンを呼ばれて燃やされたりしたら困るからな。
炎はいっさい効かない状態にしておかないと。と、思って黙って店内の「耐火のよろず湯」を何食わぬ顔でパクった。




