35.強制労働
中身を見て、とりあえず匂いもかいでみて大丈夫そうなので飲んでおく。今まで数々の毒と解毒剤を飲んだことがあるから、まあ大丈夫だろう。仮にこれが毒の上乗せでも、魔王を倒した俺に怖いものはない。
「強制労働。それはいい呼び方ね。実際、あんたはすでに働かされているのよ」
「今すでに?」
特に体に異変は感じられないが。空間隔離魔法で隔離されているわけでもないし。
あ、足元に魔法陣あるじゃん。おかしいな、さっきはなかったのに。
国家戦闘魔術師たちが駆けつけてきた。ここで戦闘したら、地上が崩れるけどいいのか?
魔法陣から光が柱となって放たれる。俺が飛び出ようとすると、戦闘魔術師が炎の魔法で壁を作って俺を魔法陣の中に押し戻す。
切断魔法で切れないことはないけど、狭い地下通路では切っても炎が壁に当たって戻ってくるしな。
だからこの狭いところで襲ってきたのか。正直、詠唱団より面倒な奴らだ。何だか力が抜けてくるみたいに感じるし。
この魔法陣、もしかして魔力吸収魔法か。
「俺の魔力は底なしだぞ」
「だから、強制労働にこき使ってあげるんじゃない。あんたの魔力で毒の沼地と化した、この国を一気に復活させるわ。エリク王子の拷問はそれからのお楽しみよ。あたしからも一つ。プレゼントしとくわ」
人形の姿でマルセルは指輪を投げつけてきた。俺といっしょに冒険していたときに告白までしなかったけど、冗談半分、半分本気で買った指輪だ。
「あーあ。いらないのか」
残念。非常に残念な気分でそれを受け取った瞬間、全身に雷が落ちたような痛みと重力を感じた。立っていられない。床の魔力を吸い取る魔法陣に押さえつけられる。
「ぐあああ」
くそ、一瞬声出た。このクソアマが!
「こ、これは反則だろ」
指輪に呪い。俺からのプレゼントにだぞ? こ、これが失恋……。
しかも、重いし、電撃の衝撃はずっと続く。魔力がどんどんなくなるのも感じる。
「ふふふふふ。ちゃんと働いてね。ほら、地上の音が聞こえる? 地面が正常に戻っていくのよ。地上から毒が引いて、地盤が元の高さに戻る音よ」
このクソアマはどこまで行ってもクソアマだ!
もう許さない。床に俺を這いつくばらせるだと?
「あら、キーレ。抵抗してくれてもいいのよ。そんな恨めしそうな目で見るのなら、人形のあたしを殴ってくれてもいいのよ。何も感じないから、殴ってもあんたは満足できないでしょうけど」
おい、マルセル。俺はうち震えているんだ。苦しくてよだれが垂れてくるんじゃないぞ。これは、お前を今から食らう舌なめずりだ。
お前そのものに痛覚がなくとも心はずたずたにしてやれるんだよ。




