33.リフニア国再び
深夜のリフニア国はもう終わっていた。見ただけで分かる。教会の前に設置された女神フロラ様の像は砕けている。
誰がこんな不届きなことをしたんだろうな。
「アナログばばあになっても、女神様は女神様として崇めてやるべきなのに」
土の上を歩くとブーツの底から泡が立ち上ってくる。白隼のブーツが溶けることはまずないが、これは地面から常に毒が滲み出ているからだな。
アデーラが死んだことで、川は汚染された証拠だ。俺の思惑通りっと。深夜にこそこそ来なくても、人もいなくなったみたいだしな。
でも、はっきり言ってあの拷問部屋に行くのは気が引けるな。そうそう、このときのためにつれてきたんだ。
「さっさと歩けよ!」
ディルガン国の国王カルロだ。ディルガン国は、竜騎士ヴァレリーと魔女ヴァネッサを雇って、俺が魔物から救った村を焼いてくれている。
勇者処刑後、俺が仲良くしたことのある村や、町はことごとく焼かれた。リフニア国と同盟を組んでいる。クズの国。
「勇者よ。わ、わしに乱暴をしてみろ。貴様などドラゴンの餌にしてくれよう」
「っはは。俺、生き返ってすぐにさ、本当に生き返ったかどうか確かめたくて一度行ってみたんだ。仲良しの村とかにさ。あれ、ヴァネッサも火つけるの好きだったけど、焼き方がドラゴンっぽいなぁって思ったんだ」
オペラ座を襲撃する前に一番お世話になった最初の町に寄った。ドロテと剣の練習をしたあの町。ドロテも旅の最中だったから、彼女の出身地ではない。
ドロテは抵抗なかったらしいな。村が焼かれること。ドロテと出会った酒場は、屋根が焼け落ち。宿は更地になっていた。
俺、あそこのおかみさんの手伝いをしている小さい女の子とか好きだったのに。竜騎士ヴァレリーがドラゴンに乗って町や村を焼いたのが目に浮かぶ。
宿のおかみさんと女の子は、逃げ込んだのであろうキッチンの床と骨が溶けて一体化していた。ドラゴンの灼熱の息は骨も溶かすからな。
「さっき言った通りだ。解毒剤を取ってこい。それから、マルセル姫がいないか確認してこいよ」
カルロ王の尻を蹴る。
破裂魔法で、尻の穴、破裂させてやろうかと思ったけど、B級ホラー映画みたいだからやめた。
十五歳になったことだし、今ならR指定映画も今なら見れるぞ。
リフニア国の騎士団は、詠唱団の代わりに土木作業に駆り出されていた。どこもかしこも人手の足りていないリフニア国の地下牢に、再び潜入するのは楽勝だった。
地下牢にカルロ王を送り込んだ。
「ふー。また毒がじくじくしてきたな。あ、これ毒って言ったらだめだな。愛だった。愛が疼く」
遠くでカルロ王の悲鳴が聞こえる。やっぱり拷問部屋に罠を張ってたな。
俺が直接行ってやる必要もなかったし。仮に毒を浴びたままでも、ときどき回復魔法をかけとけば死には至らないしな。
でも、カルロ王がどうなったか見てみようかと思い至ったとき、後ろから小さい足音がついてきていた。人ではないほどの小さな足音だけど。
「キーレ」
優しく懐かしい声。美しく鳥のような声は、俺への愛を叫んでいる!




