28.処刑の醍醐味
詠唱団は俺を今捕らえる気はないのか、結界は張ったままで誰も動かない。騎士たちも。
これは、俺に毒が効くのを待ってるのか。それで、びびって逃げ帰れとでも? 冗談じゃない。
「おい、アデーラ」
俺は語気を強める。お前らの思い通りに俺が行動すると思うか?
だいたい、一番最初に伝言ゲームをしたのは俺なんだぞ。
それが、エリク王子の伝言ゲームにすり替わった。俺の最初の標的が変更されただけでも、俺には許せないことだ。
「お前、戦うつもりがないって言ったよな?」
俺は口の端からよだれを垂らす。毒のせいなのか、興奮してきたからか分からないけど、たぶん、後者。
「そういうやつを一方的になぶり殺すのも、処刑の醍醐味って知ってるか?」
アデーラが身構える。俺の殺気を感じても、もう遅い。
「お前はもう俺の視界に入った時点で処刑ることは決定してるんだよ」
騎士団長のいない騎士団など、ごみ以下。時速百キロの蹴り。騎士団など将棋倒しになっておしまいだ。アデーラは詠唱団の後方に避難する。
「待てよ。アデーラ。今なら愛してやるよ、その美貌。だって、俺は今、喉から手が出るほどお前の命が欲しい。お前の命を愛してやるよ」
詠唱団が、歌のように合唱する。空間隔離魔法を俺が指で切り裂いたので、次の呪文に入ったのだ。
広場の地面が巻物のようにめくり上がって上から襲い掛かってくる。
「さすが、毒の沼地、切り開いただけあるよな。お前ら土木業でもやってろ」
腹立たしいので、十本の指全てで細切れにする。ひっかくように指を振るってついでに詠唱団をタッチしていく。破裂魔法は即死させるのにもってこいだ。
ああ、じれったいなぁ。背中からも汗が噴き出てきた。はぁ、はぁ。これってマルセルの愛の毒? 愛なの?
顔面を弓矢がかすめた。アデーラ、詠唱団に隠れて撃ってくるのは、なかなか卑怯だな。詠唱団の残り半分も死体になってもらおう。
「サクサク、処刑」
あ、呪文みたいに言っちゃった。もはや、これ呪文じゃないか? 俺だけの呪文。
詠唱団全滅っと。しかし、アデーラはまだ逃げる。俺の毒が回るのを待つつもりだろう。知っているとも。
魔弾の弓兵がアデーラをかばうべく狙撃位置を変更してきた。まったく、上からも鬱陶しいな。
この場にいる奴らは俺を挑発し愚弄した罪で本日、死刑に処す。
「あ、腹が痛くなってきたな。じわじわくる感じ。これは、やっぱり、マ、マルセルの愛」
白隼のブーツで、弓兵の狙撃地点まで高く飛ぶ。弓は、空中でもかわせるんだよ。空中で身をひねって、着地する。
弓兵など、近距離では何の意味もない。
「俺のスピードについてこれるか?」
無理だろう? 狙いをつける暇なんてないさ。ああ、じれったい。弓兵を処刑ってる間に、アデーラは馬を見つけてきている。
馬なんか乗ったって俺はすぐ追いつくぞ。
ずきりと、腹が痛んだ。でも、これはマルセルの愛だ。俺にはご褒美だ。
アデーラのほかにリフニア国、ノスリンジア国と次々に馬が出ていく。
あいつらを全部始末する時間はもったいない。衛兵やら護衛やら側近やら要人。
アデーラさえ仕留めればいい。全速力で馬に追いつく。アデーラは騎乗したまま弓を撃ってきた。エルフってやっぱ様になって美しいな。
「今のは美しかったぞ」
久しぶりに褒め称えてやる。頬を赤らめるか? どうだ? どうだ?
「……キーレ」
ちょろい! ちょろいな。魔王討伐以来、俺のことを勇者としか呼ばなかったこの女。
ふふふはははは。でも、もう処刑の時間だ。お前の肉体で楽しませてもらう!
馬には転んでもらってと。馬を白隼のブーツで蹴ると内臓をまきちらして馬が転倒し、アデーラも投げ出される。あ、足で内臓破裂魔法しちゃった。
よし、これでいこう。
騎士たちは一瞬、落馬したアデーラを助けようと思って舞い戻ってきたが、俺の残虐な行いに戦いて誰も馬から降りようとはしない。
アデーラの顔面を白隼のブーツで蹴る。
「はぅ!」
いいぞ、もっと泣け。
「鼻血が出てるぞ?」
アデーラは、腰の短剣に手を伸ばす。させるかよ。足に骨折魔法をまとわせ、彼女の細長い指を粉々に踏み潰す。
「ぎあぁぁああぁあは!」
靴底にねっとりとアデーラの血糊と粉砕した骨が、ガムみたいにひっつくので、振り払うついでに内臓破壊魔法を足にまとわせて、後ろに引く。
サッカーボールを蹴るようにアデーラの腹を蹴る。でも、気持ち優しめにな。中身を外にまき散らさなくてもいいんだ。
内臓破裂なんだから、じわじわ行こうか。
「ぐふうう!」
エルフって鳴き声も美しいな。その血反吐もヴァネッサと違って朱色で独特だな。
その白い髪、また優しくなでてやるよ。ほら、俺の髪も見ろ。そっくりだろ。白い髪と銀髪が血で染まってるだろ?




