26.破裂魔法
指を鳴らしてヴァネッサは手に炎を浮かべる。また火あぶりにする気か。芸がないな。
先にその炎消しときますか。指で弾く動作をすると、切断魔法で鎖も束縛魔法も即、切断だ。
「焼け死ね色欲勇者!」
「骨折魔法っと」
ヴァネッサが投げつけた火あぶりの火種を左手で受けると、軌道がそれる。
炎も骨折? って思うが、骨折魔法って実は屈折魔法の延長線上にあったりする。でも、屈折って響きが嫌だし。骨折魔法でいいや。
「続いて、お見せしますのは。処刑をお楽しみいただきたい皆様へ向けてのサクリファイス! 破裂魔法。内臓破裂」
彼女の腹って、痩せていて小さなへそがかわいいよね。そっと手を押し当てると、ヴァネッサが顔をしかめる。
「うぶぼはっ」
腸が弾け飛び、胃や肝臓も砕かれた状態でまき散らせる。どす黒い血でいいねぇ。魔女様にはぴったりだ。処刑場の見学者の皆様はどよめいておりますねぇ。
「俺を愛さないってずっと言ってたよな。別にいいよ。俺、マルセルが好きだから。でもさ、俺を愛せない女って不幸な死に様になるって知ってた?」
ドS同士って本当に相性悪いよな。どちらかが死ぬまで決着がつかないんだから。
この女、処刑前にも俺に、二回も火をつけてるんだ。もう顔も見たくない。
「顔面破裂魔法」
ヴァネッサの苦しそうな顔。まぶたの上に手をかざすと、彼女の両目が中心に寄る。続いてこめかみから血が噴き出る。目が落ちくぼんで、顎から歯が弾け飛ぶ。
頭蓋骨と脳髄が、混ざって赤色と灰色の液体が服にかかった。
処刑場は大混乱になった。
「王子見てるか? 俺はここだぞ」
「衛兵! 騎士団、何をしておる! 魔女がやられることも想定して訓練しておったろう」
モルガン、何を今更慌てているのか。俺は逃げる気はないぞ。エリク王子を見つけて痛めつけてから帰ってやってもいいんだ。
また、弓矢が飛んでくる。追いかけっこか? 市民に当たっても知らないぞ。わざと、逃げ惑う観衆の中に飛び込む。
「っくはははは! みんな殺せよ! 俺の死に期待した奴ら、みんな処刑対象だ」
俺は降ってくる矢をよけながら、手当たり次第に手でそこら辺のモブを破裂魔法の餌食にする。
頭部破壊って、花火の打ち上げみたいで楽しいよな。深夜の惨劇にはぴったりだ。
一瞬でも俺の死を願ったやつはもれなくサクリファイスだ!
「え、リディ」
突然、俺の指先にリディが飛び出してきて止まった。危なく処刑だ。
「何で邪魔するんだよ。っち」
女神フロラ様は例えアナログばばあだとしても、全てお見通しということか。エリク王子も見つからないし、一旦引き揚げるか。
矢は人々を巻き込んで、まだ降ってくるしな。俺とやってることが同じだろうがよ、ノスリンジア国の魔弾の弓兵さん方。
え、俺の脇腹に何かが刺さってる。痛みも感じなかった。矢だ。一本、後ろから射られてる……。
だ、だけどこれ、魔弾の弓兵の矢だよな。それなら、全部かわせるのに、ど、どうして。 これ、よく見たら何か塗られている。
「ま、まさか、毒矢。俺に気づかせずに? こんなことができるのは……」
「私は森で隠れているつもりないから」
処刑場の混乱の最中、風で舞う白い髪は見間違いようがない。月光の下の美人至上主義エルフ。
「……アデーラ」