23.処刑場
「サックサクだな!」
ディルガン国の衛兵全部を処刑るのに、ものの十秒。少しかかりすぎたか。でもなぁ、全員に死の自覚を与えてやりたかったよ、本当。
だって瞬殺じゃ、ちゃんと恐怖を感じ取ってくれたか分からないからなぁ。
人差し指についた血を舐めとく。混ざり合った誰かの血は、喉に通るときに少し苦い感じがするな。口直しにヴァネッサを早く処刑ってやらないと。
ディルガン国は小国だから、今の処刑でほとんどの兵の戦力は削れたはずだ。町に入ったら楽勝じゃん。
町に入ると驚きの変化があった。
え、女神フロラ様の教会に入り口前に設置された女神像が、ばばあになってる。
老眼鏡かけたばばあになってる。
「これ俺のせいね」
前、魔導書のことアナログだなって思って、女神フロラ様のことアナログばばあって思ったんだ。女神様は勇者の見たいと思う姿になるから。
おお、ついに俺は女神の美貌をも傷つけることができる男になったわけだ。
処刑場が近づいてきた。町の広場にもう観衆が集まっている。深夜三時前だというのに、みんな好きだね。処刑の見学。
「私は何の罪も犯していないわ! 元勇者をおびき出すためだけに処刑されるのなんてごめんよ! 私はこの国に魔王討伐後、ずっと尽くしてきた。こんな処刑が許されていいはずがないわ!」
ヴァネッサめっちゃ泣いてるじゃん。魔女の処刑って両腕に鎖巻いてさ、色っぽいなぁ。ディルガン国の処刑、いい趣味している。
「俺は優しいから、ヴァネッサを公開処刑から助け出し、俺の手で処刑ってやるんだ」ニヤニヤが止まらない。
「これより被告の罪状を述べる。魔女ヴァネッサ。元勇者の仲間というだけで罪に値する。更に、ディルガン国の内政に外交補佐とし関り、リフニア国のエリク王子に暴言・及び暴行を加えたことにより、死刑に処す」
「何か、罪状が適当な気がするのは気のせいかな」
ヴァネッサなら本当にエリク王子に暴行を加えかねないけど。
人混みを避けて町の屋根に上る。あ、逆に目立っちゃう? え、でも一人魔王に挑むときみたいな、かっこいい感じがしないか?
「あ、あれは」と、誰かが指さす。当然だろう。俺はもはや国際指名手配級の勇者様だぞ。遠慮せずに崇めるがいい。
「サクサク、処刑♪」
メインテーマ曲まで聞こえてきそうだな。俺の処刑ソングに歌詞でも考えるか。
リズムよく屋根伝いを闊歩して処刑台を目指す。
おやおや、ディルガン国の兵はいないみたいだが、見覚えのある方々がいらっしゃいますね。右下に見えますのは、これはこれは、リフニア国のみなさん。ディルガン国まで出張で?
詠唱団に、騎士団に、あれ、エリク王子はいないのか。そして、左に見えますのは、ノスリンジア国の魔弾の弓兵。
銀色にコーティングされた鉄弓を持ち歩き、肩当てと、弓のホルスターを肩から下げている軽装備。灰色の制服に紫の腕章をつけている。ノスリンジア国で騎士団より人数が多い主力戦力。
これは痺れるシチュエーションだ。俺の命を刈り取りに来るには最高のメンツがそろっている。
いいね。しっかり狙ってこいよ。俺はここだ。