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19.毒の沼地の建国

 しかし父上の説明をもってしても、ノスリンジア国の幹部はまだ、僕への追及をやめなかった。


「エリク王子は勇者の標的となる勇者の元仲間の居場所を、拷問により話したそうではないか?」


 顔が赤らむのが自分でも分かった。老人どもに馬鹿にされるのがしゃくに触る。


 お前らが、あの勇者の拷問に耐えられるか? 


 僕が耐えることができたのは、国家回復師のマルセルの回復魔法の加護があったからだ。




 彼女と寝た僕には、ずっと彼女の愛による魔法がかかっている。


 痛みも一時的に和らぎ、いざというときのために体力の温存もできる。


 こんなの、勇者キーレは持ち合わせていないだろう。マルセルに愛されていない証拠だ。




「ふん。何を焦っているのやら。勇者の元仲間が何人死のうが知ったことじゃないだろう? 恐らくもう、議題に上がったか知らないが、問題があるとすればアデーラだ。エルフのアデーラが勇者の手によって処刑されたらリフニア国の川は汚染される」




「その話はもう議題に上がりましたよ。自国のことは自国で解決すればよいのではないかと」




 生意気なノスリンジア国の幹部め。シャンデリアを反射する卓上を思わず殴りそうになる。再び戦争状態に持ち込んでやろうか?




「我が国が毒の沼地を開拓してまで国土を広げた理由を、何故かとお考えになったことはないのか? 我が国とノスリンジアは和平を結ぶまでは敵国。追いやられるように譲り受けた領土がほぼ、人の生きていくことのできない毒の沼地。和平を結んでからも、領土に関して我々が不服を申し立てないのは、森のエルフから浄化された川の水を引き入れてもらっているからだ」




 その気になれば戦争をするという意味で伝えた。


 ノスリンジア国王エルマー王は高齢で、ふむふむと分かっているのか分かっていないのか曖昧な返事しかしない。


 この老いぼれじじいめ!




 リフニア国の国家魔術師の一つである詠唱団(えいしょうだん)も、元を辿れば毒の沼地を開拓するときに結成された組織だ。




 人の住まうことのできるように土地を耕し、毒を抜き取るのに三年。だが、水はない。


 飲み水はなく、井戸を掘ろうものなら、出てくるのは毒。




 森のエルフが川を浄化するという提案がなければこの国は建国すらできなかったのだ。




 しかし、森のエルフは住処を移し、残ったのはアデーラただ一人。




 アデーラは勇者とともに魔王を倒した後、必ず戻るという契約どおりに舞い戻ってくれた。


 つまり川の水の管理は彼女ただ一人が行っている。




「つまり、アデーラが処刑された場合、リフニア国は我が国ノスリンジアに戦争をけし掛けると?」




「僕としては極力それを避けたいと思っているよ」


 僕の傲慢な物言いに父上は少しばかりはにかんだ。だけど、両国にとって戦争にメリットは今のところない。


 騎士団長不在の国同士で戦争するのは馬鹿げている。


「アデーラ救出というわけですな」


 今頃分かったのか、エルマー王。


「しかし、アデーラが勇者に処刑されるのは時間の問題では?」


「そう、食い止めることができなければリフニア国の川は腐り、毒が再び溢れる。両国、騎士団長がいない状態で、次期騎士団長の選定にも時間を要する」




 自分で言ってみたが、なかなかの手詰まり感だ。くそ、あの憎き情欲うじ虫勇者め!




「何かよい案はないか……」と、父上も考えている。


 そうだ、勇者の標的は分かっているんだ。楽にアデーラ処刑を阻止する方法があるではないか。




「勇者の標的がアデーラならば、標的を嫌でも変えざるを得ない状況を作ればいいのでは?」




 僕の提案にどよめきが走った。父上が唖然として僕を見返す。


「どういうことだエリク」


「簡単ですよ、父上。勇者の標的はアデーラ一人ではないのです。わざわざ処刑する標的を教えてきたのが勇者キーレの運のつきですよ」


「もったいぶらずに話せ」




「勇者キーレより先に奴の標的の元仲間を公開処刑する。そしたら、あいつ、獲物を横取りされたとぶち切れて、のこのこ出てくると思いますよ」




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