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12.ご機嫌斜め

 エリク王子を吊るしていた鎖を外すと、どこにそんな元気があったのか、エリク王子は全速力で地下牢を走って逃げて行った。流石にあの傷で走ることができるのは怪しい。


 二日間の拷問が本当に効いていないとしたら俺には許せないことだが、これは一時的な解放。あくまであいつは俺の生贄であることに変わりはない。次に再会するときには拷問期間をもっと伸ばす必要がある。



 リフニア国では早速俺は指名手配。賞金首として似顔絵が貼り出されている。


 俺も有名人の仲間入りか!


「復活した元勇者、エリク王子に現マルセル姫をかつて寝とられたことを根に持ち、犯行に及ぶ……」


 あの、拷問されたんだよ。拷問されたから、やり返したの。




「何そこ、寝とられたところ強調してんの!?」




 エリク王子は拷問の傷を癒す前に、俺を指名手配するだけ元気があったということだ。


 そして、俺に宣戦布告してきやがった! 


 早いな! 仕事が。そこだけは褒めてやるよ。




 俺に宣戦布告するとどうなるか思い知らせてやらないとな。


 そうとも、俺だってまだまだ足りないんだよ。エリク王子の苦痛の叫びが。







 リフニア国にいては人体透明化魔法も使えないままでは危険だ。だから魔物の少ない草原に出た。


「あー、人里離れると寂しいもんだな。勇者って基本、野宿で汚い暮らし。旅立ったころに逆戻りだよな。特に序盤の冒険みたいで。宿に行きたい」


 金も、武器もない。回復魔法もない。あるのは【人体破壊魔法】のみ。


 あれ、結構、面倒な状況じゃないか? 女神フロラ様が言うように、道端の石に殺されても仕方がないのかも。あ、石で思い出した。俺はアリなんかじゃねぇ!


 足元のアリ。一匹踏み潰しといた。


 そういえば、さっき「煉獄脚!」とか、かっこつけられたなぁ。


 腹立つよな。もう一匹踏み潰しとく。


 しかも受け止めたとき、左手燃えてたんだ。うーわ、最悪だ。骨が見えるぐらいまで焦げてる。




 魔王討伐戦時に装備していた「不死鳥のグローブ」ごと、焦げている。炎耐性マックスだぞ?



 

「ドロテは修行してたってさ。なんかむかつくよな。俺は処刑されて死んでたっつうのに」


 痛みの感覚はあんまりない。骨まで見えているのに。我ながら笑えるよな。拷問されすぎて感覚が麻痺しているのかも。


「そういえば、回復魔法は、ピクシー妖精に頼れって、フロラ様言ってたよな」




 首につけられたチョーカーは首に食い込んで外せない。女神フロラ様を満足させるまでは、外れないのだ。


「うーん。首、かゆいんだけど。風呂とか入るときもこのままなのかよ」


 不平不満を述べていると、チョーカーの漆黒の宝石からピクシー妖精のリディが出てきた。




「お、回復してくれるの?」




 俺は焦げて骨が丸見えの左手を差し出す。


「え、俺と仲良くなりたくないって?」


 リディのくりくりの瞳は初めて異空間で会ったときから反抗的だった。俺のことを外道だとはじめから知っているってか。




「でも、回復魔法かけてくれるんだろ?」




 俺は満面の笑みでお願いする。リディは俺の指に両足をそろえて止まる。


 小鳥みたいでかわいいな。嫌々、俺につき添ってくれるのがいじらしくて、たまらないな。




「お、これこれ。回復魔法、初級。癒されるなぁ。ついでにキスしよう」


 彼女の足をつまもうとしたら、俺の小指にもおよばない小さな手で払いのけられた。


 彼女は生まれつき喋ることができないようだが、それでも俺だって心は読めるつもりだ。




「ヘー、俺の何がそんなに嫌なの? もしかしてエリク王子並みの変態だと思ってる? 悪いのはあいつさぁ。あいつが先に手を出した」




 リディはなおも、俺を睨みつける。いいさ別に。


「俺を醜い男だと思ってるか?」


 リディの漆黒の瞳が揺れている。


 まさか俺のために泣いたりしないよな? 


 俺を不幸な人間だなんて思わないよな? 




 いや、違うよ。リディ。俺は処刑する機会を与えられて幸せなんだよ。

 そんな哀れむような目で勇者を見るもんじゃない。




「いいさ。認めさせてやる」




 俺は今幸せだって。女神フロラ様に胸を張って言える。だからな、俺は女神フロラ様にも見せつけてやるんだ。


 一人残らず血祭にあげてやるところを。




 だけど、このときはまだエリク王子の手が回すのが早いことを舐めていた。




ここまで、ありがとうございます。次回から早速、リフニア国側からの勇者の追跡もはじまります。サクサクっと読んで頂けたら幸いです。

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[一言] 物書きVtuberの如何屋サイとです。RT企画ご応募ありがとうございました。ここまで読んだことをお知らせします。
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