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相談 後半

 師匠の前でスラムの事で啖呵は切ったはいいものの、考えてみてもいい考えが浮かばなかった。僕に出来ることはせいぜい炊き出しをすることなんだけど、教会裏の畑なんてたかがしれている。拡張は当然していくけど、収穫はまだまだ先の話だ。


 とはいえ、畑を拡張するのにもスラムの人の協力は必要だ。ガーフェ様にスラムの人達を農作業に動員してくれるといいんだけど。とりあえず、畑の拡張を第一歩とするのがいいだろう。


 それには相談者が必要だ。農業と言えば、今や、ニッジの知恵が無くてはならない。


 「ロラン。呼んだか?」

 「実は畑を拡張するための相談をしたいんだ。出来れば、スラムの人達が食べれるくらいの面積にしたんだ」


 ニッジは呆けたような顔をして、僕を眺めていた。


 「ロラン。気でも狂ったか? このスラムに何人の人が住んでいると思っているんだ? 少なくとも一万人はいるんだぞ。その畑って……今の何倍だ? いや何十倍、何百倍だ。そんなの無理に決まっているだろ。一体誰がやるっていうんだ? 言っておくけど、孤児院の子供だけでは無理だからな」


 「それについてはちょっと宛がある……というか、これから作ろうと思うんだ。一応、スラムの人達に手伝ってもらうつもりだ」

 「で? その宛はどうやって作るんだ?」


 僕がガーフェ様と行ったら、ため息をつかれた。妙にバカにした目線を向けられて、ちょっとイラッとした。


 「ちょっと無謀じゃないか? 確かにガーフェ様が話しに加わってくれるなら、ロランの考えは筋が通っていると思う。でも、そもそもガーフェ様にどうやって会うんだよ」


 それからニッジは永遠とガーフェ様の事を語られた。いい勉強になると思って、話を聞くことにした。ガーフェ……ここのスラムのトップになって、十年以上になるらしい。元は王都から流れてきた者で、近衛隊に所属していたエリートだった。なんで、スラムに流れ着いたかは誰も知らないらしいが、足に大きな怪我があるから、それが理由で近衛隊を解雇されてしまったからでは、というのが大方の見方だ。


 ガーフェの特徴なんといっても、近衛隊上がりらしい恵まれた体だ。身長は二メートルを超え、誰もが威圧感を感じるほどの体格を持っている。剣術も得意だが、体術においては誰にも負けないというのだ。それだけでも、トップにふさわしいと思うが、さらに上乗せするような外見がある。


 ガーフェには鬼という二つ名がついている。その理由はあった人であれば、誰でも分かる外見だ。顔は四角く、常に怒ったような表情をしている。さらに頭に角がついているからだそうだ。まさに鬼だ。


 だが、外見は怖いのだが、スラムの人達には優しいらしい。王国から配給をしてもらっているのもガーフェがトップに就いてから始まった。皆はガーフェが交渉してくれたと思っている。それゆえにスラムからの信頼は篤く、部下はガーフェの熱狂的な信者となっているらしい。


 聞いてみると僕はガーフェのことは何も知らなかったみたいだ。ニッジに相談したのは正解だったみたいだな。


 「じゃあ、行ってみるか」

 「話、聞いててのか? オレ達が行ってあってくれる訳無いだろ」

 

 ニッジの話を聞いて、僕の態度が変わらなかったことに疑うような視線を送ってくる。ふふっ。ニッジは知らないのだ。僕にはガーフェ様から直接お呼びがかかっっていることを。さらに師匠が知り合いであることを。師匠は手下だなんて言っていたけど、師匠のことだから話半分に聞いておいたほうがいいだろう。


 「まぁ、大丈夫だろう。それよりもニッジも準備してくれ」

 「いやいやいや。オレも行くのか? 死ににいくようなものだぞ」


 ニッジはガーフェ様のことを何だと思っているんだ? スラムの人達に優しいって言ってたじゃないか。


 「違うんだよ。ロラン。実はガーフェ様には別の顔があるんだ」


 情報の出し惜しみをするなんて、ニッジは駆け引き上手になったものだ。でも僕は頼んだりしないぞ。あまり興味が無さそうに、話をさり気なく促した。


 「実はな……スラムの若い人たちがガーフェ様の館に連れて行かれることがあるらしいんだ。そして、その人を見た人はいないっていうんだ。理由は分からないけど、消えたようにいなくなるらしいんだ。みんなはガーフェ様に牙を向いたやつが殺されているんじゃないかって話なんだ」


 そんな噂があるのか……若干心配になってきたな。ニッジは僕の気持ちを変えさせて、ガーフェ様のもとに行かせないようにしているだろう。


 「なんで、そこまでガーフェ様のところに行かせようとしないんだ? 行けば、スラムの人達に食べ物を与えることが出来るかも知れないんだぞ」


 「オレだってそれくらい分かっている。でも、ロランには危険を冒してほしくないんだ。それに……孤児院を助けたいって言うのはオレも分かるけど、スラムの人達を助ける意味が分からない。ロランには何の得もないじゃないか」


 ……僕は何も言葉を返せなかった。その理由が僕にも分からなかったからだ。ただ、助けたい。そう思っただけではダメなのだろうか? 僕が無言でいると、ニッジがなぜか自分で自分の頬を殴った。


 「ダメだな。オレはお前の騎士になろうとしたのに……お前の考えを一番に理解しないといけないのにな。ごめんな。ロランは好きなようにやってくれ。オレは……お前を絶対に守ってやる」


 ふむ……とりあえず、こういう時は大人に相談だ。ニッジの気持ちは……ちょっと気持ち悪かった。


 「……という訳なんです。僕は変なのでしょうか?」

 マリアが目を閉じて、僕の話を静かに聞いていてくれた。あれ? 修道服の丈が少し短くなっている? なんか生足がより見えるようになってるな。足を組み直す度に気になってしまう。


 「ふふっ。気になりますか? 修道服を全部洗濯してしまって、替えがないので、仕方なく昔のを出したんですよ。ちょっと短いですよね?」


 いいえ。とてもいいと思います。僕は結構、大人の足が好きなのかも知れない。


 「じゃあ、ロラン様と二人で会う時はこの格好にしましょうか……」

 

 ……お願いします!! でも、話を戻してほしい。僕としては結構真剣に悩んでいる問題なんだ。


 「ちょっと悪ふざけが過ぎましたね。ロラン様が思い悩む必要はないと思いますよ」


 えっ? 終わり。全然納得できないんですけど。


 「目の前の人を助ける。これは非常に尊い精神から来るものです。人であるならば、皆が等しく持つべき心とも言えます。しかし、それですら人には難しいのです。ましてや、目の前にいない人を救うとなるのは、もはや人ではない精神を持たねばなりません。ロラン様は神より使わされた人だと思っています。ですから、その心は常に正しいのです。そして、助けたいと思う気持ちは当たり前なのです」


 ん? 僕は人としてカウントされてないってこと? とりあえず、マリアはダメだ。いい話だと思うけど、理由を探しているのに思うままというのは……。しかたない。もう一人の大人に相談してみるか。


 「……私に相談するとは……いい心がけだ。それで?」

 「師匠の魔法薬は誰かを助けています。それは目の前にいない人です。師匠は神の使いなのですか?」


 師匠は訳の分からないと言った表情をしていた。マリアの理屈ではそうなるはずだ。


 「神の使いかは分からないが、女神のような美貌の持ち主であることには変わりはないな」

 ……今は冗談は言わないで欲しい。


 「冗談? 私はいつも本気だぞ。まぁ、ちょっとはマシなことでも言ってやるか。魔法薬はなるほど、知らない人を救っているかも知れない。しかし、それはお前が思っている助けたいという気持ちとは大きく違っている」


 どういうことだ? 助けるという気持ちに違いなんてあるんだろうか?


 「私のはただの商売だ。助けることで対価をもらっている。私には錬金術という技術がある。そして魔法薬を錬金することが儲かる。それが偶々、誰かを助けているに過ぎない。分かるか?」


 僕は首を傾げた。


 「私は金儲けをするために結果として人助けをしている。人助けは目的ではないのだ。それに比べて、お前の純然たる思いは人助けを目的としている。そこに違いがある」


 なるほど。言われてみれば……違うかも知れない。だったら、理由は?


 「さあな。今は見つからなくとも、そのうち見つかるだろう。ただひとつ。お前のような考えをしている者を知っているぞ」


 師匠が……まともだ……。

 

 「何だ、その目は? 驚いたような顔をして。まぁいい。その者は……貴族と言われる連中だ。あいつらは民の幸せにさせることだけを考えている」


 貴族が? 僕は貴族に会ったことがないから分からないけど、そういう人達だったら会ってみたい。話してみたいな。


 「まぁ、そんなのはごく一部だけどな。それでもいることはいる。そういう者は必ず名を残す偉業を成し遂げるものだ。お前もその一人かも知れないな」


 「師匠。僕は貴族じゃないですよ。ただのスラムの平民なんですから」


 「前にも言ったと思うが、ロランは貴族の血を引いている。お前が望むのなら、きっと途は開けるはずだろう。全てはロラン次第だ」


 師匠の最後の話は理解できなかったけど、なんとなくだけど、僕の気持ちは悪いわけではないみたいだ。理由だって、今探す必要もないし、思うように行動すればいいみたいだ。


 「ところで、ガーフェのところに行ったのか?」

 僕は首を振ると、師匠は隣の部屋から小包を持ってきて、渡してきた。


 「これをガーフェに届けてくれ。それと……お前の名前は言うなよ。ガーフェが驚く様を見てみたいからな」


 僕はとりあえず受け取り、師匠の悪い趣味には付き合わないと心に決めた。師匠の悪そうな顔の時は、大抵、碌な事がない。


 「というわけで、ニッジ。ガーフェ様のところに行くぞ」

 「本当にか?」


 僕は強く頷いた。もはや悩みはない。スラムの人達をとりあえず腹一杯にする。その次のことは、その次に考えよう。まずは一歩進むために、ガーフェ様に協力を求めるんだ。


 「ニッジ。頼りにしているぞ」

 「ああ。もちろんだ」


 僕はガーフェと出会い、大きく運命を動かすことになった。


 この出会いは、僕の人生において大きな出来事になったのだった。


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