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相談 前半

 炊き出しは盛況に終わった。結局、トマトを大量に切っているだけで一日が終わってしまい、麦飯のトマト煮は最後の最後で一杯だけ食べるだけだった。


 「オレが最初に食べるって言ったのに……」

 ニッジにもトマトを切るのを手伝ったもらったせいで、最後に一緒に食べることになってしまったのだ。


 「次の作物の時は、一番に食べさせるから」

 「いや、いい。次はロランが先だ。オレはお前の子分なんだから。それくらいは弁えないとダメだろ?」


 「バカだな。それは僕が貴族になったからで頼むよ。今はただの友達だ。それでいいだろ?」

 ニッジはにやっと笑うだけで、答えることはなかった。


 するとどこで聞きつけたのか、ララが膨れた顔でやって来たのだ。


 「ロランお兄ちゃん。私も子分」

 ん? こぶん? なんだろ。何かの食べ物かな? ごめんな。ララが何を言っているのかわからないや。マリアに聞いたほうがいいかな?


 「ニッジだけずるい。私もロランお兄ちゃんの子分になるの」

 「うんうん。ララはかわいいな。子分になりたいの? しょうがないな」


 するとララが大きく首を横に振った。

 「私は本気なの。お兄ちゃんとニッジの話聞いたの。私もお兄ちゃんの騎士になる。だから、子分にして」


 参ったな。さすがにニッジと同じような約束はララにはしてやれないぞ。まだ幼さが残る子供だし、なによりも意味がわかっているようには思えない。僕は何度も諌めたが、子分になるの一点張りだった。こういう時は、マリアに相談だ。


 「私も子分にしてください」

 おや? 相談した相手を間違えたかな? 子分の立候補者が増えてしまったぞ。僕が怪訝な顔を浮かべていると、マリアが咳払いをした。


 「冗談ですよ。私はすでに身も心もロラン様に尽くしていますから。子分なんて生半可なものではありませんよ」

 えっ⁉ 何言ってんだろ? ちょっと分からないな。マリアが訳の分からないことを言い出すのは今日は初めてって訳じゃないから、聞き流しておこう。それよりもララだ。


 「子分にして差し上げたら良いのではないでしょうか? 減るものでもありませんし、なによりもララはロラン様を慕っております。乙女の気持ちを踏みにじるようなことはロラン様はなさらないですよね?」


 ……そうですね。乙女という言葉が出てきて、僕にはどうしていいか分からなかったが、マリアが子分にしても問題ないというのなら問題ないのかも知れない。変な言動が多い人でも、心の底から孤児院の子供たちを大切にしているのはよく分かっているつもりだ。


 そんな人が大丈夫と言っているのだから、僕が心配する必要がないのかもしれない。でも、そうなると貴族を目指さざるを得ないのかな? 旅、してみたかったけど。


 「ロラン様は御心のままにすればよいのですよ。必ず途は開けます。そして、必ずやロラン様の願う形になるはずです。私が保証しますから、自信を持ってくださいね」


 僕は強く頷いた。そうだよな。僕は好きなことをやる。それで貴族になれるんだったら、なればいいんだ。貴族っていうのがイマイチ分からないけど、ニッジとララを食わせてやれるくらいは出来るだろう。僕だって、二人の幸せがそこにあるっていうなら、幸せになれると思うんだ。


 「ありがとう。シスター」

 

 僕の心はマリアのおかげで随分と軽くなった。


 「そういえば、炊き出しの時にガーフェさんがお見えになっていましたよ。是非ともロラン様にお会いしたいと」


 ガーフェ? どこかで聞いた名前だな……ガーフェ。鬼のガーフェか!! このスラムの頂点に君臨する偉い人だ。マリアがガーフェさん、だなんて気さくに言うものだから近所のおっさんか何かだと思っちゃったよ。


 ……えっ⁉ なんでそんな人が僕に会いたいなんて……まさか、あれがバレてしまったのか、いやそれとも……。僕が冷や汗をかきながら考え事をしていると、マリアがクスクスと笑っていた。


 「何か思い当たる節があるんですか? ガーフェさん、随分と怒っていましたから」

 「やはり、あれか……」


 「冗談ですよ。炊き出しのことでお礼がしたいから、みたいですよ。ロラン様はやっぱりまだまだ子供ですね。考えていることが表情に出すぎですよ」


 そんなに出てたかな? でも、ガーフェ様がなんで僕にお礼なんて。一応、炊き出しは教会でやっているんだから、お礼なんてマリアにすれば済む話だと思うんだけど。


 「私がそんな事出来るわけ無いではありませんか。ロラン様の手柄を……恐れ多いことです。ガーフェさんにはきっちりと炊き出しの主催者がロラン様であることは強い言っておきましたから、安心してください」


 うん。全然安心できない。なんで、そんな余計なことをいうんだろうか? このマリアは。スラムで生きていたければ、ガーフェ様に目をつけられるな。それがこのスラムの鉄則だ。なるべく、静かに暮らそうと思っていたのに。


 「ロラン様はもっと表に出るべきです。私としてはロラン様にスラム全体に施しを与えてほしいのです。ちょっとは考えてみてはもらえませんか? 私も全力で応援しますから」


 そんな事は考えるまでもない。僕はずっとスラムをどうにかして、住んでいる人達を笑顔にさせたいと思っていたんだ。だけど、子供だから。諦めていただけで。もしかして、これはチャンスなのかも知れない。スラム全体となれば、ガーフェ様の力も借りないといけないんだ。


 それが向こうから会いたいって言ってくるなんて、奇跡的なことなんだ。僕の気持ちをぶつけて、協力を取り付けることが出来れば、皆の笑顔に一歩近づけるかも知れない。


 「シスター。僕、やってみるよ」

 「ええ。それでこそ、私のロラン様ですわ」


 私の? 妙なところが気になったが、興奮しているマリアにあれこれ言うのはどうかと思うので、その場は帰ることにした。やると決めても、策があるわけではない。情報を集めて、考えを練る時間が必要だ。それに師匠の協力も必要だ。


 修行にも支障が出てしまうから、相談はしておかないと。あとは……そういえば、ララの存在を忘れていた。時間が遅かったので、ララがいる部屋の窓に外から小石をぶつけた。


 ララが窓から顔を覗かせて、キョロキョロと辺りを見回している。ここから少し距離があるが、大声で言えば聞こえるだろう。

 「ララ!! 一緒に夢を追いかけような」


 それだけを言って、師匠のいる家に帰った。後日、孤児院の間で噂が流れた。僕がララにプロポーズをした、と。その火消しにしばらく奔走させられてしまったが、それは置いておこう。


 「師匠。僕はこのスラムの人達を助けたいんだ!!」

 「頭でもおかしくなったか? 十歳の子供に出来ることなどない。それよりも筋トレだけしていればいいんだ」


 くっ……なんて厳しい師匠なんだ。どんなときでも修行を怠らせないなんて。私生活は壊滅的だけど、師匠としてはやはり一流……。


 「畑を作って、みんなが嬉しそうな顔をしてたんです。もっと多くの人を笑顔にしたいんです」

 「理由を言ってみろ」


 理由なんて分からない。なんとなくそう感じるだけなんだ。それに、みんなの幸せを……笑顔に出来るのは僕しかいないって。そして、それが僕の使命のような気がするんだ。


 「……」

 師匠は目をつぶったまま、じっと考える素振りをしていた。そして、目を見開いた。


 「腹が減ったな。まずは食事にしよう」

 どうやら師匠には僕の気持ちは届かなかったようだ。食事と言えば酒。酒を飲んでいる時は、師匠は黙々と飲む事が多い。もはや話をする必要はないという意味だろう。


 僕はしょんぼりして料理の準備をする。今は農場のおかげで新鮮な野菜が手に入りやすくなった。これだけでもスラムの人達全員とはいかなくても、少なくない人に笑顔をもたらしている。戦争のせいで、徐々に皆の笑顔が無くなっているっていうのに……


 「師匠。おまたせしました。畑で採れた新鮮野菜の盛り合わせです」

 「うむ。生野菜はありがたいな。これで私の美肌により一層磨きがかかるな。自分でも怖くなってしまうよ。これ以上の美しくなってしまうことが。そう思わないか? ロラン」


 「ああ。そうですね〜」

 「やはりそう思うか。ふむ。なかなか気分が良くなってきたな。さっきの話、もう一度言ってみろ」


 何のことだ? ああ、きゅうりが爆発した時の話か。あれは傑作だったな。ニッジが……え? 違う? 


 「まぁ、ロランが何かをやりたいと言うのなら、やってみるがいい。ガーフェなら話を聞いてくれるだろう」

 

 ガーフェ? あれ? 最近、聞いたことがある。って、ええっ!? なんで、師匠からそんな大物の名前が出てくるんだよ。


 「あいつは私の手下みたいなものだ。私の名前……いや、ロランが顔を出すだけで色々と世話をしてくれるだろう。もし、ロランの顔が分からなかったら、すぐに私に知らせろ。ロランの顔を忘れられないようにしてやる」


 何この人……すごく怖いんですけど。っていうか、スラムのトップを手下にしているくらいなら、スラムのことは全部師匠に相談すればいいんじゃないか?


 「知っているだろ? 私は忙しいのだ。魔法薬を調合しないといけないし、研究もしなければな……分かるだろう?」


 分かんねぇよ。師匠が働いているところなんて、見たことないよ。寝てるか、酒飲んでいるかしかないよね? 魔法薬だって数分で出来るって自慢してたし。食っちゃ寝の暮らしのどこが忙しいんだ?


 「師匠が何者か僕には分かりません。ガーフェ様が手下と言われてもなんとなく納得してしまうというか……でも、折角、力と知識があるんですからスラムを良くしていこうとか、無いんですか? 師匠だって、スラムの人達に世話になっているじゃないですか!!」


 師匠は僕を睨みつけて、わざわざ足を組み直して、尊大なポーズを取った。

 「……正直、面倒だ」


 ダメだ。この人は……。


 「だから、ロランがやればいいじゃないか。やりたかったんだろ? ただし……」


 条件をつけられた。筋トレだけは毎日行うこと。体に傷をつけないこと。名前を表に出さないこと。それだけだった。師匠はなんだかんだ言っても、僕を心配するような言葉を掛けてくれる。残念な人という評価は揺るがないけど……いい人だな。


 でも!! やっと一歩踏み出せたぞ。スラムの皆にとりあえず、腹いっぱい飯を食わせてやるんだ。


 僕は私室のベッドでふと、師匠に言われたことを思い出した。僕を突き動かすのは本当に一体なんだろう。まぁ、今は考えるのは止めて、筋トレでもしていよう。

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