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my屋敷

 「オレは、クラレス=ガーライル=シャンドルが子、ヘレル=ガーライル=シャンドルだ。お前の兄だ。ようそこ。スラムのロラン、君」


 この人が、僕のお兄さんなのか。なるほど。たしかにスラムにいそうにない感じだな。なによりも清潔だ。服もきれいだし、髪だってつやっつやだ。一体、何を塗っているんだろ? 聞いたら教えてくれるかな。僕の髪ってゴワゴワで手入れしないとダメそうなんだよね。


 「聞いているのか⁉ それともオレ様の言葉に恐れているのか? 無理もない。シャンドル家の次期後継者に最も近いと目されているオレに目をつけられるのは怖いよな?」


 目をつける? 初対面だって言うのに、結構気に入られちゃってる? 実は結構自慢なんだ。初対面でも気に入られることが。


 「ふん。言葉にならないか。それともスラムだから言葉を知らないのか? ならば、教えてやろうか?」


 結構良い奴だな。


 「そうなんです。貴族の言葉っていうのがよく分からなくて……」


 「誰が言葉を発していいと言ったんだ? オレ様が許可するまで言葉を発するな。スラムの分際で」


 あれ? もしかして、違う人と話していた。さっきからスラム、スラムって言っているから……あっ! もしかして、ニッジに話しかけていたとか? 僕の名前を最初に言っていた気もするけど……とりあえず、目礼だけして先に行こう。


 「ニッジ。話を聞いていてね。僕達は先に行くから。それではヘレルさん? 失礼します。執事さん、案内の続きをお願いします」


 執事はしどろもどろした様子で、僕とヘレルの顔を行ったり来たりしていた。


 「あの、案内をしてくれないと勝手に行きますよ? 盛大に迷って、行ってはいけない場所とか行っちゃいますよ? いいんですか?」


 「あ、案内いたします!!」


 僕はヘレルに目礼をして去ろうとすると、急に胸ぐらをつかまれて知った。


 「ふざけるんじゃねぇ!! オレ様を無視するとはいい度胸だな。スラムが!!」


 ヘレルは顔を真っ赤にして、あろうことか僕に殴り掛かろうとしてきた。パニックだ。目の前の人は何に怒っているだ? 僕に用がなさそうだから立ち去ろうとしただけなのに……


 その瞬間、状況は一変していた。ララがとっさに間に入り、ヘレルを組み敷いていたのだ。腕をがっちりを締め上げられていて……痛そうだな。


 「うぐぐ……何しやがる。放せ!! 庶民風情がオレの体に触れるんじゃねぇ」

 「ララ。放してやって」

 「はい、ロラン様」


 僕はヘレルに手を差し伸べると、思いっきり払われてしまった。


 ヘレルはなんとか立ち上がった。せっかくきれいな服にシワがかなり寄ってしまった。これは申し訳ないことをしてしまったな。


 「服、大丈夫ですか?」


 「何だ、お前は⁉ 一体、何を考えている? オレをバカにしているのか?」


 質問が多い人だな。



 「僕はロランです。正直に言いまして、お腹が空いていて食事の時間はいつかということばかり考えていました。ヘレルさん? でしたっけ。僕には兄という存在がいないので、こういう場面に少し憧れていたんですよね。なんというか、兄弟喧嘩って感じがして楽しかったですよ」


 「ちっ!! お前、頭がおかしいんじゃねぇか? 精々、寝首をかかれないようにしろよ」


 忠告までしてくれるなんて、いい人だな。まぁ、もうちょっと誰に話しているか分かるように話してくれると助かるかな。僕に話しかけていると思って、返事をしてちょっと恥ずかしかったんだから。


 ヘレルは壁を蹴り飛ばしてから、僕達の前から去っていった。


 「マリア。向こうから自己紹介してきたから、もうちょっと丁寧に自己紹介するべきだったかな? なんか、いつもの調子で対応しちゃったけど、マズかった?」


 「いいえ。面白かったです……ではなくて、ロラン様の印象を強く残せたと思う、いい自己紹介でしたよ」


 そうかな? でもマリアが言うんだから間違いないだろう。ニッジもヘレルに急に話しかけられてビックリしていただろうな。相手は貴族だからな。


 「ニッジ、緊張しなかった?」


 「緊張っていうか、ハラハラさせられちまったよ」


 ハラハラ? どこにだ? ああ、ララが組み敷いたことのことか。確かにハラハラしたな。もう一度注意しておくか。


 「ララ。僕を助けようと思ったと思うけど、手荒な真似はだめだよ」

 「分かりました。今度は正確に腕を取りに行きます」


 そうだね。組み敷いちゃダメだよ。精々、手を抑えるくらいに留めておかないとね。取りに行くって表現は、そう言う意味だよね?


 「執事さん。なんかバタバタしちゃったね。続きをお願いね」

 「か、畏まりました。私は長年、この屋敷に仕えてきましたがヘレル様にあのような事をして、無事でいられるのが信じられません」


 ん? 何か言ったかな?


 「い、いえ。なんでも。それではこちらに……」


 僕達が案内されたのは、屋敷を一旦出て、独立した建物だった。本邸と比べれば、かなり見劣りするが、それでもスラムで一番の屋敷と同じくらいの大きさだ。僕達で使うには十分すぎるほどの大きさだな。


 「この建物は自由にお使いください。後ほど、ロラン様付きの執事もご紹介いたします。それではごゆるりとお休みください」


 建物の前で鍵だけを渡されて、執事は去ってしまった。とりあえず、中に入ろう。


 「ロラン様。私は周りを見てきます。一応、ここは敵地のつもりで行動しなければなりません。ララ、ロラン様から離れないように」


 マリアはそう言って、行ってしまった。まぁいいか。中に入って、ちょっと横になりたい。


 建物の中は、家と言った感じだ。リビングにキッチンがあり、部屋もたくさんあって、どの部屋にもベッドが置かれていた。全て客間として利用できそうだ。本邸ほどではないけど、広めの執務室もあり、仕事も出来そうだな。とりあえず、ソファーに横たわった。


 「ニッジ!! 凄いよ。凄く沈むよ」


 「あのな……ロラン。もうちょっと緊張感を持ったらどうだ? さっきのヘレンって奴は、これから候補者として戦わないといけない相手なんだろ? あれは宣戦布告みたいなことだろ? どうするつもりなんだよ」


 ……宣戦布告? どこが?


 「あの会話でなんで分からないんだよ。確実に目をつけられているんだぞ。また、これから会うんだ。少しは対策を考えておかないと」


 そんなことより眠いな。どうもスラムからこれだけ離れたのは初めてだから、興奮しちゃったかな? 腹も減ってきたし……ソファー……気持ちよすぎだよ。


 ……誰だ? 僕を起こすのは……


 「師匠……ご飯はもう作ってありますから……」

 「おい……おい……」


 やけにしつこいな。


 「師匠!! いい加減に……ってあれ? ニッジ、なにしてるの?」


 「何してるの? じゃない。専属の執事って奴らが来てるぞ。お前が寝てるから、皆困ってるんだ」


 それは申し訳ないことをしたな。あまりにもソファーが気持ちよすぎて、つい。


 「マリアは?」

 「まだ、戻らないよ。どこまでいっているんだか」


 どれくらい時間が経ったかわからないけど、日はまだ高いから、そんなに時間は経っていないはずだ。


 「ニッジ、悪いけど、ここに連れてきてくれないかな。その執事さん達」


 ニッジはすぐに執事たちを集めてくれた。その間に顔でも洗っておこう。居間に戻ると、三人の執事とメイドが並んで待っていた。あれ? あの青髪は……。


 三人は頭を下げ、自己紹介を始めてくれた。


 「私はエアと申します。三人のリーダーを勤めさせていただきます。御用があれば、私にお言い付けをしてください」


 緑色の髪が特徴的なきれいな人だ。物腰は丁寧だし、声がすごくきれいな人だな。


 「私はニンシェと申します。当主様付きよりロラン様の配属となりました。今より精一杯、務めさせていただきます」


 灰色がかった髪が特徴的な活発そうな子だな。胸の膨らみが凄いな……あまり凝視はしないようにしないとな。最後は、さっき視線を感じた少年かな?


 「オレは……私はノーマンと申します。ヘレル様からロラン様の配属となりました。よろしくお願いします」


 さっきの印象とは違って、実に穏やかな雰囲気がする少年だ。十五歳くらいかな? 青髪が特徴的で、あまり声に抑揚がない落ち着いて感じの人という感じだ。唯一の男だから、何かと頼りにさせてもらおう。


 こちらからも自己紹介をしていると、ようやくマリアが戻ってきた。


 マリアは三人の執事とメイドを見定めるようにジロジロと見て、ニンシェで止まった。

 

 「んん? なんですか、この凶器は⁉」


 マリアが急にニンシェの胸を鷲掴みにしてもみ始めた。


 「この弾力……大きさ。素晴らしいですわ。いかがです? ロラン様の夜伽を一緒にしませんか?」

 「いや、あの……そういうのは仕事には入っていない、というか……ごめんなさい!!」

 

 ニンシェがどっかに行ってしまった。マリアは一体何がしたいんだ? すると再び品定めをするように動き出すとノーマンのところで止まった。


 「どういうつもりか知らないが、出せ。でなければ、ここを追い出す」


 何を言っているんだ? マリアの言葉にノーマンが酷く動揺している。すると、ノーマンはお尻に方に手を突っ込み始めた。


 な、何が始まるというのだ!! と思ったら、取り出したのはナイフだった。なんだ、ナイフか……って、ナイフ!? なぜ、ノーマンがナイフを隠し持っていたんだ? すると、急に土下座をしだした。


 「も、申し訳ありません。どうかお許しを」


 何だ、この展開は。マリアはノーマンの胸ぐらをつかみ、「事情を説明しろ」と問い詰め始めた。


 「……妹を守りたければ、ロラン様を殺せと……」


 要領を得ないが、どうやら脅されていたらしい。首謀者を言いたがらず、マリアがどんなにしても吐くことはなかった。さて、どうしたものかな……。


 「エア。こういう場合、どうするんだ?」

 「当主様に報告し、処罰をして貰います」


 「どんな罪になるんだ?」

 「おそらく死刑かと。ロラン様はシャンドル家の御曹司であられます。その方を殺そうとしたのですから」


 そんなに重い罪なのか。ノーマンが死ねば、妹はどうなる? 首謀者が誰かわからないけど、酷いやつに違いないだろう。


 「ノーマン。選べ。僕に忠誠を誓うか、死を選ぶか」


 「……」


 「ノーマン。答えろ」


 「死を……その代わり、妹をなんとか救ってもらえないでしょうか? 図々しいのは承知でお願いします」


 「分かった。マリア、探索を頼めるか?」

 「もちろんです」


 「エア。この件は僕が預かる。口外無用だ。いいな?」

 「承知しました」


 「ニッジとララもいいな? そして、ノーマン。妹を助けようとする気持ちに免じて、今回は不問にする。だが、ここで働いてもらうぞ。よいな?」


 「な、なぜ!! 私など、死んだほうが……」


 「お前はもはや僕の身内も同然だ。殺そうとしたのも本心ではないだろ? であれば、僕が怒りをぶつける相手は、妹さんをダシに使ったやつだ。必ず、突き止めて妹さんを救出してやる」


 「あ、ありがとうございます」

 「それで? 他にはどんなことをしろと?」


 「情報を……ロラン様の情報を盗んで来いと」

 「ならば、その通りに行動していろ。今は怪しまれる行動だけは避けてくれ」

 「畏まりました。ロラン様に従います」


 一見落着とまでは行かなかったけど、ノーマンの話しぶりからすれば間違いなく、後継者候補の誰かが首謀者だろう。とりあえず、向こうから探りをいれてきたんだから、こちらも利用しない手はないだろう。

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