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初めての魔法 後編

 畑作りは続く。風魔法で草が一掃され、地面をようやく拝むことが出来た。ただ、これで畑になるわけではない。次なる作業は、土を起こす作業だ。表面の土を下に埋め、下の土を上に持ち上げる作業。これをやらなければ、種を撒いても、うまくいかないらしい。


 「みんな。草は何とか退治することが出来たけど、大変なのはこれからだ。土を掘り返さないといけない。これにはクワという道具を使ってやる作業になるんだ。でも、クワが何本もないから力のある年上の人にやってもらいたいんだ」


 僕にはこの仕事にうってつけの人物が頭に浮かんでいる。ニッジだ。ニッジはこの中でも一番の古株だし、歳も上だ。最近、ララに力負けしたって聞いたけど、きっと負けてやったんだと思う。それくらいの優しさがニッジにはあるんだ。


 ところがニッジが集団にいないのだ。


 「あれ? ニッジは?」

 誰に聞いても答えが返ってくることはなかった。ニッジは優しいがサボりぐせがあるようだ。こうなったら、かくれんぼの要領で皆に探してきてもらおう。


 「ニッジを見つけたら、僕から何かご褒美をあげよう。じゃあ、始めぇ!!」


 その声で蜘蛛の子を散らすように孤児院の子供たちが走って行ってしまった。残されたのは僕とマリアだけ。マリアは僕が魔法を放った直後から静かにしている。


 「シスター。さっきから静かですけど、大丈夫ですか? もしかして、魔法が掠ったりしてしまいましたか?」

 「ううん。違うんです。ロラン君のことを考えていたんです」


 どういう事だ? 何か気に障るようなことを言ってしまっただろうか? それとも勝手に孤児院の子供を使ってニッジを探させたことを怒っているのか?


 「私は思うんです。ロラン君は悪魔なんじゃないでしょうか? その見た目から天使だと思って疑わなかったんですけど、最近怖いんです。私がどんどん堕落の道に進んでいる気がして。つまり、ロラン君は……」


 「いいえ。僕は悪魔ではありませんよ」

 「だったら、堕天使? そうじゃないと、説明がつかないのよ。ロラン君といると心が乱れるの」


 「シスター。僕は人間ですよ。ただの。むしろ、僕にはシスターこそが天使なんじゃないかと思いますよ。皆にも分け隔てなく優しいし、いつも気を使ってくれる。僕の憧れの大人の女性です」

 「はう……もうダメ」


 マリアが鼻血が吹き出して倒れてしまった。とりあえず、教会の医務室に連れて行ったほうが良さそうだ。まさか、鼻血が出るほど疲れていたとは。日頃の心労があるのに、畑作りなんて僕のわがままを言ったばかりに……ごめんなさい。マリア。


 柔らかい感触を感じつつ、医務室のベッドまで連れていき、ゆっくりと横たわらせるとマリアはすやすやと寝息を立て始めた。初めて、修道服のフードを取り外したマリアの寝顔を見てしまった。フードに隠れて分からなかったけど、本当に美人な人だな。僕が子供でなかったら……。


 寝顔をずっと見ていた衝動に駆られたけど、子供たちが気になってすぐに医務室を離れた。マリアが倒れた今は、僕が子供たちの面倒を見なければ。


 僕は急ぎ足で畑に戻ったが、誰も帰ってきていなかった。

 「これならもうちょっと寝顔を見ていたかったなぁ……」

 

 こんな事も誰も聞いていないから呟ける。目をつぶって、マリアの寝顔と豊満な体を思い浮かべる。……やっぱり大人の女性は素敵だなぁ。


 すると、ようやく子供が戻ってきた。どうやらララのようだが……何かを引っ張っている? ニッジ!! ニッジがなぜか、ララに引っ張られてきている。しかもニッジが身動き一つしない。まさか、気絶でもしているのか?


 良かった。気絶はしていないようだ。しかし、この怪我は……


 「怪力ララめ……」

 ニッジが何かうわ言を呟いている。僕はララに事情を聞くことにした。


 「だって、ニッジが抵抗するから」


 えっ!? それだけ? もうちょっとあるよね? これだけボコボコにしておいて、それだけ? 僕も抵抗したらニッジみたいになっちゃうの?


 「ロランお兄ちゃんには絶対しないよ。だって、特別だもん」

 何が特別なのか分からないけど、ララにちょっと恐怖を感じたことは内緒だ。とりあえず、ニッジに声を掛けてやらないとな。


 「ニッジ。大丈夫か?」

 「あれ? ロランか。どうしたんだ?」


 それはこっちの台詞だ。なんでララにボコボコにされているのか、聞きたいんだけど。どうやら、木の上で寝ていたところをララに見つかったらしい。僕が呼んでいることを無視したら、ララが飛び上がってきて、木から落とされたらしい。高さ二メートルはあるであろう木に飛び上がってきたらし。


 二メートル? 大人より高い高さを飛び上がるのか? 僕でも出来ないだろう……ララの身体能力は大人を凌駕しているというのか?


 「ララ。悪いんだけど、思いっきりジャンプしてみて」

 「うん!!」


 ララは三メートル位の高さまで体が上がったと思う。うん、これなら二メートルは余裕だ。えっ⁉ この子、何者? ララに疑惑が起きた出来事だった。


 ニッジはなんとか立ち上がるまでに回復した。ララは「峰打ちだからね」と言っていたけど、意味が分からなかった。とりあえず、話を戻そう。ニッジに畑を作るのにクワを振るってくれるようにお願いした。


 「嫌だよ」


 その瞬間、ララの鉄拳がニッジに炸裂した。目の前にいたニッジは、畑予定地にカカシのように刺さっていた。ニッジはダメだ。やる気云々ではない、もはやクワを握れる状態ではないのだ。とりあえず、ニッジは木陰に休ませることにして、再び皆を集めた。


 「残念なお知らせがある。期待していたニッジが不慮の事故で戦闘不能になってしまった。こうなったら、皆の力を借りて、少しずつクワで畑を耕すしか無いようだ。一応、聞いてみるが……これについて、何かいい案は無いだろうか?」


 するとすっと手を上げた子がいた。ララだ。先程の光景を思い出して、つい警戒をしてしまったが、大丈夫なようだ。


 「ロランお兄ちゃんが魔法でやるといいと思います」

 また魔法か……そんな都合のいい魔法なんて……あるな。土魔法ならば、なんとかなるかも知れない。土魔法は土そのものに働きかけを出来る魔法だ。土を動かしたりする便利な魔法だ。これを応用すれば、畑を耕したのと同じようにすることが出来るかも知れない。


 「やったことがないけど、やってみよう」


 本日、二度目の初体験。風属性に次いで土魔法を使うことになった。土魔法は厳密に言えば、土と言うより鉱物への働きかけをする魔法だ。今は土全体をイメージすればいいが、熟練すれば土から特定の鉱物だけを取り出すことが出来る。そのためには鉱物への理解が必要不可欠で、奥が深い魔法なのだ。


 風魔法が成功したので、同じような要領で土魔法を発動してみた。思ったよりもすんなりと出来てしまったので、ちょっと拍子抜けしてしまうというか、風魔法ほどの感動は訪れなかった。


 ただ、イメージは畑全体を耕すつもりだったが、出来たのはほんの一部だった。僕の練り上げた魔力ではその程度だったんだろう。風よりも魔力をたくさん必要とするのだろうか? なんにしてもいい勉強に……そこまでの記憶が最後で僕は気を失ってしまった。


 気付いたのは医務室だった。隣にマリアが横になっていた。隣と言っても、隣のベッドという意味ではない。文字通り、隣に横になっていたのだ。

 

 「シスター⁉ な、なんで僕と寝てるんですか!!」

 「すーすー」


 寝ているのか? しかし可笑しい。マリアを寝かせたのは隣のベッドだったはず。誰かが移動したのではなければ、マリアが移ってきたということだ。なるほど……寝惚けてたんだな。僕は再び横になり、なんでこうなったのかを考えた。


 今日は二度魔法を使った。二度目の土魔法は威力が弱かったように感じる。となると僕の魔力の底が尽きかけていたってことだ。つまり、倒れたのは……魔力切れか……。ダメだ。考えることに集中できない。


 「シスター、起きてますよね? 僕の体をしきりに撫で回すの止めてもらえませんか?」

 「すーすー」

 

 寝ている? ただ、寝相が悪いだけか?


 魔力切れになる前に吐き気を催すと勉強した気がしたけど、今回はその症状はなかったな。そうなると急に底尽きることがあるってことか。魔力切れはひどいことになると命に関わるらしいからな……


 「って、やっぱり起きてますよね? 動きがなんか卑猥な感じがするんですけど」

 「すーすー」


 やっぱり寝ているのか。魔力切れの兆候は重要だ。このあたりも師匠に相談したほうが良さそう……なんだか、気持ちよくなって…・・・


 「シスター!! いい加減にしてください」

 「はっ!! 私は一体、なにを……ってロラン君!! 離れてください!! いくらなんでも、急過ぎます。こういうのはもうちょっと順を追って……きゃっ」


 マリアは布団の中でもぞもぞしてから、足早にベッドから離れて行った。修道服で前だけ隠していたが、後ろ姿は丸見えだった。なんで、脱いでたんだ? そうか、寝る時は裸派というわけか。師匠もそのほうが気持ちよく寝れるって言ってたっけ。大人の女性は皆そうなのかな?


 僕の手にはなぜか下着が握らされていた。どうやら下着をゲットしてしまったようだ。


 あとで聞いた話だけど、ニッジがボヤいていたらしい。

 「魔法で片付くなら、なんで呼ばれたの? 殴られ損じゃん」


 すまない。ニッジ。でも、僕の中で評価は変わったぞ。ニッジは優しくてサボり癖あるって思っていたけど、ララより力が弱くてサボり癖のあるニッジ君だったね。

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