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王との謁見 前半

 王はシャンドル公とは同級生だと聞いたことがあったな。だけど、目の前にいる人はシャンドル公よりも若い感じがする。金髪碧眼で、まさに美丈夫と呼ぶにふさわしい人だった。こんな人が市井にいたら、さぞかしモテるんだろうな。


 「お? オレの顔をこんなにジロジロ見てくれる奴なんて久しぶりに見たぜ。さすがはクラレスの……っと禁句だったな。リリーの面影がよく残っているな」


 さっきから僕の母親と思われる人の名前をよく口にしているけど……


 「僕の母を知っているのですか?」


 「……それにしても、きれいな顔をしているな。オレも顔には自信があるが、ロランの前では霞んでしまうな……いやぁ、クラレスに似なくて……」

 

 「おほんおほん!! 陛下。すこし戯言がすぎるようですぞ」


 あれ? 僕の質問は無視されている?


 「だって、仕方ないだろ? こんな面白いこと、最近は無かったからな」

 「陛下を面白くさせるために連れてきたのではありません。本当は会わすつもりなど無かったのですが、事情が変わりまして……」


 「ほお。クラレスが本気な顔をしているな。冗談はこれ以上は言わぬ。なんだ? 申してみよ」


 僕は空気ですか? 二人に間に全く入り込める余地がないのですが。


 「先程、魔力測定を行ったのですが……青でした。それも部屋を照らすほど」


 その言葉に何の意味があるか分からないが、王は全てを理解したようだ。僕をなんとも言えない表情でちらっと見てきた。怪訝? いや、恐怖? 驚愕? 分からないけど、楽しい表情でないのは間違いない。


 「で、どうするつもりだ?」

 「はっ!! 以前よりの話を現実にしてもらいたいのです」


 「良いのか? ロランにとっては茨の道やもしれぬぞ。それに本人はどう思っているのだ? 確認したか?」

 「いえ。まだで……」

 「クラレスらしからぬな。少々、浮ついてしまったのかな? まぁ、よい。オレから聞くことにしょう。いいだろ? クラレス」


 「陛下のお言葉に従います」

 「その言葉、嫌いだな。お前には常に意見を言ってもらいたいのだ。これは本来、クラレスが言うべきことだろ?」

 「いえ、本心からの気持ちです」


 僕はポカンとしているしか無かった。まぁ、退屈はしないかな。この部屋の調度品と言ったら凄いんだ。どれも細かな細工が施されていて、おや? あれはシャンドル公の家紋。となるとあの調度品は……。まさに職人の技と言った感じだ。こんな職人がスラムにいたらなぁ。


 「……聞いているか? ロラン」


 すっかり調度品に魅入っていて、話を聞いていなかった。謝ると、王は「気にするな」と言ってくれた。


 「まぁ急で困惑しているんだろ。で、どうする? シャンドル領に行くか?」


 なんで急にそんな話になっているんだ? ……まさか、口に出していた? それにしても、口に出したからと言って、招待してくれるなんて王って凄いんだな。でも、シャンドル公は大丈夫なのかな?


 「シャンドル公は宜しいんですか?」


 「ん? ああ。もちろんだ。ロランさえよければ、だが。お前にとっては、かなり辛いこともあるだろうが……スラムはお前にとって居心地が良い場所だ。そこから離すのは忍びないのだが……」


 シャンドル公も優しい人だ。確かに職人の道は厳しいだろう。でも、僕がこの技術を習得すれば、スラムに仕事を作ることが出来るんだ。きっとガーフェも理解してくれるはずだ。


 「王とシャンドル公のご厚意……ありがとうございます。シャンドル領に行って、いろいろと勉強させてもらえれば」


 「殊勝な考えだが、領に行けば、兄弟と争うことになるのだぞ。その覚悟はあるのか?」


 なるほど。確かに技術を得るためには兄弟弟子とも作品を競い合わなければならないな。その覚悟を聞いてくるとは……一王国民に、これほどの関心を持ってくれる王は偉大だな。


 「もちろんです。その覚悟なくてはスラムを飛び出す意味なんてありません!! そして……僕は必ず持ち帰ります」


 王とシャンドル公は目を見合わす。どうやら、僕の熱意に驚いている様子だ。するとシャンドル公が頭を抱えだした。


 「ロラン。お前……なに、言ってるんだ?」


 ん? 何か変なことを言ってしまったのか……まさか……。


 「もしかして、持ち帰ってはいけないということでしょうか? たしかに技術には秘伝というものがあると聞いたことがあります。そういうことでしょうか!?」


 「いやいや。そうじゃない。そもそも何を持って帰ろうとしているんだ?」


 そんなことは分かりきっているのではないのか? 僕はシャンドル家の家紋が刻まれた調度品を指差した。


 「僕はあれを作れる技術が欲しいんです。そして、スラムの人達に教えて仕事を作るんです!!」


 「おい!! クラレス、どういうことだ?」

 「私にも何が何だか……ロラン、どういうことだ? 説明しろ」


 何を聞いてきているのか、よく分からなかったけど、工房に弟子入りをして、兄弟弟子と切磋琢磨して技術を獲得し、晴れてスラムに戻り、技術を教え……スラムに一大工房を立ち上げるという大きな夢を語った。


 それを聞いて、王は大笑いしていた。人の夢を笑うとは……評価を下げるしか無いようだな。偉大な王から偉大なゴミに。


 「いや、笑っては済まないと思うが笑わざるを得ないだろ? クラレス、どうするつもりだ? 多分、ロランは何も知らないぞ」


 「ここまで来たら……ロラン。お前は自分の出自について、何を知っているのだ?」


 なぜ、急にそんな話が? まぁ、偉大なゴミとはいえ王の前だ。素直に答えておこう。師匠から聞かされていたことを伝えた。


 「何も知らぬと変わらないではないか……私については、どうだ? 何を知っている?」


 何を言っているんだ? シャンドル公はこの国の英雄。公爵家で、代々宮廷魔法師筆頭を引き継いでいる由緒正しい家系だ。それ以上のことを知っている者なんているのかな?


 シャンドル公はどうやら頭が痛いようだ。さっきから頭をずっと抱えている。


 「あの、これは一体何なんですか? 僕は技術を学ぶことは出来ないのでしょうか?」


 さっきから笑い通しで、話もしたくないと思っていた王が間に入ってきた。


 「オレから話そう。どうも色々と勘違いをしているようだ。もっとも、こんな話はオレかクラレスから聞かないと、にわかに信じられないと思うが……まず、そうだな……単刀直入に言うが、お前は貴族の生まれだ。驚いたか?」


 驚くも何も、何を言っているのか分からない。だって、貴族の生まれなのにスラムにいるのはおかしいじゃないか。


 「おや? 意外と冷静なんだな。意外と肝が座っているのか、まだ理解できていないか。話を続けるぞ。貴族と言っても、その辺の貴族ではない。我が王国での柱石ともいえる貴族……シャンドル家だ」


 ……? それが本当なら、父親は……シャンドル公? それともシャンドル公の兄弟とか?


 「シャンドル公、王の言っていることは、本当なんですか?」


 「本当だ。私が……お前の父だ。済まなかった……本当に済まなかった。てっきり、お前は全てを知った上で私と接してくれていたのだと思っていたが、大きな思い違いだったようだ。苦労をさせて……」


 これでなんとなく、さっきから訳の分からない話が繋がってきたぞ……シャンドル家に行く、そして兄弟と戦う……つまり、跡目争い!! 間違いないぞ。それの覚悟を聞いていたのだな。ふと、気がつくとシャンドル公が頭を下げていた。


 なんで頭下げてるんだ? 僕はようやく会話の内容が分かってスッキリしているというのに……。


 「頭をあげてください。僕は不幸でも何でもありませんでした。親がいなくとも、残念な師匠もいたおかげで不幸を感じる暇もありませんでしたよ。頼れる仲間もいましたし、それに今はそれなりに充実していて、楽しさを感じるようになりました。ですから、シャンドル公に思うところは……ありません」


 「その間が怖いが、ロランの言葉を信じよう。だが、私は父親としての務めを長い間、ティスに任せたままにしていた。その償いはしなくてはならない。なにか、求めるものはないか?」


 急に言われてもなぁ……。


 「その前に、教えてください。なぜ、僕が息子だと分かったんですか? こういってはなんですが、僕くらいの背格好の子供なんて山のようにいるじゃないですか。それとなぜ、今、領地に戻るように言うんですか? 何か理由があって、領地を離れることになったんですよね? それは大丈夫なんですか?」


 「ふむ。母親の名前とティスの存在が確信する材料だったが、根拠は……その目だ。朱色に輝くその目は、代々シャンドル家の者が受け継ぐとされるもの。王家の碧眼と同様、我が家の朱眼もまた王国では尊いものとされているのだ」


 そういえば、僕の目って赤かったっけ。


 「その目がある故、お前には帽子をかぶらせた。朱眼はそれほど王国では注目される理由となる」


 変顔だからではなかったのか……良かった。本当に良かった!! もう満足したから、帰りたい気分だよ。だが、話はまだまだ続きそうだ。


 「そして二つ目の質問だ。これは私が不甲斐ないばかりに……ロランとリリーには申し訳ないことをしたと思っている」


 リリー、やっぱりその母親の名前はリリーなのか。会ったこともないし、何も実感が湧いてくることがないな。


 「リリーは……私が初めて本気で恋をした女性だ。彼女は、巫女だった。偶々、我が領内に来た時に出会い、恋に落ちた。だが、その時の当主である我が父はリリーとの結婚を認めてくれなかった。父は、伝統的な血統主義の考えで、貴族以外の血をシャンドル家に入れようとはしなかった」


 巫女って? 血統主義ってなんだ? その質問は王が話してくれるようだ。


 「巫女っていうのは、教会に仕えている神官の中で回復魔法が使える存在のことだ。言ってみたら、教会の顔だな。各地を回り、怪我人や病人を治療していく。教会はそのおかげで布施が溜まるって寸法だ。巫女の力はかならず市井の民から生まれ、引き継がれることは殆どないらしいな」


 なるほど。


 「血統主義っているのが、厄介なやつだ。言葉の通り、貴族の子は貴族からって事だ。貴族以外はまるで人ではないくらいに思う過激な考えもあるが、血統主義を信じているやつはそれに近いのが大半だ。もう分かるだろ? リリーがシャンドル家にいられない理由が」


 たかが血が違うだけ……そうなると、僕は純粋な貴族の子供ではないよね? 問題なんじゃないの?


 「時代が変わったんだよ」


 王は感慨深そうに話し始めた。まだまだ話は続きそうです。

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