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お調べ

 「ここが王城入り口だ」


 案内されたのは、地下に繋がる通路だった。城壁から城までは一本の大通りで繋がっている。だが、荷車は大通りを通ることなく、細道を通りながら王城に辿り着いた。どうやらこの道が城に荷を下ろす者が通る道のようだ。


 さらに荷物はすべて王城の地下に格納されるようで、そのための専用通路まで用意されている。シャンドル公はそこまで案内してくれると、僕だけを呼び止めた。


 「ロランはここにいろ。ガーフェ、このまま先に向かってから、手紙を担当に手渡すのだ。それで全て話が進むはずだ。ロランは先程言った通り、少し調べるから時間がかかるやも知れぬ。我々の手でスラムに届ける故、安心するがいい」


 「不肖、ガーフェもお供できないでしょうか?」


 「ならぬ。我らが向かう先は王城内。悪いが許可なきものを立ち入らせるわけにはいかぬ。悪いようにはせぬから、安心いたせ。だが、ロランへの忠義。実に頼もしいな。これからもよろしく頼むぞ」


 「はぁ……承知、しました」


 僕が見たのはガーフェの拍子抜けしたような表情だった。角が若干『?』マークになっているような気もしたけど。


 どうやら目的の場所には、地下からは行くことが出来ないようだ。


 王城を回るように移動すると、大きな門構えのある場所に辿り着いた。


 「よいか? ここよりは王家の者がいる場所となる。くれぐれも粗相のないようにな」


 王家!? どこにいくつもりなんだ? だけど、やはりシャンドル公だ。このような場所でも顔パスだよ。門を抜けると、そこには大きな庭園が広がっていた。季節の花が咲き誇り、蝶々が優雅に飛んでいた。地面は芝に覆われていて、しっかりと手入れがされている様子だ。


 関心をしている間にシャンドル公はどんどん先に進んでします。追いつかないとな……・それにしても、なんて凄いところなんだ。これが王国で一番偉い人が住む場所か。見たこともない真っ白な建物。屋根だけしか無いから、住むとかではないんだろうな。何をするところなんだろ?


 歩いている石畳だって、落ち葉一つもないや。まぁ、スラムで作った道のほうが、凹凸が少なくて歩きやすいから、ここだけ優越感を感じられるな。それ以外は凄いの一言かな。


 あれ? シャンドル公がいなくなってしまった。どこにいっちゃったのかな? 進むと二手に分かれている道に出てしまった。どっちだろ? まぁいいか。あの白い建物がどうしても気になっていたんだよな。


 「……へぇ、こうなっているのか」


 白い建物にはテーブルが置かれていて、ここで休憩する場所のようだ。きっと食事か何かをするのかな。ここで食べたらきっと美味しいだろうな。そういえば、鞄にパンが入っていたな……いやいや、さすがにここでは食べられないか。


 「ちょっと、あなた!! 汚い手で触らないでくださいませんか?」


 急に声を掛けられたものだからビックリしてしまった。


 「あ、すみません。つい、きれいな建物だったから魅入ってしまって……」


 謝りながら、声の主の顔をふと見た。……可愛い子だな。歳は僕と同じくらいだろうか。特徴的な金色の瞳に紫色の長い髪。まだ、あどけなさが残っているけど将来はきっと美人になるだろうなって感じがする。


 「なにをジロジロと見ているのよ。そんなに私の顔が珍しいわけ?」


 「そんなことないよ。すごくきれいでビックリしただけだよ。スラムでは君みたいなきれいな子、いな……」


 「……あなたもそんなおべっかを使うのね」

 「ち、ちがうよ。本当に……」


 「まぁいいわ。それよりもスラムの子供がなんでここにいるのよ。邪魔だから、消えてくれないかしら。それとも迷ったの?」


 「違……」

 「それよりもレディーの前で帽子をかぶっているのは失礼でなくて?」


 あれ? この子、話を最後まで聞いてくれないぞ。

 「ダメだよ。これは色々な人にかぶって色って言われているんだ。きっと、王都の人達には僕の顔は変に見え……」

 「気になるわね。いいから取りなさいよ。変だったら笑ってあげるから」


 それが嫌で外せないって分からないのかな? 僕は渋々、帽子を取った。風が心地良いな。


 「……」


 女の子が絶句していた。口をぽかんと開けて、はしたない。そんな顔をするほど、顔は変だったんだな。笑われる方が幾分気は楽かも知れない。僕は帽子を再びかぶろうとすると、手を押さえつけられ、女の子の顔が目の前にやって来た。


 ああ、本当にきれいな顔をした子だな……。


 「貴方……すごいわ」


 それほどすごい変顔だったか……ここは小躍りでもして喜んだほうがいいかな? そっちのほうが女の子が喜んでくれるかもな。


 「そんなに変かな? 帽子を早くかぶり……」

 「ダメよ。そんなにきれいな顔を隠すなんて。もうちょっと見せて……すごいわ。こんなにきれいな顔、見たことがないわ。私でも嫉妬してしまうわ」


 は? きれい? 真顔で近くで見られるものだから、少しで触れてしまいそうだ。なんだ、気恥ずかしくなってきたぞ。僕が少し顔を反らしたところで、ガチャガチャと金属音がしてきた。


 「探したぞ。ロラン。こんなところで……おお、これはラビリス王女。ご機嫌麗しゅう」


 シャンドル公が僕を見つけてくれたみたいだ。金属音は剣がベルトにこすれる音だったか。それにしても、目の前の子が……王女? シャンドル公が頭を下げているから間違いないんだろうけど。


 「シャンドル公。お久しぶりね。今日も父上にお会いになりに来たのでしょうか?」

 「まぁ、そのようなものですな。この少年も……」


 「ど、どういうことよ!! 私なんて父上に一度だって会ったことないのよ。なんでスラムの子供に会うのよ。おかしいじゃない!! 私は王女なの。父上の娘よ。なんで!!」


 ラビリス王女が急にシャンドル公の胸ぐらをつかむように、声を荒げ始めた。全然、状況が飲み込めないぞ。


 「いや、この子は王には会いません。会うのは私だけです。ご安心ください」


 「……そう。王女たる私が取り乱しました。申し訳ありませんでした」


 「いえ。こちらこそ、言葉が足りず王女の気を乱してしまったようです。それでは、我々は失礼します」


 シャンドル公に目配せに頷き、立ち上がってから女の子……じゃなかった、ラビリス王女に一礼だけして離れようとすると声を掛けられた。僕ではなく、シャンドル公にだ。


 「シャンドル公。その子はあなたの従者ですか?」


 シャンドル公は首を振った。


 「この子は……スラムを取り仕切る者です。決して、私の従者ではありません。名はロラン。近い将来、ラビリス王女の耳にもその名を聞くことになるでしょう。それでは」


 「スラムを……。ロラン……」


 かすかに聞こえた声が王女の初めて会った時の最後の言葉だった。シャンドル公はさっきよりも更に早い足取りで、とある場所に向かっていった。今回ははぐれないようにしないとな。すると、ふと、立ち止まりシャンドル公が振り向いた。


 「ロラン。ラビリス王女をどう思った?」

 「どうって言われましても……可愛い子でした」

 「ふむ、そうか。ラビリス王女は実に不憫な子供なのだ。母のバーバラ王妃は王国の属国の姫だったお方だ。輿入れはしたが、王からの寵愛は受けられず、先程のラビリス王女にかなりひどい仕打ちをしていたようだ。今は、母と娘は離れ離れで暮らしているのだ」


 それだけの会話だった。ラビリス王女なんて、雲の上のような存在だ。そんな彼女の話を聞いても、実感は何も湧かなかった。かわいいし……多分、好奇心旺盛な普通の子供なんだな、って思ったくらいだな。

 

 「ここだ」


 連れてこられたのは、城の、多分隅にある部屋だった。王城に似合わない簡素な扉があり、開けると小さなテーブルが置かれた小さな部屋だった。中には顔をすっぽりと隠したフードをかぶった男か女かも分からない人が椅子に座っていた。


 シャンドル公は誰に話すわけでもない。空気にでも話しているように「この子を見てくれ。それとこの事は内密だぞ」とだけいうと、フードの人は手で対面の椅子に座るように促してきた。


 「座って、水晶に手だけ当てればいい。それで全てが分かるはずだ」


 シャンドル公に従っておくか。水晶に手をあてるとひんやりとした感触が手に伝わってきた。フードの人が何か言葉を呟くと……にわかに水晶が光を帯び始めた。光は徐々に大きくなり、青い光となって部屋を煌々と照らした。


 「信じられぬ……」


 初めて聞くフードの人の声は、ひどく掠れていて、老人のようなだった。その言葉にシャンドル公が食いつくようにフードの人に近づき、胸ぐらをつかんでいた。


 「何が、信じられぬのだ!!」


 「ひい!! 魔力が……潜在魔力が……人の器を大きく超えておりまする」


 「どういう意味なのだ!!」

 「分かりませぬ。分かるのは、この世でもっとも優れた魔術師になれるということです」


 「な、に?」

 

 シャンドル公は僕を睨みつけるようにこちらを向いた。そして、フードの人を解き放ち、「他言は無用だぞ」とだけ言って、部屋を離れた。僕もフードの人に頭を下げてから部屋を後にした。


 「シャンドル公。あの人は何を言っていたのですか?」

 「ロランは……知る必要は今はない。ところで火の魔法はどの程度使えるのだ?」


 「残念ですが、どういう訳か、火属性だけは苦手で。全く使えないのです」


 「使えない、だと? どういうことなのだ?」

 なにやら考え事をしだして、ブツブツと呟くだけで聞き取ることが出来なくなってしまった。ただ、ハッキリと言ってきた言葉ある。


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