魔法の合成
マリアのスカートめくりに挑戦するという日課を繰り返すようになった。あの手この手、一番効果的だったのはマリアの油断を誘うことだ。特にボディタッチが有効だ。さりげなく、手を触ったりしてから魔法を発動するとマリアの回避が一テンポ遅くなることが分かったのだ。
それでもマリアのスカートはめくれないでいた。そして、三度目の失敗をすると必ずお仕置きが待っていた。その内容はとても言えないものだが、子供心にちょっと傷が付くものだった。
「ロラン様。毎日会いに来てくれて、ムフフなことまでさせてくれるので文句はないのですが……ひとつだけ、言っておきますね。多分、魔法の練習にはなっていないと思いますよ」
ん? マリアがなんか変なことを言っているぞ。まさか、心を惑わし油断を誘っているのか? 練習になっていないなんて、そんなことはない。実際、風魔法の熟練度はかなり上がってきているはずだ。
「多分違うと思いますよ。動体視力とか、反射神経とかが向上しているせいで私の行動を見えるようになってきているだけだと思います。もし、風魔法の熟練度が上がっているなら、少しくらいスカートをなびかせられるくらいにはなっているはずではないですか?」
考えてみれば、この一ヶ月毎日繰り返してきたが、マリアのスカートはまったく靡いた記憶がない。
「聞くまでもないと思いますが、これを考えたのはティスですね? まったく……発想はポンコツでしたけど、まぁ、楽しい思いをさせてもらえたので良しとしましょう」
良しとされても困るんだけど。僕の一ヶ月は一体何だったんだ?
「私にとっては、一線を越えるか超えないかと瀬戸際を経験し続けて、自らの欲求と理性をコントロールする日々でしたわ」
うん。そんなことは聞いていないよね? というか、やっぱりお仕置きと称して完全に自分の欲求をぶちまけていたわけだね。
「そんなに距離を取らなくても……私からも一つ。風魔法を強化する方法をお教えします。やってみますか?」
かなり胡散臭いような気もするが、こういうことに関してマリアは嘘を付いたことがないと思う。多分、本当に練習になるようなことだろう。頷くと、マリアは僕の手を引いて、スラム郊外の開けた場所に行くことになった。
「さあ、やりましょう」
「はい!! でも、後ろから抱きつかれながらやる必要はあるんですか?」
「もちろんです。さあ、やりましょう」
あれ? 完全にスルーされたような気もするけど……まあいいか。
「ところで、何をするんですか?」
「風の渦を作ってみてください」
渦か……出来たぞ。小さな渦だけど。
「いいですね。じゃあ、それを大きくしてみてください」
あれ? なかなか難しいぞ。外の風の流ればかり考えていると、渦が壊れてしまうな。もしかして……やっぱりそうか。内側の流れもしっかりと考えないといけないんだ。
「さすがロラン様ですね。じゃあ、もっと大きくしてください」
これ以上? 今でさえも高さ10メートル位の大きさだよ。出来るかな? ……難しい。大きくなればなるほど、イメージすることが多すぎる。……ダメだ。
「難しかったですか?」
「うん。考えることが多すぎて、とてもこれ以上は大きく出来なかったよ」
「それはそうですよ。人間が巨大な渦を想像することなんて、普通は不可能です。むしろロラン様があれほどの大きさの渦を作ったことに驚いたくらいですから」
無理なのかな? もう少しでなんとかなるような気もしたんだけど……。マリアがなにか言っているような気もするけど、もう一度、挑戦してみよう。
次はやり方を変えてみよう。一つの大きな渦を作ろうとするから無理があるんだ。そうじゃないんだ。渦は風の集合体だ。ということは、渦に渦を合わせることで大きくすればいいんじゃないか? だったら、小さな渦のイメージだけで十分なはずだ。
まずは小さな渦。これは簡単だ。そして、もう一つ小さな渦を作り、ぶつけるように合成する。ここで失敗したら終わりだと思っていたが、案外簡単に合成が出来た。この調子で……目の前には30メートルを超える渦が完成していた。
「もう少しくらいなら大きくできそうだけど……周りに被害が出そうだな。どうですか? シスター」
さっきから黙っているマリアに声を掛けたが、それでも返事がなかった。一旦、魔力を切り、渦を消した。僕はマリアに強く抱きしめられているせいで身動きが取れない。
「シスター?」
「ロラン様……一体、何をしたのですか?」
変なことを聞くんだな。マリアに言われた通りに大きな渦を作っただけなのに。
「いいえ。こんなのは不可能です。いえ、正確にはできますが……」
どっちなんだ?
「魔法というのはイメージが必要なのは常識です。そのイメージは想像なので、どうしても限界が来ます。特に大きな魔力を消費するような魔法は特にです。そこで、生み出された技術があるのです。魔力のイメージ化です。人のイメージに魔力を載せることで、補完するような効果を生み出すのです」
へぇ。つまり、魔力を消費してより複雑なイメージが出来るようになるってことか。それは凄いな。
「そうなんです。その代わり、イメージが難しい大魔法で魔力の消費が大きいのに更に魔力を食う結果になるのです」
なるほど。この技術のすごいところは、大魔法の上限が無くなったことだろうな。イメージという制限が無くなるってことだもんな。もっとも魔力あってのものだから、自ずと限界は見えてくるだろうけど。
「私はそれを教えるために無理な大魔法をしてもらおうとしたのに……ロラン様は教えなくてもやってしまった。あれほどとなると、明らかに人智を超えた存在と言わざるを得ませんね。やっぱり……」
僕は神でもなければ、天使でも悪魔でもないですからね。最近、その話が無くなったと思っていたのに。
「いや、でも……明らかに技術を使わずに人が使える魔法を超えていましたよ」
そうは言っても、出来てしまったものはしようがないと思うんだけど……。
「どうやったか説明できますか?」
「とにかく小さな渦を合成していったって感じかな。だから、イメージは小さな渦だけかな。その分、大きくするのに時間がかかっちゃうのが難点かな。もう少し大きな渦を作って合成をしたほうが良かったかも知れない」
「合成? 聞いたことがないですね。もしかしたら、魔法の凄い発見かも知れませんよ。これは秘密にしたほうがいいかも知れません」
まぁ別に言いふらすつもりはないし、大層な技術とは思えないから、僕としては何も気にしていないんだけどな。
「いいえ。魔法は重要な知識であり、技術でもあり、兵器でもあるのです。新たな技術はそれだけで凄い価値があり、危険でもあります。ですから、ロラン様がもう少し大きくなって自立が出来るようになるまでは秘匿にするほうが良いと思います」
まぁ、マリアがそう言うなら秘密にしておいたほうがいいんだろう。マリアの真剣な表情が真実味を否応なく帯びさせている。
「私もそれまでは黙っている……あら? これって二人だけの秘密って言うんじゃないですか?」
さっきまでの真剣な表情はどこに? ニヤけた顔が顔中に広がって、途端に胡散臭くなってきたぞ。それよりも凄く気になっていることがあった。
「それで風魔法の熟練度はどうやってあげるの?」
どうやら、風の渦を作る作業を繰り返すことだったみたいだ。風魔法の極意は風の動きを隅々までイメージできるかにかかっているみたいだ。少しでもいい加減だと、そこにロスが生まれ、無駄な魔力を使ってしまうことになるみたいだ。
「風のイメージには渦が最適のようです。渦になった風は上下左右、あらゆる方向に動くと言われていますから、風魔法師はかならず練習には風の渦を作るみたいなんですよ」
そういうことだったのか。さすがはマリアだ。どっかの適当な教えをしている人とは大違いだな。この練習なら、空いている時間に出来そうだな。しかも、収穫もあった。実は巨大な風の渦が出来ているとき、周りの風が渦に集まるんだ。
その風が通るとき、マリアのスカートをめくり上がらせることが分かったんだ。そこまで分かれば簡単だった。集まる風にさりげなく魔力を与え、方向性を与えればいい。通り過ぎる風がマリアのスカートの中に入り込めば、あら不思議。
「ロラン様は本当にパンツが好きなんですね」
あ、やっぱりバレていたか。とりあえず、風魔法の熟練度の上げ方は理解することが出来たぞ。




