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スラム畑

 道普請は、ついこだわりを出してしまい、一月という時間を要してしまった。もともと放出できる魔力が少ないというものあったけど、農地とスラムを結ぶ道路は今後重要になるはずだから、丁寧に作ることにしたのだ。道路面は平らにし、排水溝付きだ。


 真っ直ぐと伸びた道路を見て、とても満足だ。毎日、通っている農作業に従事する人達からの評判も上場で、雨が降っても泥道にならなくていいと喜んでくれた。


 ちなみに一番の要となる農地なんだけど……実は難航していた。原因はとにかく土が固いことだった。ガーフェが王都まで行って買い付けてきたクワや鋤では歯が立たないほどみたいだ。さすがのニッジもお手上げのようで、場所の移動を真剣に考えているようだ。


 「ロラン。済まない。計画では、かなりの面積を耕作していたはずなのに一割も進んでいないんだ。これから先もどうなるかわからないと思うんだ……」


 ニッジが落ち込む姿は初めて見るような気もするな。話そっちのけで、そのことばかり考えていた。ガーフェはどうだろうか?


 「私もここまで土が固いというのは予想外でしたな。それに石がとにかく多いのです。理由は分からないのですが……旧都の農地だったのは昔の話ということなんでしょうか……場所を移動することも視野に入れておいたほうがいいでしょう」


 ガーフェが言った通りで石が多いようだ。目の前で作業している人達の多くは石拾いに動員されている様子だ。たしかに、これでは作業が遅々として進まないのは納得だ。


 石か……試しに近くの土に向かって、石だけを動かすイメージで土魔法を使ってみた。おや? おやおや? すごい量が出てきたぞ。なんだ? この量は。まるで地下に石の構造物でもあるのかと思ってしまうほどだ。石はとりあえず、近くに集めておこう。


 その光景を見ていたニッジが感嘆の声を上げていた。


 「相変わらず魔法ってやつは便利だよな。これだけの面積の石を一瞬で取り除くんだもんな。なぁ、ロラン。その魔法ってどれくらいできそうだ?」


 どれくらいって言われてもよく分からないんだよな。あまり疲れるような感じもしないし……一日で目の前に見える畑くらいは出来るかも知れないな。


 「もっと早く言ってくれれば……いや、ロランは道普請をしていたんだもんな。畑はオレ達に割り振られた大事な仕事だ。やっぱり、オレ達の力で……」


 「ニッジ。僕の力で皆が楽になるのなら、使うことは躊躇するつもりはないよ。それに石さえなんとかすれば、どうにかなるんだろ?」


 「ああ。もちろんだ。場所は最高だけど、石だけが問題だったんだ。石さえ解決すれば……」


 ガーフェも頷き、魔法を使う許可? が降りた。もっとも、あとでガーフェに小言を言われてしまった。


 「ロラン様の思う通りにやって構わないのです。ニッジ君の責任を持ってやるという心意気を尊重するのも理解できるのですが、ゆっくりやっている時間もないでしょうから」


 その通りなのだ。シャンドル公との約束まですでに一年を切っている。この畑である程度成果を出さなければ、ニッジについての約束も破断になってしまう。おそらくだが、場所を移動すると時間的にはかなり厳しくなる。それに別の問題もなる。


 手伝ってくれているスラムの人達のやる気だ。今はそれなりにやる気は継続しているようだが、他の場所に移動となると話は別だ。成果が一度も出ていない状況では、労働がただの肉体の酷使に感じてしまうのだ。場所を移動するにしても、ある程度のせいかは必要なのだ。


 「ニッジは石を回収した場所から順に工作を始めてくれ。回収した石については後で使い途を考えよう。ガーフェは肥料の運搬を頼む」


 ニッジとガーフェは頷き、行動が始まった。といっても、石拾いが終わらなければ何も進まない。


 ふと、今の実力だとどれくらいの面積を一度で同時に行えるのかが気になってしまった。この一ヶ月の間、ずっと道普請をして土魔法の熟練度はかなり上がったはずだ。


 出来るかな? 怖いけど……やってみたい。眼前に広がる農地はどれくらいの面積だろう? 横は百メートルくらいかな。奥は……分からないな。とにかく、やってみよう……。石を取り出すイメージは簡単だ。さっきは深さをイメージしなかったけど、五十センチメートルくらいでいいかな。


 限界まで魔力を溜め込み、それを慎重に調整しながら手元に集めていく。この作業も慣れたものだな。


 その瞬間、全ての魔力を放出した。体から魔力がほとばしり、眼前の畑全てに靄がかかったような幻想的な雰囲気が広がった。その間に、土から次々と石が生まれるように吐き出されていく。それが一分程度もすると終わったかのように、靄は霧散していった。


 畑には一面石だらけ。ただ、先程の石の量という感じではない。何分の一か、何十分の一か、その程度だ。


 それにしても……あれだけ魔力を放出したはずなのに、全く疲れないぞ。いや、脱力感は感じるけど不快感は全く無い。どうやら、この程度の魔力の放出では問題はなくなってしまったようだな。


 「あの……シスター? どうして自分の膝を叩いているんですか?」


 道普請が始まった頃から毎日、一緒に行動するようになったマリアとララ。もはや、一緒にいるのが当たり前すぎるようになっていた。


 「私はロラン様がお休みになるための枕ですから……それとも私の膝枕ではお気に召さなくなったでしょうか?」


 いや、そもそも膝枕を気に入っていると言ったことはないと思うんだけど。たしかに気持ちいいし、やたらと丈が短い修道服にムラムラする気持ちはないこともないけど……それでもやっぱり変だと思う。


 「シスターの優しさは凄く嬉しいですけど、まだ魔力には余裕があるみたいなんです。だから、休憩はいらないですよ」

 

 いや、そんなに露骨に寂しそうにしなくてもいいのに。と思った刹那、ララがマリアに殴りかかったのだ。マリアは少ない動作で避けて、ララの腰を抱えるようにつかむと、お尻を叩き始めた。


 「まだまだ甘いですよ。あれほど気配を消せと言っているでしょう。そんなのでは暗殺者としては程遠いですね」


 うん。ララは暗殺者を目指さないでね。というか武術じゃなくて暗殺術にいつの間に変わったの? あれ? ララの眼光ってこんなに鋭かったっけ?


 「ララは暗殺者にでもなるのかな?」


 一応、本人の意思を確認しておきたいところだ。


 「はっ!! ロラン様のお命を狙う不届き者を容赦なく打ち殺すために、日々鍛錬を続けております」


 ああ。ダメだ。ララがなんか別人になっている。マリアは後ろで頷いているけど、ダメだからね。ララは暴力的だけど、優しい女の子だったはずだ。今は完全に武人みたいになっちゃってるよ。もうちょっと子供らしくてもいいんだからね。


 「いえ。私はマリア師匠のもとで、新たな自分を発見することが出来ました。今の境遇に満足しております」


 自分? えっ? 自分の事、自分って言った? これはヤバイぞ。どうすればいいんだ? とりあえず、マリア師匠と呼ばれている人を説教だな。


 マリアだけを呼び出し、ララのあるべき姿をコンコンと説明した。さすがにマリアも分かってくれたみたいで、戻ってくるやいなや、ララに「これからは普通の武術に戻します。いいですね」と言っていた。


 ララはかなり不満そうだが、今より酷くなることはないだろう。


 そんなこんなで、石拾いはかなり進めることが出来た。周りを見ていると、ニッジが指揮している耕作隊も順調に畑作りが進んでいる様子だ。耕作された畑には順次、肥料が投入され、再び耕作されていた。


 「すごいフカフカな土だな。これが肥料の効果ってやつなのか」


 「まぁな。でも、本当に凄いのはこれからだぞ」


 いつの間にか後ろに立っていたニッジは自信満々に講釈を始めた。


 「土っていうのは、栄養の吸着剤のようなものなんだ。作物はその吸着した栄養を吸って育つんだ。だから、土があればある程度は作物は育つことが出来るんだけど、栄養がなかったらやっぱり育たないんだよ。通常、肥料の投入は最初の一回だけだ」


 ほうほう。よく分からないけど、ニッジの知識には驚かされるばかりだ。


 「話聞いているか? 今回は実験の意味も込めて、肥料の回数を増やすつもりだ。回数による変化を見るんだ。きっと面白いことが分かるはずだ」


 そういうものなのか。話を聞くと、ちょっとおもしろそうだ。一回だけでも効果があると言われる肥料を何度も使う? なんか凄そうじゃないか。


 この結果は意外にも早く分かることになった。


 「三度が理想なようだな。そして、これが収穫した野菜だ」


 目の前にある瑞々しい野菜を手に取り、一口食べてみた。


 「旨い!! こんなの初めて食べたぞ!!」


 その野菜がスラムの未来に光明をもたらすことになる。

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