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スラムの仕事探し

 スラムは安定して食料を得る方法を獲得した。シャンドル公は約束を果たしてくれたのか、すぐに食料の配給を始めてくれた。それと同時に、砂金の収集のノルマも課してきたのだ。とりあえず、スラムから千人を砂金収集に充てることとした。


 それでも、スラムにはたくさんの働き手が存在する。その人達に仕事を割り当てるのが、当面の目標だ。


 「ガーフェ。仕事を作りたいんだけど、何かいい方法はないかな?」

 「ないですな」


 回答が早いな。実は前にも聞いたことがあった。その時はガーフェの今までの苦労話を聞く羽目になって、挑戦したことが全て無駄になったことだけは知ることが出来た。


 ここの人達は、地方出身者が多い。戦争に駆り出され、負傷を理由に除隊を命じられ、田舎にも帰れずにここに屯している。地方の仕事と言えば、ほとんどが農業だ。それ以外の産業のほとんどが王都近郊で完結しており、地方には技術が全く伝わっていないのだ。


 つまり、スラムの人達に技術を期待してはいけないということだ。一から育てる、ということになるんだけど、それを教えてくれる人もいないから、なんでも頓挫してしまう。


 「やっぱり農業しか無いのかな?」

 「そうですな。それなら、すぐにでも始められますが……食料は潤沢ですからな。作っても、売ることは難しいでしょう。ロラン様は、賃金の得られる仕事をお探しなんですよね? なかなか難しいですな」


 「へへ。やっぱり貝殻集めを……」

 どこからともなくやってきた、スキンへッドだったが無視することにした。貝殻には砂金を発見したという奇跡を演出してもらったが、二度はないだろう。


 「無視しないでくださいよ。オレのオススメ貝殻セットを置いておきますから。じっくりと鑑賞して、貝殻の世界に入ってください。貝殻は山のようにありますから、入用なら言ってください」


 スキンヘッドはどこかにいなくなってしまった。目の前には貝殻セットが置かれていた。


 「何も案が出そうにないな。今日はこれくらいにしよう。ガーフェもスラムの人達から案を募ってくれ。特に技術がある者を探してくれると助かる」


 「分かりました。宛はありませんが、探してみましょう」


 ガーフェはそう言ってくれたけど、表情は決して明るいものではなかった。期待するのは止めておいたほうがいいな。餓死という危険な状況を脱したとは言え、スラムに仕事を作る方法をガーフェに頼ってばかりではダメだな。


 僕はスラムの街中を探索して、仕事になりそうなものを探したが、残念ながら見つけることが出来なかった。どうしても戦争で負傷した人達の姿が目に止まって、彼らでも出来る仕事となると思いつかないのだ。


 軽い作業が望ましく、それでいて手足が一部欠損しても、出来る仕事……。


 「師匠、何か無いですか?」


 結局、師匠頼りになってしまう。スラムの人達を笑顔にしたいというのは僕の願望なのに、人に頼ってばかりなような気がする。


 「ふむ。私を頼ってくるのは嫌いではない。むしろ、大いに頼ってくれて構わないぞ。私は寛容だからな。さて、相談の件だが……知らないな。そんなこと、私が思いつくわけ無いだろ?」


 頼っておいて言うのもなんだけど……頼りにならないな、師匠は。そんな残念な師匠には、残念な物がお似合いだ。


 「師匠にお土産ですよ」

 「何だ!? 酒か?」


 この人の頭には酒しか無いのか?

 「もっと、いいものですよ。これを見て、心を穏やかにしてください。ほら、ここに耳を当てると海の音がするんですよ」


 「お前は私を馬鹿にしているのか? 貝殻で喜ぶ年頃だとでも? まぁ、可憐な私を美少女と勘違いして、渡してしまうのも無理はないことだ。どれ、それは受け取っておこう。何かの材料くらいにはなるだろう」

 

 人が贈った物を錬金術の材料にするのはどうかと思うが、師匠らしいか。それにしても錬金術というのは、本当に優れたものなのだな。貝殻なんて観賞用程度にしか使い途がないのに、それを材料に何かに変えてしまうのだからな。


 「ちなみに、この貝殻はどんなものに変えることが出来るんですか?」


 「ふむ……興味があるとは珍しいな。まあ、教えてやろう。その代わり、砂金を少しよこせ」


 師匠の少しは本当に当てにならない。僕の持っている砂金は、これから先、手に入れる方法を失ってしまった以上、大切に使わなければならないものだ。師匠の道楽に浪費していいものではない。


 「なんだ、その疑った目は。砂金で酒を買ってくるとでも思っていないか? まぁ、少しは……いや、そうではない。貝殻を使った錬金術では砂金が必要なのだ。砂金は、錬金術でいう触媒だ。反応を促し、結果を早めてくれる効果がある。錬金術では一般的な材料だから、覚えておくように」


 へぇ、砂金にそんな効果があったのか。砂金を手渡すのに躊躇が無いわけではないけど、貝殻がどんな物に化けるのか、の興味が勝ってしまう。小袋に入れた砂金と貝殻を手渡して、錬金術を使ってもらうことにした。


 師匠は錬金釜のある工房に向かい、ほんの十分程度で戻ってきた。そして、差し出してきた砂金が入っていた小袋を手に取り、中を覗き込んだ。


 「師匠……これは無いんじゃないですか? どうみても、貝殻を粉末にした物ですよね? いくら、砂金が欲しいからって、これは酷いですよ」


 「愚か者が。私は錬金術ということについては、手を抜くことなどありえない。ましてや材料を受け取っておきながら、結果を裏切るような真似はしないつもりだぞ」

 

 うん、とても信じられないね。とりあえず、砂金を返してくれないかな?


 「まったく……いいか? その粉はたしかに貝殻を粉末にしたもので間違いないが、けっして貝殻ではないぞ。まぁ、試してみれば分かる。その小袋を水の中に放り込んでみろ。貝殻なら何も起きなはずだろ?」


 半信半疑といった感じだったけど、そう言われて試さないわけにはいかない。桶に水を張ってから、小袋を水の中に投げ込んだ。すると、面白いことが起きた。水だったはずなのに、お湯に変わったのだ。色も透明から白く濁ったように変わった。


 「これはどういうことですか? 一体、何が起きたんだろ?」


 「凄いだろ? これが錬金術というものだ。その粉は生石灰と呼ばれる代物だ。水に触れると、熱を出す面白い物だ」


 へぇ、これならお湯がすぐに作れるな。いちいち薪を燃やさなくてもいいかも知れないな。


 「オススメはしないぞ。手が火傷みたいになるぞ」


 僕が桶の中に手を入れようとすると、師匠から恐ろしい言葉が飛び出してきた。僕は白濁した桶のお湯を眺めながら、やっぱり貝殻は使い物にならないと思ってしまった。


 「師匠。その、生石灰という言われるものは何かに使えるのでしょうか?」

 「さあ? 錬金術で作れるということは知っている。一時期は兵器として利用する手も考えていたんだ。考えてみろ、その粉を体中にまぶしてから、水を掛けるんだ。すると……」


 「すると?」


 師匠の口からはとても表現したくない言葉が飛び出してきた。今日の師匠はなんだか怖いな。


 「そうでければ、肥料くらいだろうな」

 「肥料? 畑とかで使う?」


 「それ以外があったら教えてほしいが、その通りだ」


 この粉が肥料として使えることがどうも想像し難かった。残飯とか、糞とかが肥料になることはなんとなく分かるんだ。栄養がありそうだから。でも、この粉は……栄養になるのか?


 「私に聞かれても困るが、昔、そのような研究をしていると聞いたことがあるな。効果は確かめられたが失敗に終わったよ」


 なんでだろ? 肥料ってことは、野菜がたくさん作れるってことだよね? 効果があるなら、どんどんやればいいのに。


 「肥料の作り手がいなかったのだ。なにせ、錬金術だ。しかも、金を大量に使うからな。分かるだろ?」

 

 肥料として有用でも、粉を手に入れる手段がなかったってことか。それなら納得だ。でも、貝殻も肥料になるのだろうか? 粉の原料が貝殻なら、肥料になりそうなものだけど。今度、試してみるか。


 「そういえば、肥料ってあまり使っているって話聞かないですね。農業が盛んなら、肥料の話なんてよく聞くような気もするんですけど」


 「当たり前だろ。肥料作りは簡単だが、臭くて、重労働を伴う事が多いからな。誰もやりたがらないんだろう。王国でも、使用の推奨はしているが、普及はまだまだといった様子だな」


 誰もやりたがらない? 理由が臭くて、重労働か……しかも、王国が薦めている……なんか、すごく大切な話を聞いている気がする。


 ……これ、スラムで出来ないかな?

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