心のゆとり
城下街から帰ると僕はすぐに魔術の修行を行った。
身体に魔力を行き渡らせる。心を鎮めながら思う。
今までの自分は焦りすぎていたんだと。
このまま上手くいかなければアレイシアに見捨てられてしまうんじゃないかと。
僕は恐れていた。アレイシアが今日のギルド長と同じような目をしてしまうんじゃないかと。
でも違った。アレイシアは僕が自分を超えると言ってくれた。
アレイシアの言葉は虚言ではなく、信じて疑わないという温かさを感じた。
師匠が、彼女が信じてくれているのなら、「僕はこんなところで立ち止まってられない」
魔力を右腕に集中させる。できる、自分なら、あの人が信じてくれる自分なら絶対にできる。
「ファイアーボルト!!」
僕の右腕から放たれた火炎球は的に当たり、的を燃やし尽くした。
「…できた。」
「ようやくできたね。」
放心する僕に後ろからアレイシアが声をかけてきた。
「力が抜けていたし、心にゆとりがあったね。デートした甲斐があったかな?」
アレイシアが微笑みながら話す。
「師匠のおかげです。今まで自分は結果を出さないといけないと焦って魔力を乱してました。」
「そうだね。結果が欲しいのはわかる。だけど、そういう時程脆くなってしまう。…私達人間はね。」
アレイシアは寂しげに呟いた。
「だけど、師匠が信じてくれているから、自分を見つめなおす事ができました。ありがとうございました。」
僕はアレイシアの目をはっきりと見つめお礼を言った。
「君の目は本当に強い目をしている」
アレイシアは目を細め呟いた。
「いつか絶対に、師匠を守れるぐらいの力を手に入れて見せます。絶対に、強くなってみせます。」
僕がそう言うと、目を細めていたアレイシアの目が丸くなった。
「はははっ、それは楽しみだ。」
アレイシアは嬉しそうに笑った。
「だが、強くなりたいなら休むのも大事だ。夜中にこっそり修行をしても疲れが溜まるだけだからな。」
「師匠、知っていたんですか?!」
「当たり前だ。むしろバレないと思っていたのか。」
バレてないと思ってました。
「今日は勝手に抜け出さないよう監視してやる。私と一緒に寝るぞ。」
「い、いや、そんな、恥ずかしいですよ。」
僕は顔を真っ赤にしながら断ろうとする。
「遠慮するな。なんなら一緒に風呂に入ろうか。弟子の成長のお祝いだ。」
アレイシアはそういいながら僕を掴んで引っ張っていく。
「待ってー!!」
夜の森に僕の叫び声が響き渡った。
アレイシアは自分のベッドに眠る少年を見つめる。
散々叫んだからか、疲れてぐっすり眠っている。
少年を見つめるその目は聖母のような優しい目をしていた。
アレイシアは少年の頭を撫でる。
彼に魔術師としての才能はハッキリ言ってあまりない。それでも彼には他の魔術師達に欠けている大きな才能を持っている。
アレイシアは信じている。
彼ならばきっと私を超えてくれる。最強の魔術師にはなれないかもしれないが、最高の魔術師にはなれると。
アレイシアは願う。
そしていつか、彼が自分を殺してくれることを。