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廻り回って輪廻転生  作者: 和光雅宜
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第二話 プロローグ それは突然やってくる





 学校の校舎から出ると心地よい風が吹いていた。

 ちょうど今は夏と秋の中間らへんの中途半端な季節だが、この頃の風は気持ちがいい。思わず立ち止まって風を体全身で感じたいくらいだ。


「ほら、さっさと歩く! あんたのせいで遅くなったんだからね!」


「分かってますって、早く歩きますよ......」


 美沙希が急かしてくるが正直寝起きでとてもつらい。頭が回転しない。徹夜明けのような気分だ。


「次の中間テストどこ出ると思う?」


「やっぱり先生が何度も念を押してた生物のここが中心的じゃないか?」


「けどあの先生捻くれてるからなぁ、どこ出してくるか分からないんだよね」


「ほんとそれ。授業はうまいのに肝心のテストで予想外のことをしてくるからね」


「嫌になっちゃうよ」


 背後からそんな会話が聞こえてくる。1ヶ月後に迫った中間テストについてのようだ。

 せっかく忘れていたのにどうして思い出させるのかなぁ......あぁ、憂鬱だ......


 基本的に俺たちが通っている学校では歩いて帰宅する人が多い。

 理由としては、駅に非常に近いのと進学校だから市外から来る人もいることが影響している。

 大抵みんな歩いて駅に向かい、そこから電車を使って帰宅する流れだ。だから長期間友達と喋りながら帰るということをあまりしない。

 まぁ、俺たちはそれぞれ家が近いから徒歩、電車、バス、徒歩の順番でずっと一緒だが。


「ちょっと洸太、聞いてるの? 結局スタバ寄ってくの?」


「いや、今日はいいや。まだ眠いからさっさと家帰って寝たい」


「随分と自分勝手だなぁ」


「いやいや、人間は3日間寝ないと幻覚が見え始めるんだぜ。危険だから俺は寝る。」


「まだ洸太が起きてから数十分しか経ってないから大丈夫。もう一息頑張ろう!」


「一体何を頑張るんだよ...」


 そんな会話をしているうちに駅に着いた。改札口を通りホームで電車を待つ。時刻表を見るとさほど待たずに済むようだ。


「...けどしくったなぁ、ちょうどたこうの帰宅ラッシュの時間帯と被っちゃったか。」


「ほんと、誰かさんが寝ていなかったらこんな事にはならなかったのにねぇ。」


「....ごめんなさい。」


「まったくもう、今回は許してあげる。小さい頃からお寝坊さんなんだから。まぁ、そういう所も......」


 頭が回転していないので最後まで聞かずに条件反射で謝ってしまった。

 こいつには何故か頭が上がらない。恐らく、中学の時に起こした事故がきっかけだろう。


 中学の時に事故を起こした。自転車で坂道下っていたら、細い脇道から車が飛び出してきたんだ。咄嗟にブレーキを握ったが反動そのまま、時を○ける少女並みに前に吹っ飛んだ。そのまま意識不明の重体。病院で起きた時には、隣で美沙希が眠っていた。それ以来、美沙希には頭が上がらない。


 まぁ、今日は起こしてもらった借りもあるし、この帰宅ラッシュに巻き込んでしまったのも俺の責任だからスタバで奢ってやることにする。これで許してください。


 しかし電車はまだ来ないのか?

 そう思って時刻表を見るとまだ数分来ないようだ。

 これ以上こいつらと喋っていると他の奢りも決定してしまうので危険だ。早く帰ろう。


 そんなことを考えたのがいけなかったのだろう。

 寝起きでまだフラフラしていたら、後ろから少しど突かれた。

 普段なら大したことないような衝撃だが、この時の俺はそのまま隣にいる美沙希にぶつかってしまった。

 普段ならばその体の柔らかさに驚愕し、コンマで土下座に移行するのだが今回はそんな余裕が無かった。

 美沙希も不注意だったのだろう。いや、こんなのはただの言い訳だ。



 美沙希はバランスを崩してホームに転落してしまった。



 血の気が引いた。


 自分でも顔が青ざめているのが分かる。


 咄嗟に美沙希に手を伸ばした。


 向こうもそれに気付きこちらに手を伸ばした。


 伸ばされ手を握り返す。


 腕に全力で力を入れて引き上げる。


 一瞬の出来事だった。


 だが引き上げた瞬間反動で尻もちをついてしまった。


 そんなの些細な事だ。美沙希に目を向けて安否を確認する。



 俺の目には、美沙希の腕があった。




 ――――――――――――――――――――――――




 は?


 いやおかしい

 だって俺は美沙希を引き上げた

 その腕を掴み引き上げたのだ

 たしかにこの手で引き上げたはずなんだ


 絶対に何かおかしい

 なんで美沙希の腕が千切れているんだ


 おかしい


 しかし、冷静なもう1人の俺が判断する。

 美沙希をホームから突き落としてしまったために、完全に焦った俺は周りの音も聞こえずに美沙希に手を伸ばしたのだ。

 そしてそのまま電車は俺の掴んだ美沙希の腕だけを残して......

 ...

 .........

 ........................


「......あっ...」


 今聞こえたのに誰の声だ?


「......あっ...あぁ.........ぁ...⁈」


 聞き馴染みのある声だ。俺の知ってる人物か?


「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっ⁈⁈⁈」


 違う、俺の声だ。

 声にならない絶叫をあげている。

 周りの悲鳴を搔き消す程の大声で叫ぶ。

 いや、最初から周りの悲鳴なんて聞こえなかった。

 ただひたすらに叫ぶ。


「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁈⁈⁈」


 どうして

 この腕は美沙希の腕だそれだけは間違いない

 けどこの腕の断絶面からは血が滝のように流れ出ている血が止まらないどうしようもなく血が止まらない

 どうして



 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして



 どうして?


 俺がよろめいたから?


 美沙希が不注意だったから?


 電車が予定より若干早く着いたから?


 違う


 俺がもっと美沙希を大切にしていたら、こんなことには…

 普段から忙しなくて破天荒でそのくせ成績優秀で美人でスタイルも良い完璧な人間と俺は幼少期からの知り合いなのだ

 なのに周りからの視線のせいにして美沙希たちと距離を取ろうとしていた


 俺がいけなかったんだ。

 最初からそんなのは分かっていた。

 なのになのに俺は現実逃避していただけだった。

 美沙希は小さい頃から好きだった。

 もしかしたらバレバレだったのかもしれない。

 いつもそばにいて一緒に遊んでいた。

 笑う時、怒る時、悲しむ時。

 全ての感情を共有していた。

 ひょっとすると家族よりも共有していたかもしれない。


 けど、


 けれど、


 美沙希は、もういない。


 たった今、俺の手によって殺されたのだ


 もうダメだ


 生きる気力がない


 俺に生きる資格なんてものはない


 人1人の人生を奪ったからじゃない


 最愛の人物をこの手で殺したと考えると吐き気がする


 もういい...


 生きるのが疲れた......


 このまま楽になりたい


 なぁ、美沙希...


 お前は俺のことを...どう思ってた?


 別に俺なんかを好きじゃなくていい


 こんな生きる廃棄物を好かなくていい


 けど、


 もし、


 もしも、


 お前が何としてでも助けたいと思っている人達の中に


 俺がいたならば、


 それでいい。


 それで満足だ。


 ワガママなんかしないさ。

 むしろ十分だ。


 こんなこと考えても無意味なのは知っている。

 けど最後に夢くらい、見させてくれよな。

 あぁあ、美沙希に告ればよかった。

 おかげで悔いありまくりだよ...



 ――――――――――――――――――――――――




 既にあれから1週間が過ぎた。


 あの後はあまり覚えていない。

 ショックのあまり記憶がほとんど残っていない。


 確か優大がその後警察に事情を話したりしていた気がする。

 俺はただそれを隣でうっすらと聞いていただけ.......


 .......今日も一日つまらない授業だった。

 そんなことを頭の片隅で考えながら教室を出た。

 廊下に出ても教室の中の騒がしい声が聞こえる。

 ......なんでそんなにいつもと変わらずにいられるのか訳がわからない。



 1週間前のあの出来事はもちろん学校にも知れ渡った。驚くべき早さで。

 翌日、担任の先生が涙ぐみながら何があったかを語ってくれた。

 言い渡された瞬間さすがに教室にも動揺が走ったが、先生が教室から出た瞬間からはその話題で持ち切りだった。

 それを見て、少しでも期待していた俺がバカだったんだと気づいた。もう少し、静寂が教室を支配してくれるものだと思っていた。

 本当に美沙希のことを考えるなら、そうなるはずだった。そうならなければおかしいはずだった。美沙希のことを一番よく知っている俺がそう思うんだから。

 しかし、美沙希がこの世からすがたを消したことでクラスのみんなが感じたのは、「ヤバイ話題が出来た」程度だった。

 みんなは美沙希のことを可愛いだの綺麗だのなんだの言いながら、結局は深く捉えようとしないでみんなの浅い思いと考えを自由気ままに述べあっているだけだ。



 本当に、つまらなかった。

 いや、学校そのものがつまらない。

 普段から学校は「つまらないつまらない」言っていたが別にそうでもなかったらしい。

 ならなぜ今更になって「つまらない」と思ったのだろうか。

 ……答えは考えるまでも無かった。

 美沙希がこの世から消えたのは、俺にとって大きな問題だった。

 自分が生きる訳だった。

 自分が生きる理由だった。

 自分の存在価値だった。

 それほどまでに、俺は美沙希のことを想っていたらしい。


 そう考え、自分はどれだけ美沙希に依存していたのかがよく分かるなと思いながら階段に足をつけた。



「大切なものは、失って初めて気付く」



 どこかの誰かが言った名言だ。

 この言葉を初めて聞いた時は、確かにそうかもな程度の認識だった。

 けど、今本当に失ってみて気づく。

 考えていたよりも何倍も辛い出来事だって……


 じゃあ、なぜ存在価値を失った俺は生きているのか?


 ……これも考えるまでも無かった。

 当たり前のことを自問自答するようになったのも、あの日以降からだ。

 俺は正気を失っているらしい。


 優大から生きた屍って言われた。

 これは、生きた屍と化している俺をあいつなりに心配して考えた行動なのかもしれない。

 しかし、たとえそうであったとしても俺は許せない。

 友人を気遣うための嘘だったとしても、美沙希の死を目の前にしていながら笑えることがおかしい。


 その後になんて優大に返したかは覚えていない。

 ただ、優大が目を見開いてこちらを見て「すまない」と言って帰っていったのだけはやけに鮮明に覚えている。

 果たして彼は、どういう意味で「すまない」と言ったのだろうか。


 ……どちらでもいい。今となっては。


 入り口に近づくと、もう一気に冬に近づいて来たからか少し肌寒い風が制服をなびく。

 ドアは開いていた。

 本来してはいけないが、そのまま直進せずにフェンスを乗り越える。

 少し高めだが、この程度問題なく登れる。

 向こう側に慎重に降りる。

 そしてそのまま一歩を踏み出す。



 俺の体は落下していく。



 5階相当のこの屋上から落ちればまず間違いなく即死するだろう。


 あの日から、自分の生きる意味を頑張って探そうとした。それなりに努力したはずだ。

 けれど、何も見つからなかった。

 1週間だけ様子を見ようと思ったんだが、その1週間はいつもより早く過ぎ去っていった。

 気づいたら1週間後だ。

 そして決めたんだ。


 死のうと……



 もし、


 もしも、


 お前が何としてでも助けたいと思っている人達の中に


 俺がいたならば、


 それでいい。


 それで満足だ。


 ワガママなんかしないさ。

 むしろ十分だ。


 こんなこと考えても無意味なのは知っている。

 けど最後に夢くらい、見させてくれよな。

 あぁあ、美沙希に告ればよかった。

 おかげで悔いありまくりだよ...







 ...最後にさ、


 ...神様さ、本当にいるのかい?


 ...いるんだったらさ、最後の俺の願い聞いてくれないか?


 ...罪人に要はないって思ってくれても構わない......


 ...神様なんてものはいなくても構わない......


 ...それでも、


 ...この声が誰かに届いていると思えたら.....


 ...俺も安心できるから......




 既に俺は壊れているのだろうか...

 とっくに壊れていたのだろうか...


 ...どうでもいい......

 ...なぁ、神様......


 頭へと衝撃が来る前に考える。

 この衝撃が頭へときた瞬間、俺は死ぬのだと直感した。

 人間は簡単に死ぬものなんだな...


 .........美沙希のように..................



 ...神様さ......

 ...俺が代わりに死ぬから、美沙希を生き返らせてやらせてくれないか?......


 ...ワガママだって分かってる......


 ...けど、願わずにはいられない......


 体中の血がなくなってくるのが分かり意識が遠のく。


 ...俺は死んでもいいから......


 自分が死ぬのが分かった瞬間、今一度強くこう願った。






 ...美沙希だけは......








もっと悲壮感を出したかった.......

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