第一章 第十二話 路地裏にて
遅くなってしまい申し訳ありません
「うーん....... どれにしようかな.......」
リンが首をかしげながらうねっていた。
結局こうなるのか。
女子っていうのは買い物に時間をかけないと死んじゃう病なのか?
鎧なんかの防具にはそれぞれ持ち主にあったものを使わないといけない。
リンの場合は近接戦もでき、魔法を使うのに妨げにならない防具が適している。つまり軽め、なおかつ丈夫で魔法の効果を上げるような魔法具の機能も兼ね備えている防具。
何が言いたいかというと.......
「よしっ! これだな! .......いやでもあっちのも.......」
どのような防具を買うかは大分限られているのに、何故こんなに時間がかかるのかという事だ。
「リン.......どれも同じだろ」
「えぇーっ! 全然違うよ何言ってんの?!」
そんなにヤバいのか俺は.......
実際美沙希にもよく言われた。
「全くこれだから男子は.......ファッションというものが分かっていないね」
「防具にファッションを求めるのか?」
俺は求めたくない。だって所詮防具じゃん。それにちゃんとオシャレしてるのに傷つくのが役目だよ。一体防具に何を求めてるの。.......とは口が裂けても言えない。
「防具に特徴があると誰だか直ぐに見分けがつくのよ。それに偶然助けた人にも覚えられやすくなって、後で謝礼を貰えたりするわけよ」
なるほど....そういう意味があって.......
「ん? いやそれだと全身赤とかでもいいんじゃないか」
そう、自分のことを覚えてもらうために特徴のあるものを着るのであれば、別にそういうものでもいいはずだ。
「まぁ確かにね? 昔はそうだったみたいだよ。けど時が経つにつれて似たような人が出てきたんだって。単調なものだったから被りが出てきて誰が誰だか分からなくなっちゃったんだって」
「確かに他人と被るのは嫌だな」
そのあと「同じの着ないでくんない?」とか「もうこの服やめるわ」とか言い出すやつが出てくるぞ。ソースは俺。
「そう、だから一番その人の特徴が出やすいファッションになった訳よ」
なかなか合理的な判断の元選んでいるのか。それなら急かせないな。今後の自分のイメージが決まるんだから。
「そう言えば俺はよかったのか? 俺も特徴のあるものにした方がよかったんじゃ.......」
俺の手には先ほど購入を決めた綺麗な服があった。
白を基調としたコートのようなワイシャツのようなもので、所々に黒と濃い青のスワイプが入っている。リンが言っていた刃を通さないような繊維の作りになっており、魔力を込めると青い部分が赤くなり魔力を込めた分だけ耐久性能が上がるというもの。本来は鎧の下に着て鎧の間から入ってきた刃を止める役割があるそうだ。
他の商品と比べるとなかなか高いが、リーエルさんからお金は出るそうなので好きに買っていいとの事だ。
しかしこの服はどちらかと言えば単調な部類に入るので別のものに変えた方が良いのか?
「それは大丈夫。剣士なのに鎧も着ない、しかもノーマル。こんな特徴的な人を忘れる人がいるはずない」
素直に喜んでいいのかそれ.......
まぁとりあえずファッションには気をつけなくていいってことだな。
「.......よっし、これに決めた」
そう言って彼女が取ったのは銀を基調としたいかにも戦士風、しかしどこか可憐なイメージが残る胸当てだった。
それをぱぱっと着て見せてきた。
「おぉー、よく似合ってるよ」
「.......そう? ありがとう.......」
こういうのは褒めておかないと人によっては1週間ぐらい機嫌が悪くなる。
褒めておいて損は無いのだ。褒めとけ。
「じゃあ次は腰当てだな」
「いや、それはもう決まってるからいいよ」
えっ
「じゃあなんで持ってこなかったんだよ」
「胸当てによって腰当てのものも変わってくるでしょ? さっき何も持たなかったのは胸当て決めてから決めたかったから」
マジか。
さっき見てるだけだったのはどういうのに合うのか考えながら頭で覚えていたからか。女子って凄いな。
「よし、じゃあ買いに行こう」
そう言って彼女は俺の服も持って会計へと向かって行った。
俺もそちらに向かおうとすると、
「おい、お前」
後ろから肩を掴まれた。
それほど大きな力じゃなかったが鬱陶しかったので振り返った。
そこには二人の男がこちらをニヤニヤしながら見ていた。
まぁ《気配察知》でいるのは知ってたんだけど。
「何か用?」
「おい、兄貴に対してどういう口聞いて.......」
「まぁいい、オルセ。いや、なんだ、ちょっと外出てくれないかねぇ?」
わぁお、ヤンキーダータイヘンダー。
ヤンキーとか初めて.......だったら良かったなぁ。
「なんで?」
「.......お前には関係の無いことだ」
わぁーこわぁーい。
.............元の世界でも美沙希と俺二人きりの時はよくこういう奴に絡まれてたなぁ。
だからこそ慣れてるし驚かない。対処法も知ってる。みんなも知ってて損は無い。
対処法その一、カモン警察! 意味はまんま警察を呼ぶ。
ただしこの世界には警察が存在しない。
代わりに騎士達がいるが大騒ぎにならないと駆けつけてくれない。それに騎士立ちがいる場所もわからない。
よって却下。
対処法その二、強行突破! これもそのまんまだった。
相手を振り払って逃げ出す。相手が一人でこっちも一人なら有効。
ただ今回はリンが会計をしているので出来ない。
ってことで最後の手段。
「別にいいぞ」
そう言うと彼らはニヤニヤしながら店を出ていく。着いてこいってことだ。
外に出ると彼らは腕を俺の肩に回して路地裏に連れ込んだ。
人目がないのを確認してから俺を突き飛ばした。
何となくそんな気がしたので倒れずに済んだ。
「ははっ、お前ほんとに弱いのな」
「.......なんだよ、こんなことして何になるんだ」
聞くと彼らは下衆な笑みを浮かべるだけで、俺の質問には答えてはくれない。
まぁどうせリン狙いだろう。
店の中で同じ質問をした時、レジに向かって行ったリンをガン見してたもんな。元の世界で絡まれる理由も大体それだったし。
「今からお前には交渉材料になってもらう。拒否権は無い」
「脅しの材料の間違いじゃなくてか?」
「.......口の減らねえ奴だな! くらいなっ!」
ちょっと煽ったらすぐ暴力だ。
殴りかかってきたのは子分?弟?の方だ。
さっきから俺の態度が悪いことが癇に障ったらしいな。別に態度を悪くしたわけじゃないんだが。
相手はおそらく《身体強化》と《思考加速》を店の外に出たタイミングで使っていたのだろう。常人では有り得ない速さで拳が飛んでくる。
しかし、殴られることは分かっていたので拳が当たる瞬間、半歩横にずれた。
それだけで勢いに乗った拳は俺の顔の横を通り過ぎ、俺に当たることは無かった。
「おいおい、しっかり当てろよオルセ。俺に恥をかかせたいのか?」
「すいません兄貴! .......クソッ、当てたと思ったのに」
オルセと呼ばれた男は、次は確実に当てるためか腰に携えていた剣を抜いた。
その剣は木刀なんかではなく、ちゃんとした金属でつくられたものだ。
「ほら、これを見てみろよ。当たったらヤバいぜ? 泣いて土下座して詫びるんだったら今のうちだぜ」
「.......すげぇ三流臭いな、お前」
思ったことをそのまま伝えると、
「.......殺す!」
顔を真っ赤にして斬りかかってきた。
しかしそれは《思考加速》を使った俺にとってはあまりに遅いものだ。
気になることもあるしちゃっちゃと終わらせたいが、怪我をさせたり殺したりしてはリンやリーエルさんの迷惑になる。
そこで、《剣拳》を使い剣を生成。
それを右手で掴み水平に斬りつける。狙ったのはもちろん首ではなく、剣本体。
真横から衝撃をくらったオルセの剣はパキンッ、という心地よい音とともに真っ二つに折れた。
この世界の剣は日本刀のようなものではなく、中世の頃ヨーロッパで使われていた大剣のようなものに似ている。しかも切れ味を高めるためか、少し薄い。これでは簡単に折れてしまう。
剣を切った後、すぐに自分の剣を消滅させる。
こうすることによって相手に自分の手の内を明かさず、圧倒的優位に立てる。
試しに《思考加速》を解除してみると.......
「なっ?! くそっ、こんな時に.......」
「.......オルセ、お前は本当に俺に恥をかかせたいらしいな」
剣を抜いてすぐ。若干タイミングがズレているが、剣を抜いた時に強度が限界をむかえたと考えるのが普通だろう。
ほら、こいつらは俺がやったことに気付いていない。
「ち、違います! このことは必ず挽回して.......」
「お前ら、本当にそんな話をしていていいのか? 騎士様がやってきたぞ」
俺がそう声をかけると
「「なにっ?!」」
二人揃って顔を後ろに向けた。
騎士は本来、誰かが声をかけて動き出すもの。誰かが偶然見かけたとしても、電話がないこの世界では対応が早すぎる。
当然、二人の後ろには誰もいない。
「.......騙したな?!」
「.......いい度胸だ」
二人が顔を怒りに染めながらこちらを見てきた。
「お前ら本当に見えないのか?」
「舐めんのも大概にしろよ?!」
やっぱりこいつらはこの程度なのか。
この裏路地からさっきの大通りに出て、さらにその向こう側の通り。こちらに向かってくる騎士二人組の姿が《気配察知》によって見えた。
この程度の距離でも近づいて来ていることを察知できない所を見るに、相当弱いんだろうな。この二人。
騎士達がこっちに向かってきているのは偶然ではない。俺が《念話》によって呼び出した。
たまたま別件で近くに来ている騎士達がいるのが分かったから、面倒なこの二人を引き取ってもらうことにした。
騎士達がここに来るのは時間の問題。だから、それまで時間を稼げばいいだけ。
「そっちの兄貴はさ、その、オマセ?オムサ?.......とやらより強いのか?」
「ぶち殺すぞコイツ?!」
分かりやすく二人に挑発したけどここまで簡単に引っかかるとはな。どうもオルセは頭に血が上りやすいようだ。
「まぁ待て、オルセ。俺が殺ってきてやるよ」
「ちょっと待って下さい、兄貴! 俺に殺らせてください! ここまで馬鹿にされちゃ、そう簡単には引き下がれな.......」
「俺が殺るって言ってんだろ?」
「.......ッ?! すいません.......」
どうやら兄貴の方も相当頭にきているようだな。冷静さを装っているが、頭の中は俺を殺ることでいっぱいだ。
「まぁそんなカッカなるなよ。純粋な疑問として聞いたんだぜ?」
更なる煽りをしてみる。
ただでさえ頭に血が上ってるのに、こんな挑発をやられたらどうなるかは誰でも分かる。
「.......じゃあお望み通り教えてやるよ。お前の体でな!!」
兄貴と呼ばれた男が斬りつけてきた。
確かにオルセより随分速い一撃。それに拙さは残っているが幾度となく練習してきた技だと分かる。
.......なんで俺が剣筋について分かってるんだかは深く考えないことにした。
放たれた一撃は、半歩後ろに下がっただけの俺の目を通過する。兄貴(仮)は少し目を見開きつつもすぐに第二撃の姿勢に入った。
兄貴の方は随分と戦い慣れているようだ。オルセより随分速い一撃を放ったのにも関わらず、それを平然と避けた俺に躊躇しないのだから。
.......いや、自分が外しただけだと思っているのかもな。
縦に振り下ろされた剣は、今度は斜め下から切り上げられる。
相手はさらに一歩距離を詰めてきたので俺も一歩下がらないといけないが、あえて半歩だけ下がった。俺の左腕が若干切られるように。
普通はこんな芸当できる人はいない。
《思考加速》があって初めてできることだ。
剣は予想通り、俺の左腕を少し切り裂いた。
直後、左腕に鋭い痛みが走る.............ことはない。
この現象について、書物では記されていなかった。しかし、膨大な量の書物を読むにつれてその仕組みが分かった。
この世界では魔力が存在する。そして、この世界の住人は誰しも少なからず魔力を持っている。
体の中で魔力を循環させ、体全体に纏っている。それがある種の魔法となる。
《痛覚軽減》
これによりこの世界の人達は傷を受けてもある程度戦える。
魔力が少ない子供の頃は除くとして、魔力が次第に操れるようになってくる頃にはこの魔法が常時発動する。
この世界の住人は、この恩恵が当たり前のことだと考えているからこの魔法に気が付かない。
そしてこの魔法は痛覚を軽減するだけだ。
確かに当てられた感じはあるが、すごく痛いという訳では無い。傷の強さによって変わるかもしれないが、これは要研究だな。
俺はこれといって対した痛みを感じること無く、腕から血を出しながらよろめいて見せた。
「.......ふん、こんなものか」
「流石です、兄貴!! そのまま殺っちゃって下さい!!」
さて、いい感じにヒートアップしてきた所でお預けだ。
「おい、お前達!! 何をしている!!」
騎士達が到着していた。数は二人だが騎士は恐ろしく強い。地球の一般人と警察フル装備並の戦力差がある。
騎士達を見た彼らは、
「なっ?! まずいですよ兄貴!」
「.......チッ、到着が早い。運がないな」
二人共少し言葉を交わしたら、すぐに逃げ始めた。
「お前ら、待ちなさい!」
それを片方が追っていく。あの様子だとすぐに捕まりそうだな。
もう片割れがこっちに寄ってきた。
「大丈夫かい? もう安心して.......あれ?」
しかし、そこにもう俺はいない。《思考加速》を使って近くの屋根に跳んどいた。
《思考加速》を使わなくても高速移動は可能だが、脳が制御出来ない。多分、壁にぶつかる。
そこでしばらく騎士の様子を見ていたが、俺を少し探していないと分かると、もう一人の騎士が走って行った方に向かった。
《気配察知》で探知できない程遠くに行ったのを確認してから、再び先程の裏路地に飛び降り客を呼んでみた。
「おい、もう出て来て大丈夫だ」
そう声をかけると黒いフードを顔が見えないほど深くかぶっている男が出て来た。
「まさか分かっていたとは。さすがライターを倒すだけのことはある」
これで一つ確定した。
「やっぱり、お前『ローベル』の一員だな。要件はなんだ」
「まぁそんな慌てないでくれ」
男はそう言うと葉巻を取り出した。
この世界にもあることは知っていたが、この世界の葉巻は依存性が高く、副作用が大きいものが多い。恐らく、この男が吸っているのもそうだろう。
深く煙を吐いた後に男は喋り出した。
「お前、あの女の前と随分と印象が違うな。そっちが本当か?」
「.............うるせぇな...いきなりプライベートゾーンに入ってくんな.......」
「図星だったみたいだねぇ」
彼はふふっと笑うとさらに続けやがった。
「君の今の表情には苛つきが出ている。苛つき、怒っている。にも関わらず、冷静だ。余程自分の感情をコントロールするのに慣れているみたいだね。冷静に、僕のことを見つめている。そして.............
そして君は、何かを失い絶望しているね?」
男が言い終わった瞬間に、俺は無言で奴の喉元に剣を突きつけていた。
「.......驚いたなぁ。こうやってライターもやられた訳だ」
彼はひょうひょうとそう言った、風に見えただろう。
「少しさっきのお返しをしてやろう。人間には他の生き物と違い表情が豊かだ。それゆえ、他人に感情を読まれやすい。だから人間は成長するに連れて、表情をコントロールしてくる。上手い奴はお前みたいに上手く隠すが、俺には分かる。人間にはどんなに頑張っても隠しきれない、微表情がある」
これは俺の元いた世界の知識。
「微表情は刹那の間にしか表れない。しかし、その刹那の表情を読むことができれば、どんな相手の表情だって読むことができる」
この世界には《思考加速》なんていう便利なものがある。これで相手の表情を読みたい放題だった。
「さっきお前の表情に表れた微表情は、【驚愕】。目が通常より一瞬大きく見開かれ、口が若干半開きになった。そして、そのすぐ後出たのが【恐怖】。眉が上がり真ん中に寄っていて、口角が横に引かれた。けど、お前は無理矢理笑みを浮かべた。一般人が見たらただの笑みだが、よく見ると左右非対称。作り笑いの証拠だ。そして俺に話しかけている間顔の形が少しも変わらなかった。これも作り笑いの証拠」
男は黙って俺の話を聞いている。
「まぁ簡潔に言うとな、」
俺は男にありったけの嘲笑した顔を男に浮かべると、
「強い心で驚愕と恐怖を頑張って隠し、無理矢理俺のマウント取ろうと必死なのがバレバレなんだよ、レフター?」
そう言ってやると彼は先程よりも目を見開いてみせた。
「.......その情報はどこから漏れたんだい?」
情報?
「あぁ、レフターのことか。そりゃあ簡単だろ? ギルドの幹部にしてギルド長の側近、ライターのことの呼び捨てで読んでいるんだからな。ライターがいるならレフターもいるだろ」
「俺がギルド長だとは思わなかったのか?」
「もちろんその可能性もあったが、ギルド長がわざわざ俺の所に来るか? 仲間を一切連れずに」
こいつに気付いた時から今まで《気配察知》を使い続けているが、こいつ以外の反応がない。
間違いなく、こいつはここに一人で来た。
「そこまでお見通しか............. レフターの名折れだよ」
「そんなことよりさっさと要件を言え」
こいつの本題を未だに聞いていない。早く言え。
「.......僕がここに来た理由は、簡潔に説明すると君を勧誘しに来た。ようこそ、盗賊ギルドローベルへ」




