第一話 プロローグ 日常
異世界って本当にあると思うか?
異世界。誰もが一度は行ってみたいと思っているあの異世界だ。
科学文明は発達していなくて、モンスターがいる剣と魔法の世界。
物語の舞台としてよく使われている異世界。
少なくとも、俺はあるって思ってた。
ライトノベルなんかを読んで、妄想に浸って「俺も異世界転生できたらなぁ」なんて思ってた。
......けど、心のどこかでは本当はないって思ってるんじゃないか?
今存在しているこの世界では、何もかもが科学の力によって証明されている。
今はまだ証明されていないものも多々ある。しかし、いつかは証明されるんだろうなと思ってしまっている。
そんな世界の中で「異世界は実在する!」なんて言っても、相手にされないだろう。
逆を言えば、異世界を発見すれば世界中、いや、両世界にとっての注目の的になるだろう。各国のお偉方から表彰やらなんやらをもらって、その後一生ぐだぐだと生きていける。
よって俺は各国のお偉方から表彰やらなんやらをもらって、その後一生ぐだぐだと生きていけることになる。
だったそうだろう?
目の前で繰り広げられる多種多様の魔法の応戦と、それと対峙する魔物は...どう見ても異世界のものなのだから......
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「……ねぇ、聞こえてる?」
どこからともなく声をかけられた。
まだ完全に意識が覚醒していない中で声をかけられても、誰が声をかけたのか判別できない。
俺に学校で声をかけてくる奴はごく少数に限られている。大抵あいつかあいつか...と思い再び夢の世界へと旅立とうとする。
しかし、脳は既に覚醒してしまっているようだ。この状態からもう一度寝ようとしても、寝るに寝れないだろう。
全人類にとっての最大の快感は惰眠を貪ることだと信じてやまない俺にとって、睡眠妨害は死刑に等しい。よって俺に声をかけてきた奴に死刑執行しようと立ち上がり...
「......そいっ‼︎」
「オゥッフ⁈」
体の腹の真ん中、肋骨の少し下、要するにみぞおちに誰かの拳がめり込み、勢いのまま俺を吹っ飛ばした。
「グハッ⁈」
直後、一番後ろの席だからか壁に全身を叩きつけられる。体中に走る若干の痛み。
俺は苦痛に悶えてその場に座り込む。そして、この現象を引き起こした張本人に視線を向ける。
俺のみぞおちに拳をめり込ませたまぁまぁの顔立ちとまぁまぁの身体を持つ少女、神崎美沙希は少し不快そうに眉を寄せ、
「なんか今凄く失礼なこと考えなかった?」
「いえいえ...滅相もございません」
「これ絶対変なこと考えてたわね?そんなことよりも文句だったらあっちに言いなさいよ」
と、言って彼女の斜め後ろに親指を指した。
そこには若干俺のイラつきを加速させるイケメン、岩田優大がこっちを向いて声にならない笑いしていた。
「ヒィ...ヒィ......オモロ...オゥッフって本当に言うのな......」
これはどういうことだという意味を込めて、まだ痛いみぞおち辺りをさすりながら目の前の美沙希に視線だけで訴える。
すると彼女は少し困ったような顔をし、
「えっとねえ、普段の起こし方だとつまらないって優大が言うから、じゃあどうする?って聞いたの。そうしたら...」
「普段俺らって寝てるお前の頭を叩くか、胸骨辺りをぶん殴ってるけど最近は慣れてきたのか叩いてもあまり効果が見られないんだよな。ってことでみぞおちを殴ってみることにした」
なんてことを平然と言ってのける。そこに痺れもしないし憧れもしない。
とりあえず、黒幕の死刑執行は後回しにするとして...美沙希に向き直り、
「お前、みぞおちを殴られると痛いって知らなかっただろ?」
「うん、だから洸太が苦しがってた時は驚いたよ」
「みぞおち殴ってなくても後ろの壁まで吹っ飛ぶのには変わりないんだよなぁ...」
むしろ衝撃を吸収する腹に殴られた分叩きつけられた時の威力が軽減したのでは?
しかしこの少女、成績優秀で運動神経もいい絵に書いたような人物だが、喧嘩ごとなどに関しては全くといっていいほどに知識がない。※ただし弱いわけではない。むしろ強い。ゴリラ。
よってこの少女にあらぬことを吹き込んだのは...
「こいつにこんなこと教えたの、お前しかいないよなぁ?」
「ちょっと待ってくれ! 俺は美沙希にみぞおちの概念について教えただけだ! 俺は何も悪くねぇ‼︎」
「確信犯だろうがよぉっ‼︎」
というセリフを残して脚のバネを使って跳ね起きる。と同時にクラウチングスタートのように駆け出し、優大のみぞおちに拳をめり込ませた。
「ッ‼︎...カハッ‼︎...」
特になんの面白みもなく肺の中にあった空気を外に吐き出してむせている様子。なにか面白い反応を期待したのだが、のってくれなかった。
自分の名前が漢字で書けない頃からのやり取り。
日常茶飯事だからこその技。技と言えるほど大したものでもないけど。
「...お前......ハァ...その運動神経を活かして、部活に入ったらどうだよ⁈...前々から言ってるけど、お前だったらレギュラーぐらいすぐにとれるって...」
「......前々から言ってるだろ、部活とかああいう強制的にやらされてつらいものは嫌なんだって」
「もったいねえなぁ」
部活とかああいうのはどんなに頑張っても好きになれない。顧問の先生という監視塔がある中、活動範囲がネットで仕切られる。そこでほぼ永遠とひたすら厳しいトレーニングを受ける。まるで監獄だな。
確かに昔はよく周りから部活の勧誘があった。体育の授業でも見たのだろうか、俺の運動神経を前提として勧誘に来ている。もちろん、面倒事を嫌う俺は全て断ったのだが。
この優大は頭の方はイマイチだが、なんてったって運動神経が良い。毎年のように甲子園に出るこの強豪校で1年生なのにレギュラーを勝ち取った実力はダテじゃない。
「わざわざ殴ってくれてありがとなっ。確か一回声をかけてくれたのはわかるけど、それで起きないからってみぞおちに拳はないわ⁈ 知ってる? みぞおちって殴られると痛いんだよ?」
とりあえず溜まっていた不満を全て吐き出しといた。これで怒られることはあっても俺はスッキリ。
「声なんてかけてないけど、2時間以上も爆睡してたんだから殴るのは当たり前でしょ?」
「まずその反応がおかしいことに気づいてくれ...」
基本的に美沙希はなにを言っても無駄だ。彼女の執着心の深さは長い付き合いで知っている。コレと決めたら昔から絶対に曲げなかった。
...っていうか、
「え? じゃあ何か? 俺は昼飯食べてからずっと眠ってたってことか?」
「だからさっきからそう言ってるじゃない」
確かにいわれてみれば昼飯食べた後の記憶がない。昼飯を食べたことによって眠くなってしまったのか。
「本当に凄かったぞ。お前のいびき。授業中はお前のランダムいびきが生徒全員を退屈させなかったよ」
「そんな酷かった⁈ 俺のいびきそんなに酷かったのか......もうやだ学校来れない家に引きこもるっ」
「そうすると私が家に行く為の時間を割かないといけないからやめなさい」
「俺もお前と同じで面倒事は嫌いだからやめてほしいなぁ」
あっ、と思った瞬間にはもう遅い。
そういうことを言われるのは嬉しいが直後、クラスの中から鋭い視線を感じる。その視線に乗せられた思いは嫉妬、欲望、妬み、「死ねばいいのに」etc...要するに負の感情が俺を物理的につらぬかんとする勢いで四方八方から向けられる。
さっきも言ったが、この2人は学年で5本指に入るくらいには人気がある。
なんてったって2人共ガチの美男美女だからなぁ。優大なんてクラスどころか学年でも上から数えた方が早い。美沙希に至っては学校の代表レベルの美女だ。むしろこんな2人といつも一緒にいる顔面偏差値−58ぐらいある俺は俺自身でも信じられない。
何てったって幼馴染という理由だけで幼少期から付き合いがあるんだからな。
幼馴染。
そう、幼馴染だ。
魔法の言葉、幼馴染。アニメでよく聞く幼馴染。現実世界ではないんじゃねぇかってくらい伝説になってる幼馴染だ。
幼馴染がいるのか、いいなぁって思ったやつ、あとで職員室に来るように。大丈夫、先生怒ってないから。
幼馴染っていいなぁってよく言われるけどな、お前らが想像しているものとは掛け離れているぞ。
なんてったって周りからの目がヤバい。洒落にならないくらいヤバい。殺気が混じってるって殺気が⁈
恐ろしすぎる。こんな状況の中こいつらと付き合ってる俺、偉いぞぉ。
とにかく、この視線の中では生きていくことは出来ない。数秒で身支度を済ませ、
「おい、早く行くぞ。まったく、ノロマだなぁ」
「「遅くなったのはあんたのせいだろ!」でしょ!」
後ろから聞こえてきたきれいなハマりをガン無視してドアにかけていた手に力を入れた。
この度は私の作品を見て下さり誠にありがとうございます。この作品は趣味で始めた、言ってしまえば自己満足のような作品になっています。勿論、読者様方にも読みやすいように書いて行けたらいいと思っている次第です。プライベートの都合上、一話更新にどれ程の時間がかかるかは分かりません。最低でも一週間に一度は上げたいと思っています。一話につき3000字から5000字を目安に書かせていただきます。小さな応援コメントが力になります。勿論、アンチコメントもどしどし募集しております。まだ語彙力が低く、拙い文体になっていますがあたたかい目で見ていただけたら嬉しいです。続く機会があれば、今後ともよろしくお願いします。