2話
そして私は男装、というか王子様コスでコミケに連れてこられ
た。キョーコちゃん曰く、
「いないなら、なればいいじゃない!」
と丸め込まれ、キョーコちゃんのお姉さん(同人作家さん)の販売スペースに連れてこられた。
「…キョーコちゃんはいつから私に売り子をさせようとしてたの?」
私の問いかけにキョーコちゃんはニコッと笑って答えた。
「もともと人手が足りなくって、誘う予定だったんだけど。あっきーが甘いマスクの王子様って言った時にちょうどコスが余ってたのを思い出して。」
「な、なんと思いつき。その潔さと行動力に惚れるわ~。」
「・・・」
私の言葉を華麗にスルーしたキョーコちゃんが私のコスプレをまじまじと見ているのに気づき、私も近くの鏡で改めて自分の姿を見る。
ゴテゴテしすぎず地味過ぎない白い軍服みたいな服。ショートの淡い茶髪(地毛)を緩く後ろでまとめた、碧眼のthe・王子様だ。
「あっきーはタレ目だからなんかチャラそう。けどそこがいい!じゃあ接客よろしく!私は戦争(買い物)に行ってくる!」
そう言い残してキョーコちゃんは去っていった。私はその勢いに戸惑ったがいつものことか、と思い出す。不安はあるけど、私はなんだかんだ言って初めてのコスプレだったから、少しワクワ
クしていた。甘いマスクのぐいぐい系王子様。うん、素晴らしい!頑張るか、と意気込み私は接客を始めた。
数十分後
「可愛いお姫様たち、買ってくれてありがとう。また買ってくれたら僕も嬉しいな。」
私ができる限りのイケボで買ってくれた女の子たちに言うと、キャー!っと黄色い声が聞こえる。
「はい!絶対買います!あ、あと一緒に写真撮ってもらってもいいですか⁉」
顔を赤くして尋ねてくる女の子に私は微笑んで「喜んで」と答えると周りの女の子たちが「私も!」と集まってくる。一人一人に応えてようやく波が引いたころ、少し前に戻ってきていたキョーコちゃんが話しかけてきた。
「あっきーが想像以上にモテモテなんだけど。ていうかそのイケボどこから出してるの⁉最初、別の人かと思った。」
「なんか楽しくなってノリノリになってたら習得してた。なんか女の子にキャーキャー言われるのっていいね。」
私が思ったことをそのままいうとキョーコちゃんは感心したような、呆れたようなため息をついた。
「はぁ、あっきーは演劇とか得意そうだねぇ。」
キョーコちゃんの独り言のようなつぶやきに「そうかな」と返して、演劇もいいかもしれないな、と考える。再来年には私も高校生だ。高校で演劇部に入るのも楽しいかもしれない。けど、演劇部があるのは、私の学力で行けるところの一つ上だ。…うん。
幼馴染の悠君に勉強教えてもらおう。彼はまだ私にくっついている。クラスの子供じみた男子よりも背は低いけど、精神的には大人びている悠君はモテるのに残念だ。