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4.能力を考える

 お互いに適正判別が完了した所で、どのような能力にするのかを考える事になった。

 もちろん零を取得して二週間程度の俺達が、今からすぐに能力を得られるというような事はない。それでもせっかく適正がわかったのだから、今から能力を考えておいてもいいだろう。

 前々から何度も妄想を繰り返した事なので、実はすでにいくつかの候補は存在している。だからと言って、その中から簡単に決めてしまう気は全くない。能力は一度取得してしまうと変更が出来ないからというのもあるのだが、それ以上に今の状況が楽しいのだ。自分だけの能力をじっくりと時間をかけて考えたい。


「とりあえず、何が出来るのかを整理してみるか?」

「そうだね。それが良いと思う」

 すぐに能力が決まるとは思ってもいないし、まだ決める気もない。だから今からする事は、半分以上が俺達の趣味と言っても過言ではないだろう。


「じゃあまず基本の四属性の特性からかな?」

 この話をするのは何度目だろうか。それが分かっていながらも繰り返すのは、やはり楽しいのだ。

「うん。まず大前提として火は自身の強化、水は対象への干渉、風は遠距離での行使、土は実体化だね」

 思い出すような素振りすら見せずに、流れるように出てくる言葉はとてもリズミカルだ。

「ああ。山口の場合は水と風の適性が高くて火と土の適性が低い事を考えると、遠距離攻撃とか補助に向いてるって事だよな」

「そうゆう事になるね。石田はどれもバランス良くこなせる反面、得意なモノがないから器用貧乏にならないように気を付けないとね」

「だからこそ調和型しか出来ない時空間を覚えろって言いたいんだろ?」

「わかってるみたいでよかったよ」

 調子に乗っている山口に軽くでこピンをした。おでこを押さえながら、こちらを睨む姿が可愛らしい。

 

「属性に関係なく出来る事といえば、何があるか全部言えるか?」

「当然だよ」

 零に関する事では俺は山口には敵わない。自信満々に答える山口の表情は実に活き活きしている。

「さすがだな。まず基本の身体強化、物質強化、放出、障壁だろ?」

「そうだね。後はそれぞれの応用に当たる物質操作かな」

「どうして物質操作が四つ全ての応用なんだろうな。対象に干渉する水と遠距離で行使する風はわかるんだけど」

 山口はニヤリとした後で、自慢げに話してくれた。

「水と風に関しては正解だよ。でも残りの二つもとっても重要なんだ。まず火に関してだけど、操作するには繊細なコントロールが必要になってくるから、自身の感覚を強化する必要があるんだよ」

「なるほど、感覚の強化か。もしかして五感をそのまま強化できる?」

「その通りだよ。どれも難しいけれど零を極めれば可能になるはずだよ。ただ物質操作に関しては五感とは違うんだけどね」

「どう違うんだ?」

「物質に込めた零そのものを感知するんだよ」

「そんな事も出来るんだな。じゃあ土は?」

「うん。実は土に関しては、なくても一応は出来るんだ」

「だよな。じゃあどうして必要なんだ?」

「さっきの適性判別の時の事を覚えてる?」

 適正判別の時……。関係あるとすれば、ふざけ合っていたせいで一度水に込めた零が霧散してしまった事だろう。

「あっ、もしかして物質に込めた零を霧散させない方法がある?」

「正解。土属性の障壁の応用で、薄い膜を張って物質を包む事で解決できるんだ。この時に均一に膜を張らないと操作に支障がでるらしいから、なかなか難しいみたいだよ」

「なるほど。さすが山口」

「もっと褒めてくれても良いよ」

「よーし、えらい、えらい」

 山口の頭をこれでもかって程、ぐちゃぐちゃに撫でまわしてやった。

「やめてよー」

 言いながらも一切逃げようとしない。


「じゃあ後は能力の取得方法の確認かな?」

「うん。そうだね」

 ぐちゃぐちゃになった髪を直しながら山口は頷いた。

「確か増幅回路一つに対して属性は一つだけだったよな?」

「そうだよ。ただし増幅回路は二つまでなら結合できるからね。結合すれば一つの能力に対して二つの属性を持たせる事が出来るようになるよ」

「そうなるとやっぱり、増幅回路が多いってのは有利だよな」

「まぁね。でも増幅回路が少ない人は、一つ当たりの増幅回路の質が高い事が多いらしいよ」

「そう言えば一つしか増幅回路がなかった人は、その一つに三つの属性を持たせる事ができたんだっけ?」

「そう。一つしか増幅回路がなかった人は、今の所一人しか出ていないから、必ずしもそうなるとは限らないけどね」


 少しばかり話が逸れてしまった。

「それで能力を取得するには、まず属性を増幅回路に定着させるんだよな。方法は同じ属性を何度も繰り返し使用すれば良かったよな?」

「うん。定着すれば使用できる属性の質が、見るからに向上するらしいよ」

「増幅回路を結合させる方法は?」

「二つの属性を交互に何度も繰り返して使用すれば良かったはずだよ」

「俺の記憶もそんな感じだな。他にも方法がありそうなんだけどな」

「だよね。でも分かってるのはそれだけみたいだね」

 山口がそう言うならば、そうなのだろう。山口の零に対する知識は俺の比ではないのだから。


「定着した後は、自分の能力をしっかりとイメージしながら練習を繰り返せば良かったよな?」

「うん。ただし属性を自由に操れるわけじゃないから注意しないとね」

「ある程度限定的にする必要があるんだっけ?」

「そうだよ。自分の持っている力以上の能力は取得出来ないみたいだから、良く考えてやらないとね」

 例えば火を自由に操る事は出来なくても、火の玉を飛ばす事や火を拳に纏う事は出来る。あれもこれもではなく、自分がやりたい事だけをイメージして反復練習する事で、能力として増幅回路に固定されるらしい。


 能力についての話を終えた後は、連休中と同じように基礎練習に力を入れた。能力を取得するには最低でも、自由に物質操作が出来る程度の錬度が必要になってくるのだ。



◇◇◇◇◇◇◇


 

 特に大きな変化もないまま月日は流れる。

 気が付けば、季節はすでに秋。十月も終わりに近づき、木々の葉は僅かに色を帯び始めた。


 テレビでは、今尚ゲリラ的に続けられている零薬の散布について様々な意見が飛び交っている。だが肝心な長谷川教授はあれ以来一向に姿を現さない。警察も色々と手を尽くしているようだが、残念ながら成果は上がっていない。

 長谷川教授本人も零を取得している上に、彼の周りには優秀な軍人が多数いるのだ。見つけられなくても当然なのかもしれない。


 そんな中、零薬についてのニュースが世間を騒がせ続けている。

 大量にばら撒かれた零薬に梱包されてない物が多くあったせいで、雨で溶けて地中に溶け込んだり、直接動物が口にしたりした事で生態系に変化が起きているらしい。どうやら意図的に梱包してない物を仕込んでいたのではないかという事だ。

 零薬が溶け込んだ土で育成した野菜や果物は通常の物よりも育成が早い上に普段の倍近い収穫量があったようだ。さらには非常に味が良いと話題になっている。俺もつい最近、里紗と一緒に食べてみたが本当に美味しかった。通常の物と食べ比べると、全く違う種類の物を食べているのではないかと思ってしまう程だった。

 薬を飲んでしまった動物は、人間同様に零を習得する。とは言え、さすがに能力の固定化は出来ていないようだが、明らかな身体能力の向上が見て取れ、これまでの食物連鎖が狂い始めているようだ。一般人である俺としては、それがどうしたと思ってしまう。言い方は悪いが、俺には関係ないのだ。

「その考えは良くないよ」

 俺の意見を言ったら山口に注意されてしまった。どうしてかと疑問に思ってしまったが、理由を聞いて納得した。

「もしも生態系が狂ったせいで、食料品が値上がりしてしまったらどうするの!?石田が好きな秋刀魚が鰻並の値段になったら気軽に買えなくなるんだよ!?野菜や果物だってそうだよ。大量に採れて味も良いって話題になってるけど、活発になった動物が山から下りて来て畑を荒らすって事が急激に増えているらしいよ。これは大問題だよ!このままだとまた値上がりしちゃうんだからね!」

 長谷川教授が零薬をばら撒いたせいで、なぜか貿易に影響が出ているらしい。詳しい事はよく分からないが、何らかの条約に違反してしまったようだ。そのせいで現在輸入が激減しており、食料品が驚くほど値上がりしてしまっている。

 そんな中、零薬によって成長が促された野菜や果物の話は朗報であっただけに、山口の話を聞いて非常に残念な気持ちになってしまう。一人暮らしと言えど、あまり無駄遣いは出来ないなと溜息を吐いた。


 とは言え、劇的に何かが変わる何てことはない。俺達はこの日もいつものように一緒に基礎練習を行っていたのだが、さすがに飽きてきた。ぼんやりと練習をしていたら山口に話しかけられた。

「そう言えば、石田は零のおかげで若返ったよね」

「そうか?」

「うん。元々若く見えたけど、今は前以上に若く見えるよ」

 零とは生命エネルギーである。薬を飲む前はただ身体から垂れ流していたそれを、今は身体に留めているばかりか、日々訓練する事でその絶対量が増加している。その事が生命エネルギーを強化し、老いた肉体を若返らせる原因となっているようだ。さらには身体能力も向上したおかげで随分と身体が軽くなった。

 飽き始めているせいか、こう言った雑談が増えてきた。にも拘らず練習の手を止めないのだから、俺達はよっぽど能力を手にする事を夢見ているのだろう。


 なんとなく山口の方を見れば、綺麗な黒髪の毛先をくるくると弄りながらもしっかりと基礎練習を続けている。山口の周りでは現在三つの球が、彼女を中心に回りながら追いかけっこを続けている。自分の練習を続けながらも、山口の方を眺めていると顔を上げた彼女と目が合った。

 たったそれだけの事でドキリとしてしまう。

 鼓動の高まりを感じつつも、それを誤魔化すようにニコリと微笑めば、山口も同じように返してくれる。

 そんな些細な事がこの上なく嬉しい。

 いつからだろうか。俺が山口の事を恋愛対象として意識し始めたのは。

 世界中のどんなニュースより、俺にとってはこちらの方がよっぽど一大事だったりするのだ。


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