表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/25

25.望んだものは

 長谷川教授が死んだのを確認した俺はゆっくりと里紗の横に着地した。着地と同時に身体から一気に力が抜けてその場に倒れそうになる。

「洋一!」

 すぐに里紗が気づいて受け止めてくれた。同時に俺を温かい光が包み込む。増幅回路の結合と里紗の成長によって効果を増した治癒能力により、俺の身体は急速に癒されていく。本当ならキスをしたい所だけど、五十嵐の前でそれをする訳にはいかない。

「大丈夫か?」

 五十嵐がゆっくりと歩み寄って来た。

「ああ、なんとかな」

 俺は里紗にお礼を言って自分の足で立ち上がる。増幅回路を結合したおかげで俺の重力制御は驚くほどに向上したが、それを加速に使おうとするとすぐに身体が悲鳴をあげてしまう。全力で使えるのはせいぜい十秒が限度だろう。

「それにしても良く勝てたよな」

 五十嵐が感慨深げに呟いた。

「負ける気でいたのかよ!?」

「そんな事ねーよ!でも……化け物だったな」

「そうだな」

 俺達が見つめる先では長谷川教授だった物が頭に穴を開けた状態で倒れている。

「良かったな!これで英雄になれるぞ!?」

 五十嵐がこちらに笑いかける。

「あー。それだけど辞退させて貰う。五十嵐が英雄になったらどうだ?」

「は?何言ってんだ!?俺がなれる訳ねーだろ!」

「そんな事ないさ。証拠はあるんだから問題ないって。な?」

 里紗に話題を振れば笑顔で頷いた。それを見た五十嵐が溜息を吐く。

「なんでお前らが辞退するんだよ?」

「英雄とか興味ないからなー。いろいろと面倒臭そうじゃん?」

「そうそう。それに洋一が英雄になったら変な虫が寄ってきそうだしね」

 里紗の同意も得られた訳だが、変な虫って……ありえないと思うんだけどな。まぁ敢えて突っ込まない方がいいだろう。

「お前らってやつは……」

「それで五十嵐は英雄になるのか?」

「んー。俺もパスだな。向いてない!」

「だったら俺らと同じじゃねーか!」

「まぁそうだな」

 俺達は大声を出して笑った。何もなくなった荒野に乾いた笑い声が響き渡った。


「それで誰が長谷川を倒した事にするんだ?」

「討伐部隊が命と引き換えに倒した事にして貰おうか。彼らのおかげで余計な戦闘をしなくて済んだのも事実だからさ。英雄になれるんなら文句は言わないだろ!?」

「わからねーぞ。化けて出てくるかもな?」

「それは勘弁だな。でも他に手はないだろ?俺達が黙ってたら自然に討伐部隊が英雄になってるはずさ」

「そうだな」

「里紗もそれでいいか?」

「うん」

 俺の問いに里紗は頷いた。まぁ聞かずとも分かっていた訳だけど。


「そう言えば聞きたい事があるんだけど良いか?」

「なんだ?」

 俺の問いに五十嵐が怪訝な表情をする。

「大した事じゃないって。最初に会った時にビルを爆発したのって何の為だったんだ?」

「あー、あれか。悪かったな」

「もう済んだ事だから気にするな。それで意味もなく爆破したわけじゃないんだろ?」

「ああ。実はあのビルでは長谷川が集めた武器や弾薬を保管してたんだ。もちろん他にも何か所かあったが、あのビルにヤバいのが多かったんだ」

「それで俺を殺す事を理由にして、爆発させたという訳か?」

「その通りだ。済まなかったな」

 五十嵐が頭を下げた。

「そうか。まぁ良いだろう」

「痛っ!」

 俺は頭を下げたままである五十嵐の後頭部目掛けてチョップをした。

「それでチャラにしてやる」

 五十嵐は頭を抑えながら「ありがとな」と呟いた。

「それから……あんた名前は?」

「山口里紗」

「山口さんね。いろいろと悪かったな」

「もう良いですよ」

「ああ、ありがとう」

 里紗の雰囲気がなんとなく変わった。少しだけ角が取れたような、そんな気がした。


「さて、じゃあそろそろ行くとするか」

 そう言って五十嵐が伸びをする。

「これからどうするんだ?」

「どうしようかねー?やらなきゃいけない事はあるんだけど方法がな……。まぁ、ぼちぼち考えるさ」

 五十嵐はちらりと里紗の方を見た。

「そうか。頑張れよ」

「ああ、ありがとな。それでお前らはどうするんだ?」

「そうだなー。何しようかね?」

「私は洋一が一緒なら何でもいいよ」

「あー、痒い痒い!俺の前にもいい女が現れねーかなー」

 五十嵐の大袈裟なリアクションに俺と里紗は顔を見合わせて苦笑した。


「それで何するんだ?」

「そうだな。里紗の許可も出た事だから、ずっとしたかった事をするよ」

「え?洋一がずっとしたかった事って何?」

「おいおい、彼女にも話してない事って何なんだよ?」

 言える訳ないだろ。

「秘密だよ!」

「そんな……」

「はっ!それは残念だ。まぁ頑張れ!」 

 まるでこの世の終わりではないかと言う程に落ち込んでしまった里紗とは違い、五十嵐はあっけらかんとしている。元々会話の流れで聞いただけだから、そんなものだろう。

「後でな」

 そう言って里紗の頭を撫でれば、あっという間に機嫌が直った。

「うん!絶対だよ!」

 俺は笑いをこらえて頷いた。


「これ以上見せつけられたら惨めになりそうだな。もう行くとするよ!」

「ああ、元気でな!」

「お元気で」

「お前らもな。じゃあな!」

 五十嵐は軽く手を振って、その場から消えた。


「俺達も行くか?」

「うん」

 五十嵐同様に転移で移動する。

「ここって……」

「ちゃんと報告しないとな」

 辿り着いた場所は里紗の母親の墓だ。

「うん」

 里紗が眼を潤ませる。

 俺達は二人並んで手を合わせた。里紗の母親に俺が伝える事。それはここまでの報告とこれからの事。

 そして……。

 約束、守ります。

 目を開けて隣を見れば里紗はまだ、手を合わせたままだ。特に急いでいる訳ではない。待っている間、俺は隣にいる里紗を眺めて過ごす。白い肌に黒く長い髪、長い睫と少しだけ厚い唇。小さな顔と小さな鼻。里紗を作る全ての要素が堪らなく愛しく感じる。

 眼を開けた里紗がこちらを向いた。互いに無言で見つめ合う。

「行こうか」

「うん」

 俺達は手を繋いで歩き出した。


「なぁ里紗」

「なに?」

「何でニヤニヤしてるの?」

「え?」

 里紗は自分の頬に手をあてて確認している。

「もしかして俺が何を言おうとしてるか分かっちゃったとか?」

「うん」

 照れくさそうに里紗が笑った。

「そっか。でも違ってたらどうする?」

「えー!それは嫌!」

「答え合わせしてみよっか?」

「んー。わかった。怖いけどいいよ」

「じゃあ、せーのでいくよ。いい?」

「うん」

「せーの!」

「あいし……」

 唖然とした顔でゆっくりと里紗がこちらを見る。まるで錆びついたロボットのようにギギギ……なんて音が聞こえてきそうだ。

「何で言ってくれないの?」

「里紗が何て言うのか聞いてみたくて」

「意地悪!!」

 怒っている里紗の目には僅かに光るモノが見えた。

「ごめん、ちゃんと言うからもう一回お願い!」

「本当に言ってくれる?」

「もちろん!」

「約束だよ!?」

 里紗のあまりに必死な表情にすごく申し訳ない気持ちになってしまう。

「うん、約束」

「わかった。じゃあもう一回ね」

「ありがとう。いくよ?」

「うん」

「せーの!」

「「愛してる」」

 今度こそ二人の言葉が重なる。途端に恥ずかしくなって俺は目を逸らした。自分の耳が顔が熱を帯びるのが分かる。チラリと里紗の方を盗み見れば、やはり同様に顔も耳も真っ赤にして下を向いていた。

 里紗の手をギュッと握れば、当然のように握り返してくれる。小さくて柔らかいその手が俺に幸せをくれる。


 これから先も色んな事があるだろう。それでも俺は里紗となら乗り越えていける気がした。

 

 健やかなる時も

 病める時も

 喜びの時も

 悲しみの時も

 楽しい時も

 苦しい時も

 富める時も

 貧しい時も

 どんな時でも

 何が起きても

 死が二人を分かつその時まで

 ずっと一緒に


「なぁ里紗」

「なに?」

「結婚しよう」

「――うん」


 さっき行ったばかりだけど、また里紗の母親の墓参りに行って報告しなければいけない。

 約束通り娘さんを貰いに来ました。

 もし生きていたら何て言われるのだろうか。「待ちくたびれたよー」なんて言って笑う気がする。そんな未来があったら良かったなとは思わずにはいられない。

 でも、それはあり得ない。死んだ人間は生き返らないし、過去は変えられない。

 そんな事は俺も里紗も良く分かっている。

 だからせめて……。もうこれ以上大切なモノを失いたくはない。


 俺は、今も、これからも、全力で里紗を愛し続けよう。


 里紗が隣にいてくれる。俺はそれだけで幸せなのだから。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ