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24.戦いの果てに

「ふざけんなよ!」

 よろよろと立ち上がりながら五十嵐が呟く。どうにか無事だったようだ。

「でかいな……」

「そうだね」

「どうやってあいつを倒すつもりだ?」

「どうやってって、地道に攻撃して削ってくしかないだろ?」

「そうだよね。それにしても魔王だからって本当に変身するとはね……」

「本当にビックリだよな」

「うん」

 俺達は巨大な怪獣となった長谷川教授を見上げた。ギロリと奴の目がこちらを向く。次の瞬間、俺達の居る場所に向けて尻尾が叩きつけられた。俺は里紗と共に高速移動で五十嵐は転移でそれぞれ回避を行った。逃げながらも観察は忘れない。相手の情報を得る事は戦いにおいて非常に重要になってくる。奴の尻尾が叩きつけられると同時に巨大な爆発が起こった。そして後には巨大なクレーターが出来ていた。

「爆発する尻尾ってどんな化け物だよ!」

 五十嵐が忌々しげに呟く。

「洋一のトンファーみたいだね」

「あっ!そうゆう事か。五十嵐!」

「ああ!理屈は分かった。あれが実体化させた零だって言いたいんだろ!?全くどんだけの零を持ってるんだよ!」

 怪獣となった長谷川教授は涎を垂らしながらこちらを見ている。理性は残っているのだろうか。どちらにしてもやる事は変わらない。

「里紗!」

「うん!」

 俺達は再度、炎の竜巻を放った。的がデカいから当たりやすい。だがさすがにデカ過ぎた。俺達が放った炎の竜巻は奴の腹に風穴を開けるだけに留まった。そして零を実体化させている奴の身体はあっという間に再生してしまう。

「あれはヤバイな」

「洋一なら大丈夫だよ」

「そうだな」

 俺の呟きに即座に反応して里紗が励ましてくれる。諦めたら確実に死ぬのだ。最後まで足掻かなければダメだろう。五十嵐の方を見れば、何かをしているらしく立ち止って集中している。俺達で時間を稼いだ方が良さそうだ。

「里紗もう一度だ!いけるか!」

「大丈夫!」

 再び発動させた炎の竜巻を奴は避けようと身体を捻った。だが甘い。炎の竜巻はまるで変化球のように奴を追いかけ、激突した。

 今度は腕と横っ腹を抉り取った訳だが、それもすぐに再生される。

「キリがないね」

 里紗が額に汗を浮かべている。そろそろ限界に近付いているようだ。

「ああ、でも確実にやつの零は減っている。なんとかなる!」

 ギロリと長谷川教授がこちらを睨む。そして今度は口から巨大な炎の球を吐き出した。俺は里紗を抱きかかえて高速移動で離脱する。物凄い衝撃音が響き渡る。炎の球が激突した所は数十メートルに渡って抉られていた。

「待たせたな!」

 五十嵐から声が上がる。そちらを見れば大量のモンスターが長谷川教授目掛けて突進していく所だった。長谷川教授からしたら一匹一匹は大した事がなくてもそこにいるモンスターは軽く百を超える。足に、腕に、身体に、顔にとへばり付かれ、噛みつかれれば堪ったものではないだろう。

 長谷川教授が煩わしそうに身体を揺するが、しがみ付いたモンスター達は簡単に離れない。モンスター達は炎を吐き、風の刃を放ち、水弾を撃ち、土塊を飛ばす。それらは微々たるモノなれど確実に長谷川教授の持つ零を削り落としていった。

 長谷川教授は自らの身体を叩き、掻き毟り、地面に擦り付けた。そしてようやく全てのモンスターを排除出来た時、五十嵐の巨大ハンマーが奴の脳天に直撃した。そして直撃と共に大爆発が起こり、奴は地面に倒れた。

「今だ!」

 五十嵐が叫ぶ。言われなくても分かっている。俺達は渾身の力を込めた炎の竜巻を長谷川教授に打ち込んだ。全力の炎の竜巻は長谷川教授を楽々飲み込んで全てを消し炭に変えた。炎が治まった後、そこには元の姿に戻った長谷川教授が、荒い呼吸をしながら立っていた。


「一方的にやられる気分はどうだ!?デカいだけで良い的だったぞ?」

「チッ」

 五十嵐の挑発に長谷川教授は舌打ちをした。実際五十嵐の言う通りだったのだから仕方ないだろう。

「そろそろ終わりにしますか?」

 俺の言葉に長谷川教授がこちらを睨みつける。彼が纏う零は随分と減少している。それでも俺達三人を合わせたよりも多いのだから堪ったものではないのだけれど。

「お前、本当に何者だよ!?一般人で俺に対抗できるなんてあり得ねーだろ!?」

「さっきも言ったように、ただの冒険者ですよ。単純に長谷川教授が弱いだけじゃないですか?」

「本当にムカつく野郎だ!良いだろう。俺の本気を見せてやるよ」

 言うと同時に奴は凄まじい声を上げた。

「ぐががががぁぁぁぁああああ!!!」

 それは声と呼んで良いのか疑問が出るほど異質なモノだった。

「何となくヤバそうだな」

「そうだね」

「これは何だ!?」

 どうやら五十嵐も知らないらしい。今までとは違い、零による変化ではないようだ。

「とりあえず攻撃しちゃおうか」

「は?」

「え?」

 唖然とする里紗と五十嵐をそのままに俺は重力球を弾いて奴にぶつけた。ドンッ!!という強烈な音と共に長谷川教授がぶっ飛んだ。

「よし!当たった!」

「ちょっと待て!」

「今のは可愛そうだと思う!」

 二人から突っ込みがあったが知った事ではない。

「いや、戦いの途中で隙を見せる奴が悪いんだって」

 俺の発言に溜息を吐く里紗と五十嵐を横目に吹き飛んだ長谷川教授を睨みつける。多少零を削る事が出来たようだが、まだまだらしい。


 長谷川教授はゆっくりと立ち上がりこちらを睨みつけた。奴の姿はまるでタコの化け物と言ったらいいだろうか。身体から吸盤の付いた足が何本も生えていた。

「うわっ!キモイ!まさか自分まで魔人化させてるとはねぇ……。そのバカみたいに多い零もその時に得たって事かな?」

 俺が声を出して非難する横では、同じ物を見た里紗が顔をしかめていた。

「良くもやってくれたな!」

 言うと同時に長谷川教授が消えた。そして次の瞬間には俺の目の前に奴の拳が迫っていた。反射的に体を逸らせて躱し、加速した蹴りを叩き込む。しかし、これまで簡単に当たっていた蹴りはいとも簡単に受け止められてしまった。俺は足を掴まれる前に離脱して距離をとった。

「今のを躱すのか。じゃあこれはどうだ?」

 長谷川教授がさらにスピードを上げた。


「おい!早すぎて見えねーぞ?」

 俺と長谷川教授の戦いは空中にて高速で行われていた。きっと里紗と五十嵐には、僅かしか見えていないだろう。

「はい。私も見えません」

「お前の旦那は化け物だな。いくらなんでも早すぎだろ!?」

「増幅回路を結合したからですよ。後、旦那じゃなくて彼氏です」

「結合って!?同じ属性では増幅回路の結合は不可能だったはずだ!」

「そんな事ありませんでしたよ。どう考えても結合できないはずないんです。だから意図的に伏せられている可能性があるって洋一と二人で結論付けました。そしていくつかの仮説を立てて実験をしたんです。その結果はご覧の通りです」

「そうゆう事か……。それについての担当は長谷川だった。あいつが独占する為に嘘の結果報告をしてやがったのかよ!長谷川も増幅回路を結合させてると思うか?」

 五十嵐が悔しそうな顔で戦闘が繰り広げている辺りを見上げている。

「もちろんそう思います」

「だよな……」

五十嵐は長谷川教授にまんまと騙された事が相当悔しいようだ。

 長谷川教授との戦闘を繰り広げながら、俺は二人の会話に耳を澄ませる。別に盗み聞ぎがしたいわけではなく、五十嵐を信用しきれないだけだ。

 

 空中に作った障壁を蹴る事で体勢を維持している俺に対して、どうゆう理屈なの長谷川教授は完全に浮いていた。俺がどれだけ望んでも出来なかった高速での飛行を実現させていたのだ。なんとも言えない悔しさを感じたが、何とか対抗出来ているので良しとしよう。

「全くすげー奴だな。あいつは」

 俺の事を言っているのだろう。褒められるのは妙にくすぐったい。

「うん。洋一は凄いですよ。自慢の彼氏ですから」

 里紗が破壊力抜群の胸を張る。うん、人前ではやめたまえ。

「なぁ、余計な事だがお前らはどうして結婚してないんだ?」

「――洋一は優しいから」

「どうゆう事だ?」

「私が母の死をずっと引きずっている事に気付いてて、ずっと待っててくれてるんです。どんなに上手く繕っても洋一にはバレちゃうみたいです」

「そうか……。本当に悪かったな」

「いえ、もう大丈夫ですから。さっきので吹っ切れましたから」

「ありがとな」

「でも許した訳じゃありませんからね。しっかりと罪を償ってください。私だけじゃなくて、あなたが苦しめた全ての人に対してです」

「そうだな。でも一体どうやって償ったらいいんだろうな?」

「そんなの知りません。自分で考えてください」

 五十嵐が小さく笑った。

「そうだな。悪かった。償える方法を考えてみるよ」

 これでようやく、里紗も母親が死んだ呪縛から解放されるだろう。


 懸念していた事が一つ減った俺は長谷川教授に意識を集中させる。

 タコの足がグニュグニュと動き様々な方向から攻撃を仕掛けてくる。人間の手足を含めれば十二本同時に攻めてきているわけだが、長谷川教授は面白いくらい激昂しているおかげで、攻撃が非常に単調だ。

「いい加減に死ねー!!」

 長谷川教授がスパートをかけて来たようだ。その身に込める零が一段階引き上げられるのが分かる。俺は、高速で襲ってくる無数の足なのか腕なのか分からない物を次々にトンファーでぶっ飛ばす。その度に爆音と共に奴の手数は減っていく。気づけば奴から生えたタコの足は全てが中ほどから先がなくなっていた。

 俺達は今、数メートル程離れた場所で止まって対峙している。

「質問してもいいですか?」

「なんだ!?」

 長谷川教授が肩で息をしながらこちらを睨む。

「王になってどうするつもりなんですか?」

「チッ!聞いてたのか」

「はい。聞かせて貰いました。どうして王になんてなりたいんですか?」

「お前みたいなリア充にはわからねーよ!」

 長谷川教授は唾を吐いた。

「金と権力を得て何がしたかったんですか?」

「うるせーな。女が欲しかったんだよ!これでいいか!?」

「零薬を開発した時点で金も名声も手にしてた長谷川教授なら、その時点で寄ってくる人はいたんじゃないですか?」

「ああ、いたな。でも皆俺の金が目当てだったんだ。誰一人として本当の俺を見ようともしない!ふざけやがって!だから今度は顔も変えて英雄になってやるんだ。そうすればきっと……」

 なぜか腹がたった。自分の力で世界を変えるだけの力を持ちながら、どうしてこいつは……。

「ムリだと思いますよ?」

「あ?」

 ギロリと睨まれた。長谷川教授が纏う零が力強くなるが、今までに比べれば大した事はない。

「長谷川教授は誰かを好きになった事がありますか?」

「どうゆう意味だ?」

「誰も自分の事を見てくれないって言ってるくせに、長谷川教授自身が自分の事ばっかりで、誰の事もちゃんと見てないんじゃないですか?」

 思わず本音がこぼれた。目の前にいるのは我儘な子供だ。それでいて大きな力を持っているから質が悪い。

「うるさい!だったらなんだ!?お前みたいなイケメンに何が分かる!どうせ何もしなくても女が寄って来るんだろ!?」

「本気で言ってるんですか?そんな事ある訳ないじゃないですか。人の気持ちは思っている以上に複雑です。お手軽なラノベみたいに簡単に人を好きになるなんて事はほとんどありません。長谷川教授はそんな簡単に、誰かを心の底から好きになれますか?ムリですよね!?相手も同じです。もし仮に長谷川教授がイケメンだったとしても、そんな捻くれた性格の奴を一体どんな人が好きになってくれるんでしょうね?」

「うるさい!俺はお前達を殺して生まれ変わるんだ。俺を知る奴が誰もいない中で、俺は顔を変えて英雄になる。そこからやり直して見せる。お前が捻くれてるって言ったこの性格だって、気を付ければ簡単に治せるんだ!」

 長谷川教授の周りに鎖が出現し生き物のように動き出す。

「どうせ力で屈服させる事しか出来ないですよ。奴隷でも買って優しくしてあげますか?普段辛い目に合っている子なら簡単に堕ちるかもしれませんね?表面上はですが」

「クソ野郎が……言わせておけば……とっとと死ね!」

 長谷川教授の周りを轟いていた鎖が一斉に襲い掛かって来た。

「そんなので死ぬわけないじゃないですか。でも、もう終わりです」

 どうやっても長谷川教授とは分かり合えそうにない。どうしてそんな理由であんな酷い事が出来てしまうのだろうか。どうしてそんな理由でたくさんの人が死ななければいけなかったのだろうか。どうして里紗の母親は……。

 俺はやっぱり長谷川教授を許す事が出来ない!


 俺は今の自分に出来る全力で奴にぶつかる。その速度はこれまでの更に倍!簡単に鎖を躱して長谷川教授の元へと辿り着いた。目を見開く長谷川教授に向け攻撃を繰り出した。全力を持って長谷川教授をトンファーでぶっ飛ばす。殴って、殴って、殴りまくる。そして……。

「五十嵐!」

 叫ぶと同時に地面に叩き落とした。

「任せろ!」

 言うや否や五十嵐が駆けつけて、すでに起き上がろうとしている長谷川教授に巨大ハンマーを叩きつけた。五十嵐の一撃は今日一番の攻撃と言ってもいい程だった。驚く程の轟音と共に叩きつけた場所が爆発を起こして吹っ飛んだ。

 土煙が晴れた後には全身から血を流した長谷川教授が倒れていた。

 五十嵐は奴にゆっくりと近づいて、最後の宣告を行った。

「これで終わりだ」

「ま、て!た、のむ……。ころさ、な……」

 五十嵐は長谷川の言葉を最後まで聞く事なく槍を頭に突き刺した。

 長谷川教授を倒した後に残ったのは、ほんの僅かな達成感と、言いようのない虚しさだった。


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