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15.進んだ先で

 五十嵐との戦闘を終えた俺達は、これからの行動について話し合った。

 彼と会う前、学校へ近づくに連れて明らかに被害が大きくなっていた為、引き返そうとしていた。しかし本当にそれでいいのだろうか?確かに危険を事前に察知して距離を取る事が最善だろう。だが今この場所では、進むべきだと思った。その事に特に理由はない。ただ何となく逃げ出すようで嫌だったのだ。

「私も進むべきだと思う」

「どうして?」

「何となくだけど、進んだ方が良いような気がする」

 最後は少しだけ自信なさそうだ。どうやら不思議な事に二人とも同じような理由で進んだ方が良いと思っているらしい。

「もしかしたら五十嵐に闇属性の能力を使われたかもしれない」

「精神攻撃されたって事?」

「そう。簡単な思考誘導程度ならノーリスクで出来るだろ?」

「確かにそうだね。光属性の能力を覚えてたら対抗できるんだけど……」

「そればっかりは仕方ないって。これから頑張ろう」

 闇属性の能力は呪い等の強力なものから、思考誘導のような簡易的なものまで様々であるが、強力な能力を使う際にはリスクが付き纏う。人を呪わば穴二つなんて言葉があるが、まさにその通りなのだ。そしてそれに対抗できるのが唯一光属性の能力のみだ。光属性と言えば回復系のイメージがあるが、どうやら違うらしい。


「誘導されてるとして問題は何があるかだな」

「やめた方がいいかな?」

「難しいな。ただ五十嵐が俺達を殺すつもりならさっき会った時に殺されてたはずだよ」

「確かにそうだね。じゃあなんだろ?」

「考えられるのは、五十嵐が俺達に何かをやらせたくて進ませようとしているか、逆に俺達を何かから遠ざけようとしてるか、ってところかな」

「そっか。んー、そうだとすると現れたタイミングから考えて後者かな?」

「確かに引き返そうとしたタイミングで現れたな。あのタイミングは偶然じゃなかったって事か」

「うん、たぶんだけど。どうする?」

 俺達の選択肢は三つ。引き返すか、進むか、転移するかだ。だが引き返すのはやめた方が無難だろう。

「進んでみるか?」

「どうして?」

「さっきも言ったけど、五十嵐がその気になれば俺達はいつでも殺されるからかな。だったらやつの狙い通りに動いてやろうかと思って。どうかな?」

「洋一がそう思うなら、そうしよう。私は洋一について行くって決めたから」

 里紗が胸の前で両手を握りしめた。その姿が愛らしくて、こんな状況なのに自然と笑顔になってしまう。


 当初の予定通り学校へ向かって進んで行くと倒壊している家が増えてきた。さらには血の臭いや何かが焼けるような臭いが漂い始めた為、俺達は警戒を強くした。すると前方の瓦礫が崩れ、向こう側から鰐のモンスターが現れた。向こうもこちらの存在に気づいたらしく、獰猛な口を開けて威嚇している。鋭い歯の間からは涎が垂れており、完全にこちらを食料と見なしているようだった。

「俺がやる。里紗はそこで見てて」

「大丈夫なの?」

 心配そうな里紗の頭を撫でる。

「大丈夫。今日はまだ零に余裕があるし、こいつもある」

 俺は腰にある鉈を軽く叩いて見せ、留め具を外した。

「わかった。無理はしないでね」

「うん、ありがとう。行ってくる」

 俺は鉈を鞘から抜くと同時に鰐の横っ腹目掛けて高速で駆けた。零を込めた上に重力の能力で底上げされた鉈の一撃は、見事に鰐の腹を切り裂いた。ただリーチが短い為に致命傷には程遠いが、攻撃が通用するならこっちのものだ。

 鰐は苦痛な声を上げながら俺に向かって突撃してくる。しかし高速移動中の俺が簡単に捉えられるわけがなく、瓦礫へと激突した。昨日は余裕がなかったせいで無茶な戦い方をしてしまったが、高速移動を駆使して戦えば素手でも上手く勝てたかもしれない。

 俺は鰐相手に自分の動きを確認するように重力を制御して戦った。瓦礫が散乱しているせいで足場が悪いが、それは障壁を張る事で対応した。空中に障壁を張り始めた事で、立体的な動きが可能になり戦いの幅が広がりそうだ。


「これで終わりだ」

 全身を切り刻まれ血まみれになった鰐に止めを刺す。少し離れた所から重力球を打ち込んだ。散々切り刻んだ為に、鰐にそれを避けるだけの力は残されておらず、重力球は狙い通りに鰐の首元へと吸い込まれていった。


「お疲れ様」

 里紗がホッとした表情で迎えてくれた。俺自身、自分の力が通用する事がわかり随分とホッとしている。先ほど熊相手に無双した里紗を見て少しばかりの焦りを感じたが、これならば里紗のお荷物になってしまう心配はないだろう。


 再び先へ進もうとした時、遠くから悲鳴が聞こえてきた。俺と里紗は顔を見合わせすぐに駆け出した。

「洋一、先に行って」

 零で強化しているとはいえ、重力による加速が出来る俺と比べると里紗は遅い。

「でも……」

 だからと言って里紗を一人にするのには気が引けた。

「私は大丈夫だから。お願い、先に行って助けてあげて!」

 里紗の目は真剣だ。心配だからと言って過保護にし過ぎる訳にはいかないようだ。

「――わかった」

 俺は里紗に頷き、加速をした。


 悲鳴の出どころは、そこから瓦礫の山を二つ程超えた場所だった。俺が辿り着いた時、男が五人がかりで高校の制服を着ている女の子を押さえつけ、強引に洋服を破ろうとしている所だった。

「何してるんだ!?」

 俺が叫んだタイミングで女の子の着ているワイシャツのボタンが飛んだ。男達が一斉にこちらを向き、遅れて女の子が縋る様な目でこちらを見た。

「うるせーな!邪魔するんじゃねぇよ!」

 リーダーと思われる男が凄んで見せるがモンスターに比べたら何てことない。彼らは全員零を習得しているようだが、身体を覆っている零はリーダーらしき男以外は大した事はなさそうだ。

「へー。あんた零が使えるんだな。俺達の相手してくれよ。おい、やろうぜ」

「ああ、そうだな」

「いいねぇ。能力の実験台にしてやるよ」

 三人の男が前に出てきた。女性を羽交い絞めにしている男と、リーダーらしき男は高みの見物を決め込むようだ。

「洋一!」

 俺が踏み出そうとした時、後ろから里紗がやってきて俺の横に並ぶ。

 ヒュー!と男達の一人が口笛を吹いた。里紗を見て奴らの目の色が変わった。厭らしい目で里紗の全身をなめるように見ている。絶対に許さない。キレそうになるのを抑えて奴らを睨みつける。

「里紗、あの女の子を巻き込まないように羽交い絞めにしてる男に雷撃を撃てる?」

 男達に聞こえないように小声で話しかける。

「うん、やってみる」

 通常の電気と違い零で作り出したモノは使用者によってある程度の制御が可能になる。多少難しいかもしれないが、今の里紗なら女の子を巻き込まずに男だけを狙えるはずだ。

「頼む。詠唱の時間は俺が稼ぐから」

 とは言え俺に出来る事はそんなに多くない。息を吐き出すと同時に地面を蹴って高速で駆けた。


 一番前に出ていた男の腹に拳を叩き込む。男は後方に吹っ飛び一人を巻き込んで倒れた。俺は続けざまにすぐ近くにいる別の男に蹴りを入れてぶっ飛ばした。

 相手の出方を伺おうと一度足を止める。するとリーダーと思われる男から拍手があがった。

「お前なかなかやるなー。仲間になる気はないか?」

「なる訳ないだろ!」

 心底嫌そうに言ってやった。

「それは残念だ。じゃあ今度は俺の相手をしてもらおうか」

 同時に男が纏う零に力強さが増す。

「させるか」

 俺は瞬時に男の元へ高速で移動して拳を叩き込んだ。しかし僅かに相手の方が早かったらしく、大きな石によって防がれた。俺は一度距離をとって男を見る。

「残念だったな」

 不敵に笑う男の周りには大小様々の石が宙に浮いている。そしてそのうちの一つが後ろにいる里紗目掛けて放たれた。俺は急いでその射線上へと移動して石を叩き落とした。だが一息つく暇もなく次々と石の弾丸が殺到する。俺は並列思考と重力制御を駆使して大量の石の弾丸を叩き落としていった。

「洋一!逃げて!」

 何とか石の弾丸を凌ぎ切った時、里紗の声が聞こえた。

「え?」

 そして同時に何かに後頭部を殴られた。薄れゆく意識の中、石の弾丸を撃っていた男が厭らしく笑うのが見えた。


 里紗は俺が邪魔で撃てなかった雷撃を俺を襲った男に当てると、石の弾丸を撃った男を睨みつけた。

「おう、よくもやってくれたな!」

 男が石の弾丸を里紗に向かって打ち込む。里紗は障壁を使ってそれを防ぐが数発で破られ、足に被弾してしまった。その場に座り込んでしまった里紗に男はゆっくりと近づいていく。

「来ないで!」

「随分嫌われてるなー。でもすぐに良くなるから安心しろよ」

 里紗は這うようにして遠ざかろうとするが、当然男の方が早い。後、たったの数歩で男は里紗の元へ到達してしまう。


 絶対にさせない。

 俺は男の足を掴んだ。

「ちっ!まだ意識があったか」

 掴んでいない方の足で男に蹴られた。でも離さない。何度も何度も男は執拗に俺を蹴り続ける。男の足は俺の顔を狙って放たれるが、障壁と重力を駆使して何とか凌ぎ続ける。後ろから襲われた時、何をされたか知らないが身体が思うように動かない。多少の慢心や油断があったのかもしれない。こんな大事な時に何をやってるんだと、自分が嫌になる。しかし、だからこそ、こいつは離さない。俺がしっかり時間を稼げばきっと里紗がやってくれるから。

「いい加減、離れろ!」

 それまでよりも強力な蹴りが石の弾丸と共に放たれる。さすがに両方は防ぎきれず、石の弾丸が背中に当たった。

「やめてー!」

 叫び声と共に轟音が響き、里紗の最大出力の雷撃が男に直撃した。プスプスと煙を上げて男がゆっくりと倒れた。残された一人は女の子を盾にしようとしている。さすがにあれでは当てられないと思ったのか、里紗は先に俺の方へと近寄って来た。

「大丈夫?」

 里紗が俺を抱きしめ男に見えないようにして唇を重ねる。同時に治癒を発動して俺の身体は全快した。

「ありがとう」

 俺は立ち上がると同時に男の隣へと移動して力の乗った右ストレートを叩き込んだ。男に引きずられるようにして女の子が倒れそうになるのを支える。なんとか救出を成功させる事ができた。俺は安堵の息を吐くと、唖然としている女の子に笑いかけた。


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