表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

14.vs五十嵐

 十メートル程向こうでは、五十嵐が獰猛な笑みをこちらに向けている。

「里紗、大丈夫か?」

「うん。なんとか」

 ガタガタと震える里紗は立っているのがやっとの有様だ。

「俺が一人でやるから里紗はしっかりと防御しててね」

「ダメ!私もやる!」

「大丈夫だから。俺を信じてよ」

「でも……」

「大丈夫だよ」

「わかった……。でも約束して。絶対に死なないで」

「約束する」

 俺は里紗の頭を撫でてから前に進み出た。


「準備はいいかな?」

「出来れば、後一年程待って貰えるとありがたいんですけど?」

「それは出来ない相談かな。まぁ殺すつもりはないから安心してよ」

「わかりました。じゃあこっちから行きますね」

「いつでもいいよ」

 俺は大きく息を吐き出すと同時に五十嵐の元へと高速で移動した。


 先手必勝。こいつ相手に手加減なんて不要だろう。顎を狙って重量で何倍も威力の増した拳を叩き込もうとした瞬間、五十嵐がその場から消えた。

「転移ですか」

 俺は一度その場に止まり随分と遠くに離れた五十嵐を見る。

「そうだよ。石田君は随分と早いね。どんな能力なんだい?」

「教えると思いますか?」

「やっぱりダメか。じゃあ自分で調べる事にするよ」

 再び五十嵐が消える。同時に俺は嫌な予感がして、瞬時に地面を蹴ってその場を離れればドスンッという大きな音が響いて来た。振り向けば五十嵐が巨大なハンマーを振り降ろしていた。

「何が殺す気はないですか。どう見ても殺す気満々じゃないですか」

「そんな事ないさ。石田君なら躱してくれるって信じてたから」

 そしてまたしても五十嵐が消えた。ならばと今度は俺も転移を使用する。転移部屋から現在の様子を確認する。予想通り、俺の真後ろに転移した五十嵐が今度は槍を突き出そうとしている所だった。俺は二か所に設置したマーキングの内、自分に有利な方を選んで転移をした。

 転移した先は五十嵐の後方。僅かに距離があるが、高速で移動すれば一瞬だ。再度全力で殴り掛かるが、こちらの気配に気づいた五十嵐に転移で躱されてしまった。

「驚いたよ。まさか転移まで完全に使いこなしてるとはね。でもそれだけに勿体ないね」

「勿体ない?」

「そうだよ。石田君は人を殴った事ないだろ?零の操作技術はピカイチなだけに残念だよ」

「さっきも言ったように昨日まで一般人だったんだから仕方ないですよ。でも、こんな世界だから直ぐに慣れそうですけどね」

「確かにそうか。せっかくだから俺が戦い方を教えてあげよう」

 五十嵐はまたも転移でその場から消え、今度は俺の目の前に現れた。俺は自身にフィットするように展開していた重力球の形を変化させて、五十嵐を範囲内に巻き込んだ。

 人は突然、無重力になったらどうなるのだろうか?一瞬、呆けたような表情をした五十嵐を全力で殴り飛ばした。五十嵐は体制を崩しアスファルトの上を転がったが、途中でアクロバティックな動きを見せて見事に体勢を立て直していた。

「痛いなー」

 俺が全力で殴り飛ばしたはずの五十嵐は口元を僅かに切っているようだが、全くと言っていい程堪えていないように見える。

「全然痛そうに見えないんですが?」

「そんな事ないよ。正直油断してたよ。素人だと思ってたけどなかなかやるね」

「それはどうも。もう終わりますか?」

「いや、もう少しやろうか。今度は俺の力を少し見せてあげるよ」


 次の瞬間、腹に強烈な衝撃を受けた。殴られたと気づいたのは驚くほど高い所まで飛ばされた後だった。綺麗な弧を描くように飛ばされ、落下を始めるに至った時、俺はようやく状況を理解できたのだ。

 さすがに格好悪過ぎるな。この状況で頭に浮かんだのは、そんなくだらない事だった。俺は空中に作った障壁を利用して一回転し、何とか体制を立て直す事に成功。無事に着地する事ができた。

「いくらなんでも威力あり過ぎませんか?」

 重力空間と障壁を併用していなければ正直ヤバかった。腹の痛みを堪えながら五十嵐に文句を言った。

「そうゆう能力だからね。それにしてもよく堪えたね?今のは完全に意識を飛ばすつもりで殴ったんだけど」

「正直ギリギリでしたよ。可能なら今すぐ意識を飛ばしてしまいたいくらい痛いですしね」

「よく言うよ。でも石田君の能力は理解したよ。転移についてはさっぱりだけど驚異的なスピードの正体はわかった。まさか重力をそこまで器用に扱えるとは驚いたよ。零を取得して一年かそこらの人が使える力じゃない。石田君が手にした特別な能力は零の操作に関係する能力なのかな?」

「さぁ?どうでしょう?」

 俺はわざととぼけて見せる。能力について教える気はないのだ。

「それは残念。じゃあ俺の能力を教えるって言ってもダメかな?」

「はい、ダメです。それに五十嵐さんの能力については多少は、わかりましたからね」

「へー。それは凄い。何が分かったのか教えてよ」

「良いですよ。わかった能力は四つ。転移、使役、錬金、重力の属性を定着させた能力ですよね?それぞれの詳細も話しましょうか?」

 五十嵐は頷いて俺に話の続きを促してきた。

「まず転移はおそらく目に見える範囲限定で自由に飛べるんじゃないですか?さらに使役を使って、支配下においたモンスターの目を通じての転移も可能。ちなみに昨日は鰐のモンスターの目を通して俺の戦いを観察していた。ここまでは合ってますか?」

「正解だよ。続きをお願い出来るかな?」

「わかりました。次に錬金は見たままですが、盾、ハンマー、槍の三つ。もしくはそれ以上の数が登録されている。そしてそれぞれのサイズや形状を自在に変える事が出来ると思ってます。最後の重力ですが、俺の腹に入れた一撃がそうですよね?詳しい事はわかりませんが、使い慣れた能力に似たモノを感じたので合ってるはずです。いかがですか?」

 五十嵐はパチパチと数回、拍手をした。

「だいたいその通りだよ。なかなかやるね。因みに補足をするとすれば、錬金で登録させているのは全部で五つ。サイズはある程度自由に変えれるけど、形状までは変える事はできないよ。重力については石田君を真似て秘密とさせて貰おうかな」

 五十嵐は非常に楽しそうだ。


 彼の能力にある錬金は、自分が実体化したモノを事前に決めた範囲内で自由に変化させる事が出来るというものだ。通常、一つの増幅回路に付き一つしか属性を付けれないのと同様に、実体化できる物も一つに限られる。さらに何かを実体化した場合は、実体化した物を媒介にしなければ属性が使えなくなってしまう為、増幅回路の数だけ実体化するような事はしない。

 その為、複数の種類の武器を使いたい場合などは錬金の属性を定着させるのが一般的だ。さらに能力の性質上、他の属性との相性も良いので、増幅回路を結合するのに向いていたりする。


「さて十分に楽しませて貰ったし、そろそろ引き上げるとするよ」

「こちらは大して楽しくなかったですけどね」

「相変わらず冷たいねー」

「気のせいですよ」

「そういう事にしておくよ。まぁ死なないように頑張ってね。またねー」

 五十嵐は手を振りながら消えた。


「あー疲れたー」

 俺は道路のど真ん中に大の字で寝転がった。

「大丈夫!?」

 すぐに里紗が駆けて来て、俺の殴られた腹に手をあてると治癒能力を発動させた。暖かい光が俺を包み込み、腹の痛みを消し去ってくれる。今日は大した怪我ではないので十秒程で完治する事ができた。

「もう大丈夫。ありがとう。里紗こそ大丈夫?」

 俺は身体を起こして里紗を見る。

「うん、でも怖くて何も出来なかった」

「それは仕方ないよ」

「でも洋一はあんなに頑張ってた」

「完全に遊ばれてたけどね」

「そうかもしれないけど……」

 里紗が俯く。

「どうした?」

「あいつが使役してたモンスターのせいでお母さんが死んじゃったのに、何も出来なかった」

「モンスターは里紗が倒しただろ?」

「そうだけど……。元を正せばあいつのせいなのに……。ねぇ洋一」

「ん?」

「私、強くなりたい!強くなってあいつを思いっきり殴ってやりたい!」

 里紗が真っ直ぐに俺を見る。その眼にはかつてない程強い意志を感じられた。

 殺してやりたい!そんな言葉が出なかった事に俺は内心で安堵していた。俺の目の前にいる女の子は強くて優しい。

「わかった。一緒に頑張ろう」

「うん」

 変わってしまったこの世界で、俺達は互いに強くなる決意を交わした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ