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13.再開、そして

 安全な場所を探して近くの学校を目指して歩いてるわけだが、学校に近づくにつれて血の跡や壊れた家が目立つようになってきた。

「引き返した方が良さそうだな」

「うん……」

 血の跡を見て昨日の事を思い出してしまったのだろうか。震える声で答える里紗の顔から僅かに血の気が引いているように思えた。

「よし、それじゃあ戻ろ……」

 後ろを振り向いたまま思わず固まってしまった。俺達の十数メートル程先では、巨大な熊のモンスターがこちらを威嚇していたのだ。熊のモンスターの肩の辺りには見覚えのある傷があった。ほぼ間違いなく、昨日里紗の母親を襲ったやつだ。全力でブッ飛ばしてやりたいと思った。

「里紗」

「ねぇあいつって昨日の熊だよね?」

「ああ」

「私にやらせて」

「大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫!私にお母さんの仇を討たせて!」

 涙目ではあるが力強い声で里紗は答えた。里紗は俺が頷くとすぐに呪文の詠唱を始めた。パイプを両手に持つ姿はまるで、杖を持つ魔法使いのようだ。

 バチバチと音を立てながら里紗の周りに電気が集まっていく。集まった電気はまるで巨大な一匹の蛇のようだ。里紗の詠唱が終わると同時に蛇が大きく口を開けて熊に向かって飛びかかって行った。熊はそれに危険を感じて避けようとするが、すでに遅い。里紗が作り出した電気の蛇は飛び出したら最後、獲物に食いつくまで追いかけ続けるのだ。


 見事獲物を捕まえた蛇は熊の胴体に喰い付き、電気の身体を絡ませる。熊は悲痛な叫び声を上げてのたうち回る。そこにさらに追い打ちをかけるように、里紗が電気を圧縮した球体をいくつもぶつける。

 何度も何度も何度も何度も……。

 しばらくして熊は動かなくなった。昨日あれだけ脅威に感じた熊のモンスターが実に呆気なく死んでしまった。里紗の方を見る。里紗は倒した事に気づいていないのか、未だに攻撃をやめる気配がない。零を使い過ぎている為に苦しそうに肩で息をしているのに、攻撃の手を緩めない。

「里紗」

 呼びかけても止まらない。

「里紗!」

 大声で呼んでも何も聞こえていないかのように。里紗の眼には一体何が映っているのだろうか。里紗の耳には一体何が聞こえているのだろうか。涙で顔をぐしゃぐしゃにして、それでも攻撃を止めない。

「里紗!もう大丈夫だから!」

 肩を揺すっても里紗は止まらない。巨大な熊だった物は焼け焦げて一部が炭化してしまっている。

「おい里紗!しっかりしろ!もう終わったから!あいつはもう死んでいる」

 必死で呼びかけ後ろから里紗を力いっぱい抱きしめる。俺の腕を里紗が握りしめた。

「倒したの?」

「そうだよ。里紗が倒したんだ」

「本当に?」

「本当だよ」

「そっか。やったんだ」

 ガクリと里紗から力が抜けた。里紗の手から離れたパイプが地面に転がりカランカランと音を響かせる。俺は里紗が倒れてしまわないように必死で支え、ゆっくりとその場に座らせた。

「良く頑張ったね」

 優しく頭を撫でる。

「うん。やった。やったんだ。お母さん……仇を討ったからね。おかあさん……」

 堰を切ったように泣き出した里紗は、まるで小さな子供のように大声で泣き叫んだ。何度も何度も「お母さん」と、母親を呼び続ける里紗を俺はただただ抱きしめる事しか出来なかった。


「ありがとう」

 落ち着きを取り戻した里紗が目を真っ赤にして俺を見る。

「良く頑張ったね」

「うん。もう大丈夫だから」

 散々泣いたせいで腫れしまっている里紗の眼には、先ほどまでとは違い確かな力強さが宿っていた。


 さて、ここからが本番だ。俺は里紗と共に立ち上がると熊の向こう側を睨みつける。

「いつまで隠れてるんですか?」

「え?」

 里紗が驚いた顔でこちらを見る。

「おや?バレてたのか。どうしてわかったんだい?」

 そう言って脇道から出てきたのは昨日の盾の男だった。

「こんな所でこいつに出会うなんて不自然過ぎますから」

 俺は熊のモンスターを顎で示した。

「確かにそうだよね」

 男は何が面白いのかニヤニヤと笑っている。

「覗きとはいい趣味ですね?」

「申し訳ない。すぐに出て行こうと思ったんだけどね。タイミングを逃してしまって」

 男はポリポリと首を掻いた。

「それで何が目的ですか?」

「ただの気まぐれだよ。昨日あの状況で生き残ったみたいだから、ご褒美に仇討ちをさせてあげたのさ」

「どうゆう事!?」

「里紗!」

 俺は里紗の腕を掴んだ。

「元気のいいお嬢さんだね。彼女も零を使えるみたいだし、二人で俺達の仲間になる気はないかな?」

「昨日も言ったけど、お断りさせていただきます」

「それは残念。じゃあ代わりに質問に答えてくれるかな?」

 男は地面に転がる熊の死体を蹴っている。

「こちらの質問にも答えてくれるなら、出来るだけ答えますよ」

 男は腕を組み頷いた。

「おーけい。なら、お互いに一つずつ質問をするってのはどうかな?」

「良いですよ」

「ありがとう。まずは君の名前を教えて貰えるかな?」

「石田洋一。あんたの名前は?」

「石田君か。宜しく。俺の名前は五十嵐淳だよ」

「出来れば、あまり仲良くしたくはないんですがね。それで五十嵐さんは何が聞きたいんですか?」

 チラリと隣を見れば里紗は真っ直ぐに五十嵐を睨みつけている。

「冷たいなー。まぁいいか。石田君、君は一体何者だい?」

「昨日まではどこにでもいる普通のサラリーマンでした。何が聞きたいんですか?」

「そうか、聞き方を変えよう。いつ零を習得した?君の零の操作技術は開発当初に修得した我々と同等かそれ以上だ。だとすれば、我々が薬をばら撒くよりも早くそれを手にしていた事になる。そんな事は一般人では不可能なはずなんだ。君は一体何者だい?」

 そうゆう事か。おそらく昨日の鰐との戦いを見られていたのだろう。

「一年前にバラ撒かれた薬を飲んだ一般人ですよ。操作技術に関しては特別な能力のおかげです。能力の詳細は答えられません」

 男は何か考えているのだろう。僅かに沈黙が流れる。

「なるほど。そうゆう事もあるか。確かに零の総量は修得して一年にしては多いが、我々と同時期だとしたら随分と少ない気がするな。じゃあ今度は石田君の番だよ」

「五十嵐さん達は何をしようとしてるんですか?」

 五十嵐はニヤリと笑った。

「革命。それだと足りないか。俺達は理想の世界を創りたいんだよ」

「理想の世界?」

「そう理想の世界。今の世界は窮屈で生きづらいと思わないかい?俺達はそんな世界を変えたいんだ。漫画や小説のように自由で刺激的な世界を創りたいと思っている。一緒に世界を変えるつもりはないかい?」

 革命?ふざけるな。そんな理由で一体どれだけの人を殺しているんだ!叫びたい気持ちをグッと抑え込む。

「何度も言ってるけど仲間にはなりません。理想の世界を創る為なら人を殺してもいいと?」

「それに関しては申し訳なく思ってるよ。でも仕方ないんだ。革命には犠牲が必要だったんだよ」

「そうですか。やっぱり賛同出来そうにありません」

「それは残念。じゃあ今度は俺の番だね。と言いたい所だけど実は石田君の零の操作技術が凄かったから、その理由を知りたかっただけなんだ。もうこっちから聞きたい事はないんだけど、せっかくだから他にもいくつか答えてあげるよ。何か聞きたい事はあるかな?」

 完全になめられている。しかしその方が都合が良い。

「その熊は五十嵐さんのペットなんですよね?」

「うん、そうだよ」

「人を襲うように指示を出したって事ですか?」

 里紗の眼に鋭さが増した。

「そんな事はしてないよ。彼らは元々狂暴に造られているんだ。俺はただ好きにするように伝えただけ」

「そうですか。このままだと世界を変える前に人類が滅亡し兼ねないけどそれは良いんですか?」

「その辺は上手く調整するよ。元々無駄に人口が多かったからね。とりあえず三分の一くらいまでは減らす予定だよ」

 平気な顔でそんな事を言ってのける。こいつは異常だ。

「その後は?」

「長谷川を王にでも祭り上げて我々で世界を統治するんだよ」

「王ですか。今の時点ですでに魔王様じゃないんですか?」

 五十嵐は溜息を吐いた。

「魔王ねー。正直あの発言には俺もひいたよ」

「魔王の部下も大変ですね。それで日本だけじゃなくて世界中を支配するつもりですか?」

「ほんとに大変だよ。まぁでも世界を支配する予定だよ。仲間は世界中にいるからね」

 随分と壮大な計画だ。失敗すればいいのに。

「一体どれくらい仲間がいるんですか?」

「さあ?少なくても日本だけでも軽く千人は超えるよ。もちろん全員が零を習得している」

「なるほど。俺達を勧誘したって事は、そうやって人数を増やし続けてるって事ですか?」

「その通り。条件は零を習得していて我々に賛同してくれる事だからね。もっと増えるはずだよ」

 厄介な話だ。

「そうか。じゃあ五十嵐さん、あなた個人は何をしたいんですか?」

 五十嵐の眼がスッと細められる。

「どうゆう意味かな?」

「そのままの意味ですよ。組織の目的と個人の目的が必ずしも一致しているとは限らないと思いまして」

「随分と鋭いんだね。でもそれに関しては秘密だ。命が惜しければあまり深入りしない方がいい」

「わかりました。他の質問をしても良いですか?」

「良いよ。と言いたい所だけど時間切れだ」

「それは残念です」

「それじゃあ石田君、いろいろと質問に答えてあげたわけだから、こっちのお願いを聞いて貰えるかな?」

「それってズルくないですか?けどまぁ内容によりますね」

「大した事じゃないよ。俺と戦って貰いたいってだけだよ」

 直後、五十嵐から濃密な零が溢れ出す。俺の全身を嫌な汗が流れる。里紗の方を見れば両腕で自らの身体を抱きしめるようにしてガチガチと歯を鳴らしている。

「拒否権は……なさそうですね?」

「残念ながらね」

 五十嵐が獰猛に笑った。


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