あの方のために私が出来ること
以前書いた『濡れ衣を~』の中に登場したセシル・アイゲンのお話。
かるーく読み流してください。
キャラ設定を再構築している時にふと思いついただけの話なので……
if物語的なものだと思ってください。
「なにをなさっているのかしら?」
凛とした声が響いた。
私を取り囲んでいた人たちが一斉に声の主に振り返り顔を青ざめた。
「何をなさっているのかと伺っているのですが、お答えいただけないのですか?それとも私の言葉を理解できませんか?」
言葉はやんわりとだけど声に込められた強さは大人も逃げ出すような凛とした気高いモノ。
声の主は私の傍に来ると、ドレスの裾が汚れることも気にせずしゃがみ込み私に手を差し伸べてくださった。
「大丈夫?」
「は、はい。だ、だいじょうぶ……」
「…ではありませんわね。こんなにびしょ濡れになって……風邪をひいてしまいますわね」
声の主は私の手を取り立ち上がらせると、火と風の魔力でびしょ濡れになった私のドレス等を瞬間的に乾かしてくださいました。
そして私を取り囲んでいた人達に視線を向けると
「一人に対して多数、ましてやひ弱な女の子に水を掛け、罵詈雑言を投げ掛けるなんて紳士の風上にも置けない方達ですのね。私が通りかからなかったらさらにエスカレートしていたでしょうね」
「で、ですが……」
取り囲んでいた人たちの中の一人がおずおずと声を出すと
「なんですの?まさか、自分と違う見かけ…この国では珍しい漆黒の髪と瞳の色を持っているから気味悪いとかほざくんじゃないでしょうね」
「!?」
なにやら令嬢らしからぬ言葉が紡がれたような……
その場にいた全員が自分の耳を疑っているような表情を浮かべました。
「嘆かわしい限りですわね。伯爵家や子爵家の跡取りだという方達がこんなことを為さるなんて。父君たちから教えられていないのですか?常に、女性には優しく接しろと……まあ、こんなことをなさるご家庭ですからされていないとみなす方が妥当ですわね。今日の事は先生を通じでご両親にも通達していただきます」
「そ、それだけは……それだけはお許しください。キャロライン様!」
必死にすがる者達に声の主…キャロライン・ファルディア侯爵令嬢は冷たい視線を向けた。
「ムリですわね」
「え?」
「だって、かなり前から警備用移動式魔写機がずっとこの場を録画しておりますもの。あの移動式魔写機はこのようなイジメの現場を証拠として残すために開発されたもの。私もあの魔写機がずっとここに留まっていたから不審に思って足を運んだのですわ。ここで行われていたことは先生たちもすでに把握していらっしゃるから動いていらっしゃるでしょう。ちなみに保存された映像は未来永劫残ります。録画された映像は何時でもだれでもこの学園の関係者なら見れます。いまさら取り消すことなんてできないことぐらいこの学園の生徒なら誰もが知っていることですわ。だからわが校は他学校に比べてイジメが少ないんです。1年の時に授業で習ったでしょう」
キャロライン様の言葉に私を取り囲んでいた男の子たちが顔が真っ白になった。
「あ、あの……キャロライン様」
「なあに?セシル様」
男の子たちに向ける視線とは真逆の優しい笑みを浮かべられるキャロライン様にしばし見惚れてしまいました。
「セシル様?」
「はっ!?あの……今日の事は……」
「見なかったことにして欲しいという願いは聞きませんわ」
「え?」
「私はね、自分より弱い者をいじめる人は大っ嫌いなんです。ましてやたった一人の女性を大勢の男性が群がっていじめるなんて許せませんわ!」
キャロライン様の言葉に男の子たちは絶望的だと喚きながら逃げようとしていつの間にか来ていた先生たちに連行されていった。
後日、私をいじめていた男の子たちの親たちが土下座をして私とキャロライン様に謝りに来ましたが、キャロライン様は『本人たちに反省の色が見えない限り付き合いは遠慮します』と絶縁宣言しておりました。
その後、彼等の姿を学園内…王都で見かけた人はいないらしい。
それが、私とキャロライン・ファルディア様が親しくなる切っ掛けでした。
あの日以来、キャロライン様は私によく声を掛けてくださいます。
貴族社会で上位にいらっしゃる侯爵様の御令嬢であるキャロライン様が子爵令嬢である私にお声を掛けてくださる事は大変名誉な事で、周りからは嫉妬の視線を時々受けます。
キャロライン様は私達女子の憧れの方です。
誰もがキャロライン様のおそばに近づきたいと思っておりますが、キャロライン様は皆に平等に接しますが、決して親しいご友人を作るということはされていませんでした。
その理由は『親の地位や私の見かけだけですり寄ってくる方達ばかりですもの。お父様とお兄様が溺愛している娘(妹)という色眼鏡なしで見てくれる方以外とは必要以上に親しくなりたくないわ』と事らしいです。
そんなある日、キャロライン様が私に相談があるとおっしゃいました。
「ねえ、セシル。どうやったらこの婚約をなかった事にできるかしら……あなたの力でヒントを頂戴」
先日、キャロライン様が第二王子と婚約されたことは国中が知っております。
なんでも第二王子が熱心に父王に強請ったそうです。
キャロライン様には相思相愛の婚約間近の方がいらっしゃったのですが身分的に逆らえるわけもなく、いやいや婚約なさったとこぼされておりました。
私には生まれながらに持っている力があります。
『予知力』といって未来の一部を見ることが出来ます。
『予知力』はカードを使って占いという形で見ることが出来ます。
私にははっきりとカードを通して映像が見えるのですが、他人から見たらカードを見ているだけのように見えるみたいです。
最近は、クラスメートの女の子からよく恋愛占いを頼まれます。
今迄外れたことがないので信憑性が高いということで多くの方に支持されるようになりました。
以前は、この国では珍しい漆黒の髪と瞳が神話に出てくる『破壊の魔女』に似ているという事とこの『予知力』のせい(『破壊の魔女』も『予知力』を持っていたと言われているの)でいじめにあっていたのですが……
「……わかりました。占ってみます」
私は鞄の中からカードを取り出し机の上に置き魔力を右手に集中させました。
「あ、セシル。結果は紙に書いて頂戴」
「わかりました」
カードに右手をかざすと私の魔力がカードを包み込み数枚のカードが宙に浮いた。
カードを見つめると映像がはっきりと浮かび上がってきます。
あら?これは……
映像が途切れるとカードは自動的に元に戻ります。
「セシル?」
不安顔のキャロライン様に私はにっこりと微笑んで
「必要以上に親しくならなければ婚約は解消できますわ」
「え?」
私は手元にある手帳に先ほど見た映像をこと細かく書き記しキャロライン様に渡した。
「私が見たのは今から数年後、キャロライン様が15歳になられた時の映像です。詳しくはその紙に書きましたが、キャロライン様が公式の場以外で殿下達と接触しなければちょっと騒動は起きますが、相手側から破棄を申し出ますわ」
メモを見たキャロライン様は不安な表情を一掃しとても素敵な笑みを浮かべています。
「ありがとう、セシル」
「いいえ、キャロライン様のお役に立てたのなら嬉しいですわ」
「セシルは私の自慢の親友よ。あ、今日のクッキーもセシルの手作り?」
「はい、南国のフルーツを乾燥させたモノを混ぜてみました」
私の手作りお菓子は今では侯爵家の皆様がお気に召したようで月に一度お届けしております。
子爵家の娘の手作りをお菓子を召し上がる侯爵様たち……おいそれと失敗は出来ませんわ。
侯爵家に届けるモノは我が家全員で試食して吟味に吟味を重ねたモノのみです。
失敗作など差し上げられません。
ちなみに私の作るお菓子のレシピは菓子職人がお金を積んでもほしいと言われているそうですが無償で差し上げています。(レシピを管理している者が)
小娘が作るお菓子よりも玄人が作った方がおいしいのだから当然です。
それに菓子職人たちは改良に改良を重ねてくれますので……私では作れない美味なお菓子を最終的には作ってくれます。
現在王都で人気のお菓子が私が考案したレシピだと知っているのはファルディア侯爵様一家とアイゲン子爵家と子爵家が援助している製菓屋の主(レシピを管理してくれている人でもある)だけだったりします。
「みんな見かけだけで判断するんだもの。勿体ないわ。こんなに美味しいお菓子も作れるし、刺繍も複雑なものをササッと縫っちゃうし、ダンスだって軽やかにこなすし、魔術も息を吸うように扱う事が出来るのに…それにこの漆黒の髪だって太陽の光に当ると天使様の輪みたいにキラキラと輝いてきれいなのに……」
「勿体ないお言葉です」
「ねえ、セシル」
「はい?」
ニヤリと口元を引き上げるキャロライン様。
この笑みを浮かべる時は要注意……だけど、逃げられない。
「明日の王妃様と王女殿下主催のお茶会、一緒に行きましょうね♪」
「む、無理です。私の家は子爵家で参加資格がありません」
「大丈夫よ。王妃様と王女殿下には私の大切な親友を連れて行くって伝えてあるもの」
「そ、それにドレスが……」
「それも大丈夫。私のを貸してあげるわ。あ、色違いのお揃いにしましょう♪」
先ほどまでの憂い顔はどこへやら……
今にもスキップしそうな勢いなキャロライン様に衣裳部屋に連れて行かれ正味2時間ほど着せ替え人形となったのはいい思い出です。
***
あれから十数年。
キャロライン様は隣国のフォレスト王国に住まいを移し、愛しい方との新しい家族を築いております。
数年前、元婚約者である第二王子から一方的な婚約破棄を申し付けられ、傷ついた心を少しでも癒すためにと一時期フォレスト王国に留学されていたキャロライン様。
その時、フォレスト王国で運命的な出会いがあったそうです。
正式に第二王子との婚約を破棄されたキャロライン様は嬉しそうに私に報告してくださいました。
「あのね…お慕いしている方がいるの。セシル、私に勇気を頂戴」
美しい顔を真っ赤にさせて若干潤んだ瞳で見つめられたら…頷くしかありませんよね。
もう恋する乙女全開のキャロライン様は殺人級に可愛らしいのです!
私が男だったら嫁に欲しいくらいに!
周りに誰もいなくてよかったと思いましたよ。
あの殺人級に可愛らしいお顔を男性陣に見られたらキャロライン様の幸せは遅くなっていたことでしょう。
私はキャロライン様とその方の『未来』を垣間見て若干後悔しました。
いえ、結ばれないという未来にという意味ではなく……
周囲が砂…砂糖を吐きまくるほどのラブラブな未来が見えてしまったのです。
だから、私はあえてそのことは告げずに
「いくつかの困難が待ち構えているかと思いますが、キャロライン様が想い続ければきっと近い未来、想いは届きます」
とだけ伝えました。
ええ、『困難=わが国のお腹の中が真っ黒な王太子』さえ退ければキャロライン様の未来は明るいのです。
私も微力ながらキャロライン様の『幸せな甘々な(周りが砂糖だらけになる)未来』の為にこの力を使いましょう。
全ては私を日の当たる場所に導いてくださったキャロライン様の為に!
でも、幸せな未来を手に入れたら人前でイチャつくのは控えていただけると助かります。
独り身にはつらいです……キャロライン様……(涙)
『濡れ衣を~』の連載用にキャラ設定等を再構築中に浮かんだお話です。
連載版に組込むことはたぶんないかと…(違う設定になる可能性ありなので)
何気にチートなセシル・アイゲンちゃんです。
彼女の一族は子爵と地位は低い方ですが、有名学者や魔術師等を輩出しているちょっとした有名な一族だったりします。
出世欲がないので子爵止まりという設定もあります。
彼女が苦手なのは音楽です。
究極の音痴だと本人は思っておりますが実はかなりの美しい歌声の持ち主。
普段無口なので気づく人は少ないがキャロラインと一緒に時々歌うことがあったりするので、キャロラインに近い人は気づいている。
ここら辺の設定を使うかどうかは…もうしばらく構想を練ることにします(笑)